デジタルビデオで「日本」をアーカイブ化
――現在は、組織がなくてもジャーナリスティックな活動をするためのメディアがそろっていますが、今の若い人に、どのような表現活動を勧めますか?
前坂俊之氏: 個人のビデオジャーナリストがどんどん増えればいいと思っています。それに広告さえ載せれば何とか回していけます。戦場のビデオジャーナリストというほどではなくても、旅番組のように海外にどんどん遊びに行かせればいいんです。今も私の学生が5、6人世界を放浪しているから、その連中にある程度金を払って、撮影しまくったら行けると思うんですよね。キャスターもどういうしゃべりかたでもいいんですよ。文章を書くときでも、専門家じゃなくても素人のほうが面白いんですから。今やパックツアーで中国でもあらゆる場所に行っているから、撮影したものを集めて作っていけば需要というのはあると思います。ただ、日本のデジタル社会は匿名社会で、ブログでも匿名中心になっていますよね。海外ではブログもホームページも実名を出してやっています。匿名で誹謗中傷した人間が逮捕されたりといった事件がありますが、陰湿ないじめ社会をネット社会がますます助長していく面があるのは気になります。
――前坂さんご自身が現在作っている動画など、今後のお仕事の展開をお聞かせください。
前坂俊之氏: ハイビジョンビデオで日本人の生活ぶり、暮らしぶり、街並み、自然等を観察して撮影していけば壮大なアーカイブができますので、それを個人的にやっています。
柳田国男は「常民」という農民生活者の人々の暮らしぶりや伝統を活字によって膨大な資料にしました。宮本常一は瀬戸内海を中心にして漁民、農民の生活を泊まり込みで酒を読みながらじっくり話を聞いて、それを文字にして全50巻ぐらいに残しています。それと同じ方法論です。あとは、来年の6月に鎌倉が世界文化遺産に登録されます。これはもう文化庁の情報で登録決定なんですが、観光客が鎌倉に来ますから、今年の初めから鎌倉の自然、神社仏閣、歴史、街並みから天気など、何でもかんでも1日最低10本ぐらい撮影してアップしています。鎌倉関係だけで1000本ぐらい発信しようとしていて、You Tubeに英語のキャプションで、武士とは何で、どうやって生まれたかとか、鎌倉時代の権力構造とか、鶴岡八幡宮に関してなどを書いています。日本の観光政策の最大の間違いは、土産物、買い物ばかりにこだわっていることです。もっと情報を出さないといけません。京都もYou Tubeに画像とキャプションをしっかり書いたものがない。それは政策としてやっていないからです。観光客もYou Tubeを最初に検索しますからね。
取材場所:日本記者クラブ
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 前坂俊之 』