「出会い」と「気づき」、そして自ら考え行動する力が豊かさを生む
遠藤功さんは早稲田大学商学部卒業後、三菱電機株式会社入社。企業派遣で米国ボストンカレッジ経営大学院に留学、MBAを取得。1988年三菱電機を退職し、ボストン・コンサルティング・グループに入社。その後アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)日本ブーズ・アレン・アンド・ハミルトンを経て、2000年ローランド・ベルガーの日本法人代表取締役社長に就任。著書『現場力を鍛える』(東洋経済新報社)は30刷を数えるロングセラーとなり、『見える化』(東洋経済新報社)は15万部を超えるベストセラーとなる。2006年ローランド・ベルガー日本法人会長、現早稲田大学ビジネススクールの教授に就任されています。そんな遠藤さんに、「現場力」について、そして読書と行動について伺いました。
すべてが1つの流れとなって絡み合う
――早速ですが、現在早稲田大学で講義されていることに加え、講演、研修、著書の執筆といろいろな面で活躍されていますが、近況をお伺いできればと思います。
遠藤功氏: 私にとっては書く、話す、教える、そして自分自身が学ぶということがすべてつながっている。だからどれか1つを欠くということができないのですね。もともと、二十年以上経営コンサルタントをやってきたのですが、人材育成のほうにもかかわっていて、企業研修をしたり、ビジネススクールで教えたりしています。同時に、現場でコンサルティングをやっていないと、ビジネスを教えるにしても机上の空論になってしまいます。実際に自分が体験したこと、学習したことを教えていきつつ、次は本にまとめるという流れで、いろいろなことをやりながらも、それらが全部絡んでいます。
――今回は本のインタビューということで、幼少期のころからさかのぼってどんな本を読まれてきたのかということをお伺いできればと思います。
遠藤功氏: 昔から私は海外に行きたい気持ちが強かったのですが、それは海外の読み物や旅行の本が大好きだったので、「自分も行ってみたい」とか「自分もそういう環境に身を置きたい」という気持ちがすごくあった。沢木耕太郎さんの『深夜特急』(新潮文庫)を読んで、海外に想いをはせていましたね。だからそのうち、それをビジネスの場で実践したいと思ったのでしょう。
新しいことに挑戦する以上、壁があることは当たり前
――今までのコンサルタント業務を通じて苦労したことや、壁にぶつかったことなどのエピソードはありますか?
遠藤功氏: それは今でもそうですね。年がら年中壁だらけです。挑戦し続ける限りは必ず壁はある。でもそれは自分で選んだ道だからしょうがないですよね。だって壁を乗り越えないと新しい発見もないし、楽しくもない。新しいことに挑戦するには当然壁があることが前提なので、別に壁が出てきてもびっくりしないですよ。
――どうしたらそういった挑戦し続ける心を持ち続けられるのでしょうか?
遠藤功氏: 単純に、好奇心だけですよね。面白い素材があれば自分で行って見てみたいし、現場に行って会社や働いている人を見れば、「本に書いてみたい」と思う。そういうつながりだと思います。だから好奇心をなくしてしまったら、何にも起きないですね。
――原動力は「好奇心」なのですね。
遠藤功氏: だから自分の好きなこと、興味があることはすごく大切なことですね。自分は何に興味があるのか、何を知りたいと思っているのかということは、自分の本質的な思いに深くかかわっているからです。
本の中にある「気づき」と「出会い」を行動のきっかけにしてほしい
――本を執筆されるにあたって、大切にされていることはなんでしょうか?
遠藤功氏: 自分の知っている世界はそもそもすごく狭い。本を何のために読むかというと、自分の知らない世界を体感するためなんです。本の世界の中に気づきもあるし出会いもあるし発見もある。私の本はビジネス書だから「ああこんな会社もあるんだ」とか「こんな現場もあるんだ」ということが、いい気づきになってくれるとうれしいですね。だって普通の人は自分の会社のことしか知らなくて「そんなものだ」と思っている。でも、世の中にはたくさんの会社や現場があって、そこにはいろいろな人が毎日仕事をしている。「なぜこの会社とうちの会社は違うのだろう」とか「どうやったらああいう会社になれるのだろう」という問いに対して、本の中にヒントがあるわけですよね。
――会社の中ではなくて。
遠藤功氏: そう。だから面白いと思った会社や、すごいと思った会社を紹介していくのが私の仕事だと思っています。執筆の際には、「現場の目線で書く」ということに気をつけています。すごい現場がある。「ああ、こんなことができちゃうんだ」とか「こんなに頑張れるんだ」とか、そういう現場を見ると単純に尊敬できる。「すごいねえ」と。だからそれが読者に伝わると、「だったら自分たちもできるかもしれない」と思えるわけです。すごい人がやったのだったらそれは自分とは縁遠いし、関係ない世界かもしれない。でも普通の会社の、普通の現場で、普通の人が仕事をしていて、でもこんな成果が生み出せるということを読むのは励みになると思います。スティーブ・ジョブズの話を読んでも「すごいな」とは思うけれど、自分がジョブズになれるとはあまり思わない。でも、私の本では普通の人が頑張っている姿を紹介しているから「あなたの会社だってもっとできるよ、あなたの現場だって頑張れるよ」という風に発信しているつもりです。そこに共感してもらえるといいですね。
――実際に行動できれば、何かしら変わっていきますよね。
遠藤功氏: 私の本を読んで「面白いね」というだけではなくて、「何かちょっとやってみよう」という風に動き出すきっかけができると一番いいですよね。
事件はやはり「現場」で起きている
――遠藤さんといえば「見える化」という言葉が有名ですね。
遠藤功氏: どうやって現場を活性化させていくかというのが私の主題です。やはり自由闊達にいろいろなことが発言できる現場や組織が「いい会社」なので、「見える化」だけではなくて「言える化」も重要ですね。
――今でも現場に出掛けられて、「現場千本ノック」などの形でかかわられるのは、今の立場としては素晴らしいことだと思います。
遠藤功氏: 実際に世の中で何が起きているかというのは「踊る大捜査線」じゃないけれども、現場を見ないとリアリズムは分からない。今何が起きているかということが重要で、みんなそれを知りたがっているわけだから、やはりそうすると実際に行かざるを得ないですね。だから自分の仕事というのは半分ジャーナリストだと思っている(笑)。ジャーナリストは当然現場に行くのが仕事だから、そういう風に考えると不思議なことでも何でもないですね。
――「現場で事件が起きているんだ、現場が大事なんだ」と思われるようになったきっかけは何かあったのでしょうか?
遠藤功氏: 経営者を動かすのはやはりリアリズムです。「ファクト」とも言いますけれども、とにかくそういうものがないと人は動かせない。ただ単に机上の空論を言っても「そりゃ、理屈は分かるよ」という風になってしまうんです。偉い経営者の方と立派な会議室で会議をしていても、正直現場感はないわけですよね。そんなところに閉じこもって議論をしても、会社は決して良くならない。やはり自分で足しげく現場に通って、実際に見て感じたことを基に、会社への提言をしないと説得力がない。経営者を動かそうと思ったら、そういうことがどうしても必要だということです。
著書一覧『 遠藤功 』