平野啓一郎

Profile

1975年6月22日、愛知県蒲郡市生。京都大学法学部卒業。大学在学中に発表した『日蝕』で第120回芥川賞を受賞。小説作品は『葬送』、『滴り落ちる時計たちの波紋』、『顔のない裸体たち』、『あなたが、いなかった、あなた』、『決壊』、『ドーン』など。他に新書『本の読み方 スロー・リーディングの実践』、『マイルス・デイヴィスとは誰か』(共著)などがある。近著に『私とは何か――「個人」から「分人」へ』、『空白を満たしなさい』(ともに講談社)がある。
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文学の情報を、10万人に発信できる環境作りを


――今後の展望、取り組みについてお聞かせいただけますか?


平野啓一郎氏: 僕は今年から、40代、50代以下の作家や文学者たちと一緒に、「飯田橋文学会」っていう集まりを始めたんです。2ヶ月に1回、例会を開いています。たまたま、飯田橋界隈で集まってるから、そんな名前なんですが。今、本当に良い仕事をしている人たちが個々バラバラな一方で、チャラチャラした人間がメディアなどにもてはやされたりする。それは良くない。本当に面白い仕事をしている人たちが、とにかく定期的に会ってお互いの仕事を理解し合うところから始めて、いずれはホームページを作って、そこで行われていることを発信していこうと思っているんです。僕はね、文学に関する情報が、常に10万人くらいの人にリーチしてる実感が得られるといいなってイメージしてるんです。本もね、やはりこのご時世でも、10万部売れたらいいなっていうのは、いつもあるんです。最低でも1万部は切っちゃいけないと思いますし、3万~5万部売れながら、何かがあれば10万部っていうところが、僕にとっては一番理想的な環境です。逆にそれ以上は、運任せしかない。だから少なくとも情報だけでも10万人くらいにリーチした方がいいと思う。ただ、文学関係のメディアは、「新潮」でも1万部行くか行かないかですし、一人一人がTwitterやFacebookをしても、10万人フォロワーがいる人ってほとんどいない。1人で10万人リーチするようなメディアになろうと思うと、なかなか難しい。

――そうかもしれないですね。


平野啓一郎氏: 僕のフォロワーは今4万人弱くらいで、ゆくゆくは5万人くらいになったらいいなと思っているんです。だから僕が考えたのは、僕の会に集まってくる人たちが、それぞれ1万人、数千人でもフォロワーがいるとして、合計して10万人になればそれでいい。例えば僕が本を出して、その会員の人たちが皆、僕が本を出したことを発信する。すると結果的に10万人にリーチをする。まあ、みんなが見てくれればの話ですけど。別のメンバーが本を出したり講演する時には僕がつぶやけば、その人自身のフォロワーが数千人でも、僕のフォロワーだけでも4万人には届く。そういう風に、10万人規模のところにリーチする集団を集めて、ここに情報を投げ込めば10万人に届くようにしたい。今、雑誌でも10万部売れないものはたくさんありますから、定期的に10万人に届くというのが数字として見えている集団になれば、結構影響力があると思うんです。そういうところから一般の人との文学のアクセスをよくして、その上で本当に重要なこと、こういう仕事をしているっていうことを、そこに載せていくのが大事じゃないかなと思っています。そうすると、すごく地道な、価値のある研究書でも、10万の人に報告出来る。それを、今考えています。もちろん、きれい事で「文学振興のため!」とか、そんなんじゃなくて、結局は自分のためだと思ってます。やはり僕の本を読んでもらいたいし、僕がいいと思っている人たちの本を読んでもらいたい。参加者はそれぞれに、そういうつもりです。そのための環境整備です。



――海外へ向けての活動についてお聞きしたいのですが、谷崎潤一郎の翻訳で知られるポーランド・ワルシャワ大学のミコワイ・メラノヴィッチ教授は、平野さんの著書を全て日本語で読まれているとか。


平野啓一郎氏: 僕は彼と個人的にコンタクトを取っているんです。今、ポーランドでは日本文学がほとんど訳されなくなっていますが、それを復活させようとしているんです。ポーランドだけではなく、フランスや韓国、アラビア語圏など、いくつかの国でやっています。ちょっとずつですが、確実に前進しています。今まで、日本文学はあまりにも殿様商売で、それぞれの国の研究者が興味を持って訳したいと言ってきたら、あ、そう、どうぞっていうような感じでした。でも、そんなことをやっている間に、日本文学はどんどん読まれなくなってきている。そういうのはダメだと思うんですよね。僕は翻訳家の人たちをよく知っているんですが、彼らはすごく純粋な気持ちで日本文学を好きなんです。儲かるというわけでもないのに、一生懸命翻訳してきたんです。でも、そういう翻訳家が例えば日本に来て滞在する時に、出版社の人たちがホテルを世話したり、飯でもおごってやるかっていうと、そんなこともなくて、もうほったらかしですよ。

――それは、大きな損失ですね。


平野啓一郎氏: お金を出して翻訳させるとかっていうプロジェクトは、それはそれで大事ですが、彼らはお金のためだけでなく、日本文学が好きでやっている。そういう人たちを、日本の文学シーンに巻き込んでいくことが重要。今、海外で翻訳してくれている人たちは、必ずしも大事にされてない。自分が翻訳している本の作家に、実は一度も会ったこともないとかね。僕はそういうの、凄く胸が痛むんですよ。それじゃあ、一生懸命日本文学のすばらしさを伝えていても、むなしいじゃないですか。読者から、原作者ってどんな人ですかとか質問されても、「知りません、会ったことないですから。」って、やっぱり言わせちゃいけない。だから、まずはせめて、日本の作家との交流の場くらいは作らなきゃいけない。飯田橋文学会は、ドメスティックな集まりだけじゃなくて、海外との交流の場にもしようと思っているんです。既に、翻訳家などにも、積極的に参加してもらってます。とても好評です。忘れられない思い出を作って帰ってもらおうみたいな。その後も勿論、メールその他でコンタクトをとり続けています。そういうのが、文学の未来じゃないですか?

(聞き手:沖中幸太郎)

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