本の在り方は、これから未知の領域へ広がっていく
新刊『自分磨きはもう卒業!がんばらずに、ぐんぐん幸運を引き寄せる方法』(PHP研究所)が、発売から1カ月で5万部を突破した鈴木真奈美さん。上智大学卒業後、キヤノンに入社。役員秘書を経て、組織風土改革コンサルティング部門で幹部コンサルタントの育成研修講師やコーチングを担当した。「人の中に眠る可能性や輝き」を引き出すサポートをしたいと、2010年独立。2012年7月、「もし地球がひとつの家族だとしたら」というビジョンのもと、株式会社地球ファミリーを設立した。全ての人が持っているはずの「使命」や「魅力」を引き出すことをライフワークとし、精力的に活動する鈴木さんに、話題の新刊、心を打った本との出会い、これからの本の在り方など、お聞きしました。
人は誰でも、幸せになれる力を持っている
――7月12日に新刊を出版されました。近況をお聞かせいただけますか?
鈴木真奈美氏: 「もし地球がひとつの家族だとしたら」というビジョンのもと、7月に株式会社地球ファミリーを立ち上げ、ほぼ同時期に本を出版させていただきました。今はワークショップや講演活動を中心に、活動させていただいています。
――今回の本を書き上げた経緯を教えてください。
鈴木真奈美氏: 東日本大震災が起きて、自分の使命や生まれてきた意味を考える人がすごく増えてきたと思うんです。自分の使命は何か、誰かに依存したり人目を気にして、「自分軸」が揺らいでいる方が多い。そのあたりのことをテーマにしたいと思いまして。
――書き上げるまでに、どのくらいかかりましたか?
鈴木真奈美氏: PHPさんにご縁をいただいてから形になるまでは半年くらいだったと思います。
――書かれてみて、ご苦労や楽しかったことはありましたか?
鈴木真奈美氏: 本を書くのがこんなに大変だとは正直、思っていなかったです。文章を書くのは昔から好きでしたが、どんな表現ならば読者に、より入っていくんだろうと意識すると、構成ひとつで全く変わってくるので。
――読者へどの様なメッセージを伝えたいですか。
鈴木真奈美氏: 私は、人は誰でも、もともと幸せになれる力を持っていると思うんです。それぞれが持っている役割や使命があるのに、それに気がつかず、もっと頑張らなければ欲しいものが得られないとか、もっと磨かなければいけないとか、自分がまだ足りないという前提で頑張り過ぎている人が多い。でも、もともと全ての力を持っているので、そこに許可を出してあげて、本当の自分で生きていくと、道っていくらでも開けていくと思うんです。
――だからタイトルは「頑張らずに」なんですね。
鈴木真奈美氏: そうなんです。でもそれは、怠けていいということではないんです。自分の居場所で自分ができることを、心を込めてやったり、周りの人を大事にしたりする。そうすれば、世の中は自然と調和して、結果もうまくいかないわけがない。それが、人が持っている、もともとの力じゃないかなと思うんです。
――何か足りないから頑張るのではなく、既に自分の内面にあるものを再発見していくということですね。
鈴木真奈美氏: 例えば、人に対して「ありがとう」とか「お疲れさま」って声をかけることは、もともと持っている力ですが、使っていない人が多い。そういうものを、どんどん意識して使っていくと、自分の持っているものが全面に出て、活力になっていくんじゃないかなと思います。
もっと自分の人生を生きてみたい
――2010年にキヤノンから独立されました。きっかけは何ですか?
