遠藤功

Profile

1956年生まれ。早稲田大学商学部卒業。米国ボストンカレッジ経営学修士(MBA)。三菱電機株式会社、米系戦略コンサルティング会社を経て、現職に至る。早稲田大学ビジネススクールでは、経営戦略論、オペレーション戦略論を担当し、現場力の実践的研究を行っている。 また、欧州系最大の戦略コンサルティング・ファームであるローランド・ベルガーの日本法人会長として、経営コンサルティングにも従事。戦略策定のみならず実行支援を伴った「結果の出る」コンサルティングとして高い評価を得ている。カラーズ・ビジネス・カレッジ学長。中国・長江商学院客員教授。株式会社良品計画社外取締役。

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「出会い」と「気づき」、そして自ら考え行動する力が豊かさを生む



遠藤功さんは早稲田大学商学部卒業後、三菱電機株式会社入社。企業派遣で米国ボストンカレッジ経営大学院に留学、MBAを取得。1988年三菱電機を退職し、ボストン・コンサルティング・グループに入社。その後アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)日本ブーズ・アレン・アンド・ハミルトンを経て、2000年ローランド・ベルガーの日本法人代表取締役社長に就任。著書『現場力を鍛える』(東洋経済新報社)は30刷を数えるロングセラーとなり、『見える化』(東洋経済新報社)は15万部を超えるベストセラーとなる。2006年ローランド・ベルガー日本法人会長、現早稲田大学ビジネススクールの教授に就任されています。そんな遠藤さんに、「現場力」について、そして読書と行動について伺いました。

すべてが1つの流れとなって絡み合う


――早速ですが、現在早稲田大学で講義されていることに加え、講演、研修、著書の執筆といろいろな面で活躍されていますが、近況をお伺いできればと思います。


遠藤功氏: 私にとっては書く、話す、教える、そして自分自身が学ぶということがすべてつながっている。だからどれか1つを欠くということができないのですね。もともと、二十年以上経営コンサルタントをやってきたのですが、人材育成のほうにもかかわっていて、企業研修をしたり、ビジネススクールで教えたりしています。同時に、現場でコンサルティングをやっていないと、ビジネスを教えるにしても机上の空論になってしまいます。実際に自分が体験したこと、学習したことを教えていきつつ、次は本にまとめるという流れで、いろいろなことをやりながらも、それらが全部絡んでいます。

――今回は本のインタビューということで、幼少期のころからさかのぼってどんな本を読まれてきたのかということをお伺いできればと思います。


遠藤功氏: 昔から私は海外に行きたい気持ちが強かったのですが、それは海外の読み物や旅行の本が大好きだったので、「自分も行ってみたい」とか「自分もそういう環境に身を置きたい」という気持ちがすごくあった。沢木耕太郎さんの『深夜特急』(新潮文庫)を読んで、海外に想いをはせていましたね。だからそのうち、それをビジネスの場で実践したいと思ったのでしょう。

新しいことに挑戦する以上、壁があることは当たり前


――今までのコンサルタント業務を通じて苦労したことや、壁にぶつかったことなどのエピソードはありますか?


遠藤功氏: それは今でもそうですね。年がら年中壁だらけです。挑戦し続ける限りは必ず壁はある。でもそれは自分で選んだ道だからしょうがないですよね。だって壁を乗り越えないと新しい発見もないし、楽しくもない。新しいことに挑戦するには当然壁があることが前提なので、別に壁が出てきてもびっくりしないですよ。

――どうしたらそういった挑戦し続ける心を持ち続けられるのでしょうか?


遠藤功氏: 単純に、好奇心だけですよね。面白い素材があれば自分で行って見てみたいし、現場に行って会社や働いている人を見れば、「本に書いてみたい」と思う。そういうつながりだと思います。だから好奇心をなくしてしまったら、何にも起きないですね。

――原動力は「好奇心」なのですね。


遠藤功氏: だから自分の好きなこと、興味があることはすごく大切なことですね。自分は何に興味があるのか、何を知りたいと思っているのかということは、自分の本質的な思いに深くかかわっているからです。

本の中にある「気づき」と「出会い」を行動のきっかけにしてほしい


――本を執筆されるにあたって、大切にされていることはなんでしょうか?


