岡本吏郎

Profile

1961年、新潟県生まれ。明治大学商学部卒業。戦略的財務から経営戦略、マーケティング、債務対策まで幅広く指導する経営コンサルタントとして活躍中。世の中で当たり前とされていることを独自の視点から切り裂いてビジネスにつなげていく手法、戦略眼などには長年のファンが多い。CDとニュースレターを媒体にした会員制勉強会「戦略思考ビジネス会議」、有料メルマガ「週刊 岡本吏郎」などで自身の持つノウハウなどを公開している。著書の『会社にお金が残らない本当の理由』が『10年後あなたの本棚に残るビシネス書100』(ダイヤモンド社)にて経営マネジメントに強くなる8冊の中に選ばれる。

Book Information

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世間が大切にしないところに、ビジネスチャンスは広がっている



1961年、新潟県生まれ。戦略的財務から経営戦略、マーケティング、債務対策まで幅広く指導する経営コンサルタントとして活躍。世の中で当たり前とされていることを独自の視点で切り裂きビジネスにつなげていく手法、戦略眼に、長年のファンが多い。『儲かる会社の社長の条件』 (アスコム社)、『お金の現実』(ダイヤモンド社)など著書多数。『会社にお金が残らない本当の理由』(フォレスト出版)が、『10年後あなたの本棚に残るビジネス書100』(ダイヤモンド社)で経営マネジメントに強くなる8冊の中に選ばれている。CDとニュースレターを媒体にした会員制勉強会『戦略思考ビジネス会議』、有料メルマガ「週刊 岡本吏郎」などで自身の持つノウハウなどを公開している岡本吏郎さんに、独特の商売観、衝撃を受けた一冊、電子書籍についてなど、お聞きしました。

「僕はビジネスのオタクなんです」


――早速ですが、経営コンサルタントとしての岡本さんの商売観を教えていただけますか?


岡本吏郎氏: 原理原則に従ってきちんと商売をしていれば、必ず成功する。特別なマーケティングもなければ、特別に顧客を呼び込むものでもない。僕はこれが、商売の王道だと思っています。ひたすら新規顧客を開拓してなんていうのはナンセンス。例えばビールという商品一つを取っても、これはフィリップ・コトラー(アメリカの経営学者)の本に出ていますが、ビールはヘビーユーザーが全商品の約7割を消費している。そういう実態があるのに、ビール会社はいまだに、ビールを飲まない人にライトビールを飲ませようとしているわけです。大企業だからいいですよ。でも中小企業が同じことをしたらこけますよね。

――それなのにいまは、中小企業も含めてみんなが新規顧客、新規顧客ということをしているんでしょうか?


岡本吏郎氏: そう。もちろんしなければならない時もありますが、ある程度でサッとやめないと。これはビジネスの大原則です。短期的にそこで顧客を取るのは意味がないんですよ。孫子は「兵は拙速を聞くも、いまだ巧の久しきを賭ざるなり」といっています。「短期決戦に出て成功した例はあっても、長期戦で成功した例は知らない」という意味。ギャンブル的な短期成功を繰り返しても、そこに根拠がなければ、長期的な成功には結びつかない。

――岡本さんがビジネスに興味を持ちだしたのはいつごろですか?


岡本吏郎氏: 僕はもう、中学時代からビジネス書を読んでいました。ビジネスのオタクなんですよ(笑)。いまドラッカーがはやっていますけど、ドラッカーという人は、たった一言にものすごくたくさんのコンテクストを入れているので、きちんと解釈できている人がどれだけいるのかは疑問です。例えば「責任」という言葉一つの中にも多くの意味が込められているわけです。だから、古今東西の英知をある程度知って読めば、全く違う解釈になる。商売、ビジネス、マネジメントの原則論っていうのは昔からあって、そんなにたくさん本を読む必要はないんです。

――経営コンサルタントとしてお客さまにいつもいうことはありますか?