鈴木真奈美氏: キヤノンに勤めていたころ、自分が何をやりたいのか、自分の才能・魅力は何なのか、よく分かっていなかったんです。競争社会の中で、客観的成果や業績や評価で、自分の価値を知るような感じでした。それが、あるメンター(助言者)に出会って、本当に自分にしかできないこと、自分の魅力、自分の使命を引き出していただくきっかけをいただいたんです。「ああ、私にはこんな力があるんだ」、「こういうことをやってみたかったんだ」っていうのに気がつき始めた時、「もっと自分の力を発揮してみたい」、「もっと自分の人生を生きてみたい」と思うようになったんです。会社でも色々チャレンジさせてはいただきましたが、やはり企業という箱の中での限界を感じて、一度きりの人生なので、チャレンジしてみたいなと。
――現在は、個人コーチングやワークショップ、講演活動をされているということですが、個人コーチングの予約は800人待ちとか。
鈴木真奈美氏: 手法は色々ですが、私が伝えたいメッセージは、「それぞれの中に素晴らしい可能性がある」こと、「その可能性を実現する力は、誰もが既に持っているということ」ということです。自分がかかわった人たちが、本当の自分の素晴らしさや魅力に気付いて、人生が大きく変わっていくのを見ると、1人でもそういう人が増えるきっかけになれたらうれしいなと思いますね。
本との出会いは人との出会いと同じ
――お忙しい毎日かと思いますが、本はたくさん読まれますか?
鈴木真奈美氏: 昔ほどは読まなくなりましたが、自宅の1.5部屋分くらいは本があるかな。政治経済、生物学物理学、歴史宗教、宇宙の仕組み、ありとあらゆるジャンルの本がありますね。
――最近読んだ本の中で面白かったものはありますか?
鈴木真奈美氏: ジュリア・バタフライ・ヒル著の『一本の樹が遺したもの』(現代思潮新社)。樹齢1000年ほどのアメリカ杉を伐採から守るため、二年間木の上に登って生活をしていた女性の実話です。「木を守る」という信念のために、そこまで動いてしまったという。行動というよりもその志とか、木の上に登っている時の彼女の葛藤や恐怖心も全部リアルに描かれていて、面白かったですね。もう一気に、熟読しました。
――この本に出会ったきっかけは何でしたか?
鈴木真奈美氏: この本は、アメリカでNPO活動をしている友人が、私が好きそうだと言って、英語の原書で送ってくれたんです。読んでみて、日本語訳も読んでみたいなと思って読んだんですが、やはりオリジナルの方が、本当に伝えたいエネルギーがリアルに表現されていますね。
――ご自身にとって、本はどんな存在ですか?
鈴木真奈美氏: 本との出会いって、人との出会いと同じだと思っているんです。自分が開いていて、アンテナを張っている時に、必要な本が色んな形で入ってくるんじゃないかな。だから、たった一冊の本や、その本の中の一行との出会いで、人生がすごく変わってしまうこともある。
――これまで、ご自身に大きく影響を与えた本はありますか?
鈴木真奈美氏: ありますね。マザー・テレサ関連の本はすごく好きで、「愛の反対は憎しみではなく無関心」だとか。「大事なことは何をするかではなく、どれだけ心を込めたか」だとか。本当に一つ一つの言葉を、今も自分の中で大事にしています。我が家には「特別文庫」というものがあって、その中には一押しの本が何冊か入っていて、折に触れて読めるようになっています。本って、もちろん内容も素晴らしいと思いますが、受け取り手の器によって入ってくるものが全然違ってくるので、自分の器が大きくなった時点で同じ本を読むと、ああ、これこういう意味だったのかなって、見えるものが変わってくる。ですから、その特別文庫に入っている本は、何度も読んでいます。
――幼少期の読書体験を教えてください。
鈴木真奈美氏: 両親が日本昔話や、世界のなんとか全集みたいなのを、家に全部そろえてくれていたので、小さいころから本は結構読んでいました。テレビは思考能力を奪うという話を両親が信じていたので、テレビは見せてもらえなかったんです。本を読んで考えるようにって。
――小学校、中学校にかけて、感銘をうけた、印象に深い本はありますか?
鈴木真奈美氏: 源氏物語とか、ああいう日本文学がすごく好きでした。日本語の言葉の深さが、すごく好きだったんです。日本語って素晴らしいですからね。
伝えたいなら、書き手側も変わる必要がある
――これまでたくさん本を読まれてきて、本自体が以前とこんな風に変わったなというのを、感じられることはありますか?