遠藤功氏: 自分の知っている世界はそもそもすごく狭い。本を何のために読むかというと、自分の知らない世界を体感するためなんです。本の世界の中に気づきもあるし出会いもあるし発見もある。私の本はビジネス書だから「ああこんな会社もあるんだ」とか「こんな現場もあるんだ」ということが、いい気づきになってくれるとうれしいですね。だって普通の人は自分の会社のことしか知らなくて「そんなものだ」と思っている。でも、世の中にはたくさんの会社や現場があって、そこにはいろいろな人が毎日仕事をしている。「なぜこの会社とうちの会社は違うのだろう」とか「どうやったらああいう会社になれるのだろう」という問いに対して、本の中にヒントがあるわけですよね。

――会社の中ではなくて。




遠藤功氏: そう。だから面白いと思った会社や、すごいと思った会社を紹介していくのが私の仕事だと思っています。執筆の際には、「現場の目線で書く」ということに気をつけています。すごい現場がある。「ああ、こんなことができちゃうんだ」とか「こんなに頑張れるんだ」とか、そういう現場を見ると単純に尊敬できる。「すごいねえ」と。だからそれが読者に伝わると、「だったら自分たちもできるかもしれない」と思えるわけです。すごい人がやったのだったらそれは自分とは縁遠いし、関係ない世界かもしれない。でも普通の会社の、普通の現場で、普通の人が仕事をしていて、でもこんな成果が生み出せるということを読むのは励みになると思います。スティーブ・ジョブズの話を読んでも「すごいな」とは思うけれど、自分がジョブズになれるとはあまり思わない。でも、私の本では普通の人が頑張っている姿を紹介しているから「あなたの会社だってもっとできるよ、あなたの現場だって頑張れるよ」という風に発信しているつもりです。そこに共感してもらえるといいですね。

――実際に行動できれば、何かしら変わっていきますよね。


遠藤功氏: 私の本を読んで「面白いね」というだけではなくて、「何かちょっとやってみよう」という風に動き出すきっかけができると一番いいですよね。

事件はやはり「現場」で起きている


――遠藤さんといえば「見える化」という言葉が有名ですね。


遠藤功氏: どうやって現場を活性化させていくかというのが私の主題です。やはり自由闊達にいろいろなことが発言できる現場や組織が「いい会社」なので、「見える化」だけではなくて「言える化」も重要ですね。

――今でも現場に出掛けられて、「現場千本ノック」などの形でかかわられるのは、今の立場としては素晴らしいことだと思います。


遠藤功氏: 実際に世の中で何が起きているかというのは「踊る大捜査線」じゃないけれども、現場を見ないとリアリズムは分からない。今何が起きているかということが重要で、みんなそれを知りたがっているわけだから、やはりそうすると実際に行かざるを得ないですね。だから自分の仕事というのは半分ジャーナリストだと思っている(笑)。ジャーナリストは当然現場に行くのが仕事だから、そういう風に考えると不思議なことでも何でもないですね。

――「現場で事件が起きているんだ、現場が大事なんだ」と思われるようになったきっかけは何かあったのでしょうか?


遠藤功氏: 経営者を動かすのはやはりリアリズムです。「ファクト」とも言いますけれども、とにかくそういうものがないと人は動かせない。ただ単に机上の空論を言っても「そりゃ、理屈は分かるよ」という風になってしまうんです。偉い経営者の方と立派な会議室で会議をしていても、正直現場感はないわけですよね。そんなところに閉じこもって議論をしても、会社は決して良くならない。やはり自分で足しげく現場に通って、実際に見て感じたことを基に、会社への提言をしないと説得力がない。経営者を動かそうと思ったら、そういうことがどうしても必要だということです。

現場は決して神聖なものではない


――最初は三菱電機のほうで10年ほど勤められたということですが、そのころの経験で何か今に活かされていることというのはありますか?