岡本吏郎氏: 商売にライバルはいないということですね。原理原則を大事にしていればいい。あとは踊らないことですよ。僕は「サンバを踊る」っていう言い方をしていますが、ノウハウを売る人たちに踊らされて、結局一つもモノにならず、お金がないっていっている企業が多い。踊らせる人はいつの世でもいますからね。踊らされるというのは、「バカなことしてるんじゃないよ」って言ってくれるおやじがいなくなったというのも、大きな原因の一つかもしれませんね(笑)。

――ご自身がビジネスで成功してきた秘訣は何だと思われますか?


岡本吏郎氏: 簡単です。変人だから。それだけです。皆と同じが嫌いなんです。皆が右を向けっていったら絶対に左を向くんです。そういうへそ曲がりな性格があったんですが、たまたまビジネスの世界に出てみたら、その「へそ曲がり」が、ビジネスで最もうまくいく方法だったわけです。僕は幼稚園の時、周りが全部ドリフターズファンだった中、1人でクレイジーキャッツが好きだったんです(笑)。例えば、今日テストの答案が返ってくるっていうと皆「ヤダ」っていうじゃないですか。そういう時にも「授業ないからいいじゃん」って思っていたり。世間は表層的なところをとらえることが多いので、世間が大事にしない部分に非常においしいものが残る様になっているんです。これはすごくありがたい話。ほかにも世の中である程度成功してきた方々というのは、本当に大切なものを知っていると思いますよ。

衝撃的な読書体験


――岡本さんが最初に読んだ本を覚えていますか?


岡本吏郎氏: 『マゼラン』です。世界一周したマゼランの伝記で、小学校4年生の時に読みました。父の友達の刑事さんが、来る時にいつも本を持ってきてくれたんです。その中に『マゼラン』の本があった。たくさんあった本の中でなぜか一冊だけ、何だかよく分からないけど読んだんです。不思議ですね、本に惹かれることってあるんですね。読まずにおれないみたいな、力を感じたんです。で、読んでみたら、忘れもしない、頭のてっぺんから雷が落ちたような体験をして。すごく大きな読書体験でした。それでがぜん、実在の人物の人生というものに興味を持って、あとはもう自他認める歴史オタクですよね。だから変なことを知っている子どもでしたね。僕、高校時代、劣等生でほとんどの教科で赤点だったんです。でも世界史だけ、ほぼ100点。

――好きなことはとことんやるタイプだったんですね。


岡本吏郎氏: 極端なんですよ。ほかは何もやらないから。いま50歳ですが、何が残念かって、人類の歴史を全部知ることは不可能でしょう、死ぬまでに。僕があと30年40年生きても全部知ることはできない。それが残念で残念で。歴史だけじゃなく、哲学にも興味があります。だから、僕はビジネスに世界史的な知識や哲学をよく利用している。使ってる人はあまりいませんが、ものすごく使えるんですよ。

――高校時代、ほとんど赤点だったとおっしゃいましたが、大学は明治大学へ進学されましたね。


岡本吏郎氏: 最初は大学に入る気はなかったんです。僕、受験勉強を始めたのが高校3年生の11月ですから。高校時代、山崎豊子の『不毛地帯』(新潮文庫)がテレビで放映されて、瀬島隆三にあこがれてね、貿易関係の仕事をしたいなって思っちゃったんです。で、貿易関係の専門学校の資料を取り寄せて、そこに行こうと決めていた。ところが11月くらいに、父が「お前やっぱり大学に行ってくれ」って言い出して。うちの父親がね、僕に「頼む」っていったのは本当にそれくらいなんです。頼まれたことのない人に頼まれましたから、「それなら大学へ行こう」って思ったのが11月の下旬くらいだった。大学へ行くなら経営関係っていうのは明快でしたので、すると受ける教科が国語、英語、世界史になる。僕、理系なので、国語と英語が困っちゃったんです。



