文庫本ではなく、電子書籍でフォロー
――本屋のいまと昔の違いについても、お伺いしたいと思います。本屋に行った際に、昔と比べて書店はどのように変わったと感じますか?
井上孝司氏: 品物のサイクルが短くなったと思います。あっという間に消えてしまう。前ですと何年も前に刊行した本が、棚の隅っこにちゃんと残っているということがあったと思うんですけれども、最近は入れ替わりが早くなったと思います。特に単行本をやっていると、なるべく長く通用するものをと思って書いているんですが、店頭に並ぶサイクルがあまり長くならないという状況もありますので、つらいところですよね。紙の本の山をずっと倉庫に積んでおくのが大変だしコストもかかるという事情もありますから、例えば最初は紙で出すんだけれども、電子でフォローするというのも一つありだと思うんですよ。電子版だったら場所を取らないですから。それは売る側にとっても一緒ですよね。長く売るためのフォローは多分、電子版の方がやりやすいんじゃないかと思います。ハードカバーで出してしばらくすると文庫で出て来るというモデルがありますけれども、それが文庫ではなく電子版だというやり方ですよね。
――本自体にも、何か変化というのは生じてきていると思いますか?
井上孝司氏: 勝手な印象ですが、腰を据えて時間をかけて長く売れるものを作ろうという傾向が、全般的にちょっと薄れている感じがすると思います。本と一言でいっても、何度も読み返して楽しむということができる分野と、しにくい分野というのは当然あると思うので、あらゆる分野でサイクルが短いから良くない、というのはちょっと乱暴だとは思うんですけれどもね。売る側としてはきちっと利益を出さなきゃいけないという事情もわかるんですけれども、うまく両立できればなあとは思いますね。
もっとバックヤードにスポットを
――いま、気になっている本はありますか?
井上孝司氏: 最近読んだ本でいうと、『満州鉄道発達史』ですね。これは特に、機関車の発達の歴史をずっと時系列で追いかけているところが一番いいですね。満鉄フリークならみんな買えという感じの一冊ですね。古い資料なんかは、なかなか手に入れるのは難しいですし、よくこれだけ資料を集めてきたなという本です。こういうのはもともとこういった書籍を持っている方でないと作れない本ですね。いまからポッと参入してやれるかというと難しいと思います。
――書き手として読む場合はそういったことも考えますか?
井上孝司氏: 気にします。つい、そっちを考えちゃうんです(笑)。
――出版社それぞれに特徴や強い分野などがあるかと思います。井上さんは書きたい内容が決まった時に、そういった点も意識されていらっしゃいますか?
井上孝司氏: 逆に、この企画だったらこの会社に持っていけば多分、通りやすいだろうなということは、当然こちらも考えます。それは単行本だけじゃなくて雑誌やウェブでも一緒です。この企画はきっと、あそこに持っていっても通らないから、こっちに持っていこうとかということは、常に意識はします。
――出版が決まった後、執筆される際は、出版社や編集者の方とはどのように関わり合いながら執筆されていらっしゃいますか?
井上孝司氏: 会社によって多少やっぱりやり方が違いますので、その辺は柔軟に合わせます。「自分のやり方がこうだから、これでやらせてくれないと困る」というのは、私はあまり言わないことにしています。やり方については、そこまでこだわりがないんですね。例えば用語の使い方なんかでも、「うちの社の表記ではこう表記をしますので」と言われたら、「じゃあそれでいいですよ」と受け入れる。著者の方で、人によってはこだわりをお持ちの方がいらっしゃいます。それはそれで一つの流儀だと思うんですが、私は、自分が書きたいテーマさえなくならなければいいと思っているんで、やり方についてはこだわりはないんです。
――では、最後に今後の展望や、取り組みたいテーマを伺えますか?
井上孝司氏: バックヤードにスポットを当てたいですね。ロジスティックスの本なんかは典型例なんですけれども、表に見える仕事の裏で、どれだけいろいろな仕組みが働いているのかということはもっと知ってもらってもいいんじゃないかと思うんです。だから舞台裏的なところ、バックヤードに、もっとスポットを当てていきたいなと思っています。いま鉄道関連の本なんかは、まさにそういう路線でやっているんです。例えば線路のつながり具合や、車両機種についてなど、そういった舞台裏的なところをこれからも書いていきたいですね。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 井上孝司 』