遠藤功氏: サラリーマン時代は会社の歯車だったので、コンサルタントとして見る現場と、現場の当事者として見る現場は全然違いますね。ただやはり、私自身の現場経験があるから問題が分かるけれど、現場経験がないと、ピンとこないとは思います。私は現場がどんなことを考えて、何に悩んでいて、どんなことが大変なのかということが分かる。だから決して現場に引っ張られることもなく、問題を客観的に見られるわけですから。

――あくまで客観的に見るわけですね。


遠藤功氏: 私は別に現場主義者ではないですからね。現場というものは時にはずるいし、時には惰性が流れているし決して神聖なものではないんです。それが現場なんです。だから私は別に現場を神格化しようなんて全然思っていない。ただ「すごい」現場もあるわけです。だから、現場は時にすごくもなるし、堕落もする。そういうことを分かっているからこそ、それなりの距離感を保てるわけですね。

電子で読むか、紙で読むか、それは習慣の問題


――遠藤さんは電子媒体を使って本や新聞を読まれることはありますか?


遠藤功氏: Kindleは買いたいなと思っています。本を読むのは好きだけれど、何冊も持ち歩くのは難しいから。新聞は家で読むのが習慣になっているから、わざわざ電子化しなくても家でペラペラめくっていれば済む。私が朝起きて最初にすることは、紙の新聞を読むことだから、それは多分変わらないだろうと思います。だから若い人で今まで日経を読んだことがない人が最初から電子版を読むという感覚はよく分かりますね。

――電子化が悪いとかいう意味ではなくて、習慣の問題なのですね。


遠藤功氏: 読むことが重要なので、それが紙でも電子媒体でもいいわけです。「ちゃんと日経ぐらい読んでね」ということなので、電子が好きな人はそうやって読めばいい。書籍の携帯性を考えると、やはりKindleを1回試してみようと思いますね。

Amazonは日本企業以上に「現場」を重んじる企業


――今はiPadなど電子デバイスがたくさんありますが、Kindleを選ばれるのはなぜでしょうか?


遠藤功氏: Amazonという会社に興味があるんです。以前に、Amazonのイベントに呼ばれたことがあって。Amazonはアメリカの会社なのですが、今どきあんなに現場を大切にする会社は珍しい。日本の会社もお手本にしてもいいくらいですね。ジェフ・ベゾス(Amazonの創設者)というのはいろいろなことを日本から学んでいる。どんどん日本流のやり方を入れてそれをAmazon流に変えていっている会社なので、あそこでは「現場」という言葉が全部通じるんです。ベゾスも「Gemba」という日本語を使っているんです。Amazonは日本の会社が忘れてしまったような、例えば「カイゼン」なんかも一生懸命やっているし、当然「見える化」もやっている。とにかくいろいろなことを日本の会社以上に一生懸命やっていますね。

――日本の企業ですらやらないことにも取り組んでいるんですね。


遠藤功氏: CEO自身が自分で「Gemba」という言葉を使って、それがそのまま定着しているアメリカの会社は珍しいですよね。ベゾスはすごい。「これは素晴らしいことだから私たちは学ばなければいけない」という風にCEOが本気で思っているから、ほかの会社とは力の入り方が違う。そういう会社では様々な取り組みが根付くと思います。

――そこがうまくいく会社とうまくいかない会社の違いなのですね。


遠藤功氏: 「現場力」はボトムアップだけども、ボトムアップはトップダウンからしか生まれない。だからトップが本気にならないとボトムアップは生まれてこないわけです。特に日本の会社の場合はサラリーマン社長だから、社長がどんどん代わるでしょう。ベゾスの場合は創業者だから、それが会社の思想として根付いている。AmazonというのはKindleとかITの分野は確かにすごいけれども、決してITだけの会社ではない。そういった意味でも非常にオペレーションの強い、現場がしっかりした会社です。

変化の激しい時代でも、普遍的なことはある


――「気づいているけれどもやらない」というのは、どうしてなのでしょうか?