そうしたら、もうやることは一つ。過去問題を全部出してきて、分析することに尽きる。それと山を掛ける。だってもう間に合わないから、何を捨てるかを考える。で、苦手なものは捨てようと決めたんです。英語でいえば、英単語を暗記している時間はもうない。だから、知らない単語が出てきてもその単語が何かを予測する力を付けようと思って、徹底的にやった。試験までの期間は、長文をものすごく読みましたよ。当然ですが、それをやっているうちに単語力も付いてくる。国語も同じです。こんなの恐らく慣れだと思って、バカみたいに問題を解いた。2ヶ月もあれば、そういう問題を解く脳みそになっていく。だから、ある程度戦略は立てて試験勉強をしました。それで合格できた。

行間を書きたい


――独立して20年近くご活躍されていると思いますが、独立前は企業にお勤めだったのですね。


岡本吏郎氏: サラリーマンです。新入社員のころから、僕はむちゃくちゃだったみたいですよ。自分では普通のつもりだったんですけどね。社内で僕が辞めないと思っていたのは僕だけだったみたいです。妻も会社の同期なんですが、「俺、会社辞めるわ」って伝えたら、アイロンをかけながら「あ、そう」って。「え?あ、そう、でいいの?」と思って、3年ほどたってから聞いたんですよ。「あの時、アイロンをかけながら『あ、そう』って言ったけど、どうして?」って。そうしたら「そんなの結婚する時から覚悟してたわ」って言われて(笑)。

――新入社員時代は、右向けっていわれて右を向かなかったら、ぶつかることも多かったのではないですか?


岡本吏郎氏: いや、自分では右を向いていたつもりなんですよ。僕がいまでも仲良くしてる上司の方で、仲人もしてもらった方ですが、1年一緒に仕事をして、彼が転勤する時に「岡本、お前とだけは2度と仕事をしたくない」って言われましたしね。僕は結構平気で上司をだまして新しい仕事していましたから。だって、動かない上司を説得しても仕方ないでしょう。

――30年近くビジネスの世界に身を置かれて、仕事の仕方で変わった部分はありますか?


岡本吏郎氏: あまりない様な気がしますね。「三つ子の魂百まで」ですよ。自分で仕事がうまくいって、ある程度お金が流れる形はもう分かっていて、でも、考えてみたらそれって子どものころからやっていた。小学校や幼稚園のころ、友達と遊んでいたやり方をビジネスでもやっていて、それが最もストレスなく、かつ最も効率的、効果的な方法だったんですね。

――今後、何か本の執筆予定はありますか?


岡本吏郎氏: 書きたい書きたくないでいえば書きたいですが、本を書くのはすごく時間が取られる。僕はゴーストライターを立てる性格でもないんですよね。僕は本を書くことが仕事ではないので、ゴーストライターを立てるのが正解なんですが、本が好きだから駄目なんですよ。大した文章も書けないのに。

――ご自身で書かれる時に何かこだわりはありますか?


岡本吏郎氏: 常に「行間を書きたい」と思っています。ただ、ビジネス書なのであまり行間に凝るといけない。僕はどちらかというと、重要なニュアンスを「ここまでいっておいて、ここをいわないか岡本」っていうところが評判が悪いんです(笑)。でも、ここまでいって、あとは自分で考えるっていうような行間を書きたいというのはありますね。

――その表現方法が、読者に影響を与えたり、読者にとっての何かのきっかけになるのですね。


岡本吏郎氏: 読者が影響されるかどうかは、僕にはどうでもいいことなんです。僕は詐欺師ではないから、人に影響を与えようとも思わないし、先導しようとも思わない。だから自分が出したくて出すだけですよね。それを買ってくださる方がいらっしゃるのはとてもありがたいことです。ベストセラーになる必要もロングセラーになる必要も全くない。第一、狙ってなるものでもないと思います。

―― 一貫して、何も狙ってない。


岡本吏郎氏: 狙ったら駄目です。原理原則をきちんとやっていれば、自然と来ますから。

〈本〉の呪縛


――ブックスキャンでは、個人の蔵書の電子化をしていますが、ご自著が電子化されて電子媒体で読まれることに関してどう思われますか?


