岩谷誠治

Profile

早稲田大学理工学部卒。株式会社資生堂を経て朝日監査法人(現 あずさ監査法人)に入社。その後、アーサーアンダーセンビジネスコンサルティングを経て、2001年に独立、岩谷誠治公認会計士事務所を開設。現在は株式会社会計意識 代表取締役として会計知識のビジネスへの応用を指導。主な著書に、『儲けにつながる「会計の公式」―借金を返すと儲かるのか?』、『国語 算数 理科 しごと』(共に日本経済新聞出版社)、『この1冊ですべてわかる会計の基本』(日本実業出版社)、『12歳でもわかる! 決算書の読み方』( フォレスト出版)、などがある。

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ほかの競争の激しいジャンルの本が参考になる


――編集者からほかの本との差別化や内容を簡単にするプレッシャーがあるとおっしゃいましたが、出版業界の事情があるのでしょうか?


岩谷誠治氏: 私は仕事柄色々な業界を見ていますが、どこも厳しいですけれども、今編集の方々の置かれている出版業界の厳しさというのは認識しています。やはり実売を見ると、私の本がという意味じゃなくて、全体的に結構色々泣けてくるような数字がありますね(笑)。

――本を読む人が減っているとお感じになりますか?


岩谷誠治氏: 読まれている方は読まれていますけど、やはりそれは特定の方に限られているというのもあるんでしょうね。昔から比較的、年齢層の高い人は読んでいるし、継続的に買う人がいるのは変わらないんでしょうけど。もう一つはネットとかで入る情報が多くて選択肢が増えたということもあるでしょうね。

――岩谷さんご自身は、本屋にはよく行かれますか?


岩谷誠治氏: 仕事柄、ほかの方の本も拝見しなければいけませんし、今はたくさん読みますね。ただそれは仕事での読書で、例えば自分自身にとって新しい仕事をするとき、あるいは本や雑誌の記事を書くときに、税法上の特定の論点に関連する本を、まとめて買う感じで、通常の、一般的な方の読書体験とは全く違うものですね。あと、私はほかの分野の本を仕事のネタのために見たり買ったりすることが多いんです。料理とか、英語の棚がすごく参考になるんですよね。会計も厳しいですけれど、やはり英語や料理というのは、端から見るとほぼ似たようなものが毎月新刊で出ていて競争が激しい。特に料理なんてフルカラーで、なかなか工夫があります。でも芋のにっころがしなんて全部一緒ですからね(笑)。それでも出し続けなきゃいけないから、痛々しいですよね(笑)。英語に関しても出る単語は1500~2000って決まっているのに、毎月毎月新刊が出されるという、あの厳しい環境は大変勉強になります。



――類書が多くても、その中で差別化ができればまだまだ勝負できる余地はあるということでしょうか?


岩谷誠治氏: その観点で参考になるのは『天地明察』(角川書店)の冲方丁さんが書いた『冲方式ストーリー創作塾』(宝島社)という本です。実は冲方さんとは高校が一緒なんです。冲方さんのほうが大先生ですが、年齢は僕のほうが一回りぐらい上で、『天地明察』を出す前から、同じ高校の方がいらっしゃるんだなということはちょっと何かで見て、知っていたんですよ。当初は僕らの読まないような分野の小説を書かれていましたが、こういうのが出てきたので読んでみたんです。これは冲方さんが小説の書き方を書いていて、それ自体もおもしろいんですけど、僕がすごいなと思ったのは、小説の書き方をそうやってみんなに教えることの理由が書いてあって、「業界が発展する上で、大事なのは人口増加です。数人の天才作家が求められているほど、小説業界が裕福ではありません。必要なのは千人の中堅作家と1万人の新人と、百万人の同人作家です」と。全体としてこういうトーンなんです。

つまり業界が潤っていかなかったら、勢いもつかないし、自分たち自身も活性化しないんだというんです。冲方さんはすでに著名だったのかもしれないですけど、今のようなトップ作家になる前の段階なんですよね。2005年当時、既にそういう問題意識を持っていたということはすごいことだと思います。

私の本を一人でも多くの人たちの手に届けたい


――出版業界では、電子書籍の普及も大きな話題となっていますが、岩谷さんは電子書籍についてお考えはありますか?


岩谷誠治氏: 2008年に本を出版したとき、同時に電子書籍化しているんですよ。電子書籍の初期のころですから、XMDFのフォーマットで作って、基本的にはザウルスか、携帯で見るというのが主ということでした。ただ正直いって、全然売れなかったんですね。マーケットが小さかったのもありますけど、今はiPadとかハードが変わってきたのでまた違うのかなとは思います。

――岩谷さんご自身は電子書籍は読まれていますか?


岩谷誠治氏: 自分が買っているものは紙です。私の領域の専門書は電子書籍になっているものは少ないんですね。電子書籍になるのはもっとメジャーなものが多いので。ですから私は電子書籍はまだそれほど利用していません。

――いわゆる自炊に関しては著作権の問題が取りざたされていますが、岩谷さんの本が個人で電子化されることには抵抗はありますか?


岩谷誠治氏: 著作者の方々には色々なご意見があるでしょうけど、私個人としては、現時点で個人が取得されたものを、それ以降電子化することに関しては、まあ、特段問題とは思いません。私の程度の出版数でありレベルですと、シンプルに一人でも多くの人が読んでもらったらうれしいと思います。、会計士という立場ではなく、作者という立場からは、読んでいる人が増えることを妨げるようなレベルには、私自身はまだ至っていないということです。

――岩谷さんの会計の本は、まさに会計に縁のなかった幅広い層の方々にまず手に取ってもらうことが重要ですね。最後にこれから会計を勉強する方にメッセージをお願いします。


岩谷誠治氏: 私の本は、経理とか財務以外の方に売れているんです。会計という視点を持つと、例えば生産管理でもマーケティングでも広告制作でも結構ですけど、みなさんがお持ちの専門的な領域に必ず関係するんです。その見方を持つと違う広がりみたいなものが明らかにできるので、問題解決の手段として有効なんではないかというのが、本の中でもいっていることです。



英語が難しいのは、英語をどんなに勉強しても、日常の業務とリンクする職場は限定されるんですけど、会計に関しては、例えばこのカメラは会社の備品だったらどのように会計処理するのかとか、必ず関係してくるので、会計の視点から色々なものを見直してみると、行き詰まっているときに新しい側面を提供できて、違うアプローチができると思いますし、現実が見えてくると思いますので、ぜひ会計に興味を持ってもらいたいですね。なにしろ「まだ簡単にできるだろう」って編集者からいわれていますので(笑)、それを目指してやっていきたいですね。専門でやっている領域は別として、ビジネス書を一般の方々向けに出すものに関しては、もっと簡単なものができるんでしょうし、一人でも多くの人たちの手に届くように努力したいという風に思っています。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 岩谷誠治

この著者のタグ: 『アイディア』 『チャレンジ』 『本屋』 『会計士』 『簿記』 『勉強』

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