遠藤功氏: 頭の中では分かっているけれど、行動が伴わないということは「分かっていない」ということなんですね。本当に分かっていたら行動するはずですから。分かった気になっているというだけなんじゃないかな。やるというよりも、やり続けられるかどうか。続けられるかどうかですよ。継続性とか持続性が多分一番重要ですね。

――「継続は力なり」という言葉もありますね。


遠藤功氏: 最近は特にそうですね。これだけ変化が激しいから「変わっていくのが当たり前だ」と思ってしまうけれども、逆に変わってはいけないものも必ずある。変わってはいけないことを愚直にできるかどうかが実は重要なんです。

――普遍的なものは必ずあるのですね。


遠藤功氏: 普遍的なもので差がつくんです。当たり前のことが当たり前にできるかどうかが実はすごく大きな差で、目に見えるようなところで差がつかなくなってきていますね。

毎朝1時間半新聞を隅から隅まで読めばほかの情報はほとんどいらない



遠藤功氏: 私は毎朝新聞を丹念に読みます。隅から隅まで(笑)、全部読みますよ。食事しながらでも必ず読む。後でまた細かく読まなければいけないところは別にして、トータルすれば1時間から1時間半は読んでいますね。だって、それだけやれば今知っておかなければいけないビジネスに関する情報は凝縮されているからです。毎日そうやっていれば、世の中のことはだいたい分かる。私の場合はもう習慣になっています。

――その習慣がついたのは、就職されてからですか?




遠藤功氏: コンサルタントになって、いろいろな業界とお付き合いをするようになってからです。それまでは自分の興味のあるところしか見ていなかったけれど、明日どの業界の人と付き合うか分からないわけだから、いろいろなことを知っていないといけない。当然政治的な話もそうだし、経営者の方とお会いすることも多い。そうすると新聞を隅から隅まで読んでいないといけないんです。自分の「引き出し」を増やすしかないですから。直接役に立たなくてもいつかは役に立つわけだし、世の中のメカニズムはすべてつながっている。例えば産業と金融はつながっているし、政治と経済もつながっている。「だからここの部分だけ知っていればいいや」という話ではないんですよ。

――コンサルティングを始められた時に、ものの見方や仕事に関する意識の変化があったのですか?


遠藤功氏: そうですね。一流の会社の社長と話す時に、彼らは話の間口はとても広いわけです。いろいろな球が飛んでくるから、いろいろなことを知っていないと投げ返せない。その時々に本を読めばいいという話ではなくて、やはり毎日自分で情報にアンテナを張って興味を持つことが大切なんです。いろいろなことに好奇心を持つということが重要で、「自分はこれにしか興味がありません」というのであれば、それはいいコンサルタントには絶対なれないと思います。

――いろいろなところに「引き出し」を持つということですね。


遠藤功氏: すべてのことはつながっているからですね。「製造業だからサービス業は関係ありません」とか「流通業は関係ありません」とか、ましてや「金融業は関係ありません」なんてありえない。全部経済活動という中ではつながっているし、その隣には政治がある。そうすると世界で何が起きているかということに対して興味を持つべきですよね。「自分はこれだけしか興味ありません、これだけ知っていればいいんです」というのでは、その他大勢の人と一緒です。だから自分が違う人間になりたいと思ったら、もっともっと視野を広げて興味を持たないと。

出会った人に自分の世界の狭さを教えられ、努力をするようになった


――コンサルティングに入った当初、経営者の方々とたくさんお会いするわけですけれども、緊張されたりしたことはありましたか?


遠藤功氏: 緊張はなかったけれど、自分の視野が狭いということに対しては考えるものがありましたね。相手はいろいろなことを知っているし、私よりも年上で経験も豊富で、視野も広いから、いろいろな話題が出てくる。その時に「自分の世界はものすごく狭い」ということに気がつくわけですね。当時の私は32歳で、三菱電機という会社しか知らず、それが自分のすべての世界だと思っていたわけですから。それを偉い人に気づかされて努力を始めたわけです。気づかないと誰も努力しないですよね。

――「気づく」ということですね。


遠藤功氏: 私も現場に行くのはなぜかといったら、自分の知らないことがたくさんあるから、そこで気づかせてもらっているわけです。気づいて、興味を持てたら、「もっと知りたい」と思いますし。「気づき」というのは、自分で気づけるかといったらとても難しい。いろいろな人に気づかせてもらうわけです。だからたくさん出会いがあったほうがいい。

ビジネス書は速読でエッセンスを学び、旅行記では好奇心を養う


――新聞は1時間半かけて読まれるそうですが。読書はいかがでしょうか?