岡本吏郎氏: そういう時代ですし、電子化するのは便利だから、いいと思いますよ。でも、僕は世の中がいっているほど電子書籍が広がるとは思っていないんです。確かに、Kindleが出たことで状況がいくらか変わるとは思います。でも、西洋人と日本人では、そもそも神様からして違うので、同じ感覚だと考えるのはナンセンス。天照大神とゼウスとは、男と女でも違うくらいに全く違うじゃないですか。それだけ価値観が違うんですよ。実際にCDなどの紙ジャケットでも日本人は正確に作るでしょう。アメリカ人はプラケースでいい。本に対する接し方も全く違う。日本人は本に「本」ってネーミングをしているんですよ。これはすごいことだと思います。本来「本」の持つ意味は、本質、宇宙という意味。辞書で「本」を引いてみれば分かります。日本人は、紙に印刷して束ねたものに、「本質、宇宙」を意味する「本」ってネーミングしたんですよ。そんな民族がね、簡単に電子媒体に変わるっていうのは、ちょっと考えられないですよね。電子書籍は確かに便利ですけどね。

――では、どちらかがなくなるのではなく、両立していくでしょうか?


岡本吏郎氏: あとは出版社の都合ですよね。在庫を持たなくてよくなりますから。でも、読者がそれを求めているわけではないと思いますよ。だから、出版社の都合の通りにいかないわけでしょう。読者が全然踊ってくれないわけですよ。思いのほか「本」っていうネーミングの呪縛は大きいと思います。書籍の電子化は、ある程度は進むと思います、時代ですからね。でも、本質的なところで紙媒体がなくなるなんてナンセンスです。むしろ紙の方が価値が高くなっていくでしょうね。

ビジネスの基礎をもう一度


――今後取り組みたいテーマ、書きたいテーマはありますか?


岡本吏郎氏: 「何かを伝えたい」ということはないんです。ただ、僕の処女作『会社にお金が残らない本当の理由』が賞味期限切れしてますので、もうあれじゃ駄目だよっていう本は書かなければいけないと思っています。あと、僕は初心者用のことは全く言わないので、基礎知識の差が出てしまって、新しくビジネスを始められたり、ある程度色々なものを学びたいというレベルで開催する勉強会やセミナーにお見えになる方が、戸惑うことが多いんですね。ですから、そこを埋める様な本は書いてみたいなって思っています。そうすると読んだ人が便利だからということより、そこにまた、本質的なものが隠れていそうな気がするんです。自分がそこをあまり見ていないので、たまには見てみると、そこに面白いものがいるんじゃないかなっていうのがあるんです。

――いままでにない切り口、視点の本になりそうですね。




岡本吏郎氏: 宮崎駿の『崖の上のポニョ』という映画があるでしょう。僕、あれは現代の神話だと思っているんです。ああいう中にものすごいヒントがいっぱいあるんですよね。ああいうクリエイターってすごいなと思います。ユング(スイスの精神科医・心理学者)のいう原型の構造をとらえることがね、自然にできるのかなって思うんですよね。僕は、あのアニメの中に、いまの日本の抱える問題を解決するヒントがあると思っていて、あれが原型だなって思うんですよね。ユングはね、「原型に見つけられた」という表現をしていますが、先に集合無意識の中の原型があって、それにわれわれが見つけられて原型的動きをするっていう考え方なんです。そこからいくと、日本人はあの『崖の上のポニョ』っていう原型に見つけられたなって思うんです。そんなことをつれづれで書けたらいいなと思っています。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 岡本吏郎

この著者のタグ: 『経営』 『ビジネス』 『独立』 『オタク』 『商売』 『原理原則』 『原型』

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