鈴木真奈美氏: 本がというよりも、受け取り手が変わってきたかなという感じがしますね。簡単に情報が手に入る時代になって、昔のようにしっかり本を読もうというより、簡単に良い情報をたくさん欲しいという感じになってきているので。本の作り方がそれに合わせて変わってきたのかなと。簡単に、読みやすく。
――そういった傾向に対して、何かご感想をお持ちですか?
鈴木真奈美氏: 良い悪いではなく、こういう流れなのだと思っています。伝えたいメッセージがもしあるなら、世の中の流れに合わせて変えていく必要があるのかなと。
――書き手側も、世の中の状況に合わせて変化していく。
鈴木真奈美氏: 本質は変わらないですが、コミュニケーションって相手が理解してくれて始めて成り立つものだと思うので、本もそうだと思うんですね。書きたいことを書いて、自己満足ではなく、やはり一冊の本を書いたその先には、読んでくださる方がいるので。
――書き手と読み手のコミュニケーションですね。本を出版されて、反響はいかがですか?
鈴木真奈美氏: 今はネットがあるので、読者の皆さんの感想がすごく早い。Facebookなどで見つけてくださり、読み切れない量の感想がきます。こんなにダイレクトに伝わるんだということに、びっくりしました。
これまでとは全く違う、情報提供の形
――鈴木さんは、電子書籍はご利用されますか?
鈴木真奈美氏: iPadで日経を読むくらいですね。
――使い心地、読み心地はどうですか?
鈴木真奈美氏: 移動時間に読めるので、すごく便利ですね。電車の中で新聞を広げるのって、女性だと結構勇気がいると思うんです。でもiPadだと楽に読めるので。切り抜きなどもできて、使い勝手が良いです。
――電子出版が普及する過渡期にあり、出版社の役割が流通から少しずつシフト、変化してきています。本を一緒に作り上げるという側面をふまえて、出版社・編集者の役割、どんな編集者、どんな出版社だったら良いと思われるか、お聞かせください。
鈴木真奈美氏: 人が、より幸せになりたい、より豊かになりたいという思いは、普遍的にあると思うんですね。そこに対して情報提供をしていくのが、出版社の役割かなと思っています。ただ、そのやり方が、多分これからすごく変わっていく。これまでは、こういうものが出版社だったという、従来の役割をいったん手放して、じゃあその人が幸せになるために、豊かになるために、どう情報提供していけばいいのかというところに立って考えていくと、今までとは全然違う形の提供の仕方になっていくんじゃないかなと。私はカメラメーカーにいたので、デジタルカメラの時と似ているなという気がしています。約12年前、カメラがデジカメにシフトしていく時に、大手は、「それでも人は、プリントアウトして写真を見たいものだよ」というところにこだわっていたんです。ですから、フィルムはこれからも変わらず需要があるだろうし、プリントアウトするものが必要だっていうところにしばらくいたんです。でも、人の習慣がどんどん変わってくると、ネットでメールをやり取りしたりとか、撮った写真をみんなで共有するというように形が変わってきて、今までのビジネスのやり方じゃ通用しなくなってくる。本も同じじゃないかなと思って。今はまだ、紙にしたものを読みたいという声があるでしょうが、それは私たちの習慣から来るもので、多分、次世代は、当たり前のようにiPadで本を読むようになってくる。すると、こだわりや習慣が変わってくるので、これからはもっと未知の領域が広がっていくと思います。すごく面白くなっていくと思います。
――最後に、今後の展望をお聞かせください。
鈴木真奈美氏: 今、「地球ファミリー」というビジョンに夢中なんです。本当に地球がひとつの家族だとしたら、人それぞれに役割があって、それぞれが本当にかけがえのない存在だっていう、それをもっと広げていきたいなと思っているんです。そのために、本を書いたり、ワークショップなど色んな活動をこれからもしていきたいです。それで、少しでも世の中がよく変化していけばいいなと思っています。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 鈴木真奈美 』