遠藤功氏: ビジネス書は私にとっては読まないといけないものだから、はやっている本は必ず目を通すようにしますね。でも、ちゃんと読みとおすのではなくて、速読をします。自分が知らないことや、「これは面白いな、新しいな」と思うことが1冊の中に1つでも2つでもあればもうそれで十分だと思っていますね。もちろん何にもない本もありますけれど。本の中にも「気づき」を求めているわけです。

――いわゆる文芸書みたいなものはお読みになりますか?




遠藤功氏: 高校・大学時代は文学青年でしたが、最近は文芸書はあまり読みません。寝る前に必ず読むのは、海外旅行記ですね。旅行記を読んで、スイッチをオフにして寝るんです。私が行ったことのない国の話を読んで「ああ、面白い体験をしているな」と感じてスイッチがオフになっていくわけですね。

――朝の新聞で気づきがあってオンになり、夜の旅行記で気づきをオフにされるんですね。


遠藤功氏: 海外の旅行記には、自分の知らない世界や行ったことがない場所がたくさん出てくるし、そこを読むととても面白いんですね。そうすると「今度あそこに行ってみようかな」と考えられるので、毎回寝る前は海外旅行記を読むことにしています。

――最近はどんな旅行記をお読みになるのですか?


遠藤功氏: 今読んでいるのはアジアを旅しているバックパッカーの書いた本です。あとは自転車で世界一周に行った人の体験記なども読んでいますね。本を探す時は、書店の旅行書や旅行記のコーナーを見て、面白そうなものを片っ端から買って読んでいます。無名の著者のほうが面白いですよ。

――今でも書店さんに足を運ばれているのですね。


遠藤功氏: 毎週1回、週末は書店に行くようにしています。

――昔と今とを比べて書店さんや本自体が「こんな風に変わった」というご感想はありますか?


遠藤功氏: 今はもう、書店はコンビニ状態だから、売れない本はすぐどかされてしまう。あれはちょっと…と思いますね。売れる本だけ並べればいいのかというと、そうじゃない。本というのは文化だから、多様性があって初めて文化なので、売れる本だけ並べておくというのはどうかと思います。特に旅行記なんて、売れないからすぐにどかされる(笑)。

――では、見つけたらすぐに買われるんですね。


遠藤功氏: すぐ買いますよ。だから、いつも未読本のストックを5冊ぐらい置いておきますね。

本を書店で買うのと、Amazonで買うのではまったく別の体験


――難しい本は嫌がられる傾向にあるのでしょうか?


遠藤功氏: 単純に売れない本は置かないという話でしょう。スペースにも限りがあるし、出版点数が多いから。でも本を全部Amazonで買うかというと、欲しい本がピンポイントである場合はいいけれど、Webで本を眺めていても、本は語りかけてこないですからね(笑)。だから紀行本は書店で買う。買うことが決まっている本はAmazonで買えばいい。書店で買うのとAmazonで買うのは、同じ本を買うにしても全然違いますね。

――まさしく「気づき」ですよね。


遠藤功氏: たくさんある中でキラッと光っている本があるわけです、「読んでね」って語りかけてくる。そうした本に出会うのが楽しい。そういった意味で、書店というのは絶対必要な場所だと思います。

――ご自宅には本を納めた書庫や書斎みたいなものはありますか?


遠藤功氏: あることはあるけれども、全然整然としていないですよ。乱雑だし、1回読んだら友達にあげたり、学生にあげたり、子どもにあげたりしていますね。「これは面白いよ」と言うと、みんな喜んでくれますね。

出張の際、できるだけいろいろなところを旅して「出会い」を探る


――ほかに何か好奇心の赴くところで何か活動をされていますか?


遠藤功氏: 最近は時間があまりないんですが、海外も国内もそうだけれど、出張に行った時に時間があれば少しでもいろいろなところを回ってみようと思っています。日本には自分が知らないところがたくさんあって、「ああ、こんなにいいところがあるんだ」という発見があるとびっくりしますね。今は日本国内のほうが面白いですね。

――それは海外に行かれることが多いから分かることですね。


遠藤功氏: たまたま講演で地方に行くこともあるので、時間が取れれば自分でレンタカーを借りて回るんです。この前も大分に講演に行った時は、半日時間があったからレンタカーで観光をしてきました。レンタカーだと行きたいところにいけますからね。初めて杵築という町に行ったけれど、すごくいいところですよ。以前に週刊誌で見て、すごくきれいな町だなと思っていたんです。場所を調べたら大分の空港から近かったので、ここだったらレンタカーで行けるなと思って、途中杵築で2、3時間ぶらぶらと歩いてから大分に行きました。杵築にはお城もありますし、坂の町なんですね。

――まさか、そんな場所に遠藤さんがいらっしゃるとは誰も思わないと思います。


遠藤功氏: そういうことが一番気分転換になります。自分で面白いなと思ったところには自分で行ってみる。ワインが好きなので、北海道でも自分でワイナリーを探して行きました。だからこれもすべて好奇心ですねその時には「山崎」というワイナリーへ行ったんです。今、北海道のワインはとてもおいしいですよ。自分のところでぶどうを作っている小さいワイナリーがたくさんできています。特に白ワインはレベルが高いですね。

――ワイナリーを訪問して、その場でお飲みになるのですか?


遠藤功氏: そこでは大量に買って家に送るんです(笑)。直接行くと、ネットとか酒屋でも売ってない、「そこでしか売っていません」という非常に希少なワインがあったりするから、そんなのを見つけた時はすごいラッキーですね。限られたぶどうしかないので、「これは来ていただいた方しか売れません」と。

出会いと気づきに加えて、行動が大切


――このインタビューの中で、すべてにおいて「出会い」「気づき」というところが根底にあるんだなと思いました。




遠藤功氏: その前に「動く」ですよね。動くというのは重要で、まずは動かないとどうしようもない。動かないと出会えないし、出会わないと気づかないし、だからまず動くんです。どう考えたって、行動する人としない人の差が圧倒的に出ます。人間24時間しかないのは一緒でしょう? 24時間をどう使うかということが人生の生き方を決めるわけです。だから、できるだけその中で自分の動ける時間を作る。動けば出会えるわけだし、出会えばいろいろなことに気づくわけです。そういう時間を増やすことが実は豊かになっていくことにつながる。では動くためにどうするかというと、それこそ本を読んで「あそこに行ってみたいな」と思うわけですね。本が起点になって「動く」ことが誘発される。そういう意味でも動くことが重要だし、本を読んで頭の中で想像するだけではなく、今度は自分で動いてみる、行ってみるという行動は大切ですね。意識的にやらないと日常性に流されてしまう。そうすると楽だけれど、豊かと呼べるかというとそうではないですよね。

新しいテーマは『現場女子』


――最後に今後取り組みたいテーマをお伺いしたいと思います。


遠藤功氏: 12月に新しい本が出ました。タイトルが『現場女子』と言うんです。現場で頑張っている女子を題材にしている本で、日本経済新聞出版社から出ました。私が実際に女性が活躍している会社を取材して書いた本なんです。この企画が生まれたきっかけなんですが、いくつかの現場に行った時、女性の活躍している姿を見ていて、そこから「なぜこの現場でこんなに女性が頑張っているんだろう」という疑問とテーマの気づきがあって、その「現場力」と「女子力」を合体させてこの本になりました。それも私が現場に行くからそういうことが生まれてくるんですね。自分が「これを書きたい」ということではなくて、いろいろと動くことによって新しいテーマも決まってくる。ふつふつと新しいものが生まれてくると思うんです。だから、そういう出会いや題材やテーマがあればうれしいですよね。
そんな本の書き方をしていますので、あんまり固定的なテーマらしきものはないんですね。机上の空論よりも、現場に行ったほうが面白いですね。だから本をきっかけにして、皆さんにどんどん動いてもらうといいんじゃないかなと思っています。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 遠藤功

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