遠藤功

Profile

1956年生まれ。早稲田大学商学部卒業。米国ボストンカレッジ経営学修士(MBA)。三菱電機株式会社、米系戦略コンサルティング会社を経て、現職に至る。早稲田大学ビジネススクールでは、経営戦略論、オペレーション戦略論を担当し、現場力の実践的研究を行っている。 また、欧州系最大の戦略コンサルティング・ファームであるローランド・ベルガーの日本法人会長として、経営コンサルティングにも従事。戦略策定のみならず実行支援を伴った「結果の出る」コンサルティングとして高い評価を得ている。カラーズ・ビジネス・カレッジ学長。中国・長江商学院客員教授。株式会社良品計画社外取締役。

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出会った人に自分の世界の狭さを教えられ、努力をするようになった


――コンサルティングに入った当初、経営者の方々とたくさんお会いするわけですけれども、緊張されたりしたことはありましたか?


遠藤功氏: 緊張はなかったけれど、自分の視野が狭いということに対しては考えるものがありましたね。相手はいろいろなことを知っているし、私よりも年上で経験も豊富で、視野も広いから、いろいろな話題が出てくる。その時に「自分の世界はものすごく狭い」ということに気がつくわけですね。当時の私は32歳で、三菱電機という会社しか知らず、それが自分のすべての世界だと思っていたわけですから。それを偉い人に気づかされて努力を始めたわけです。気づかないと誰も努力しないですよね。

――「気づく」ということですね。


遠藤功氏: 私も現場に行くのはなぜかといったら、自分の知らないことがたくさんあるから、そこで気づかせてもらっているわけです。気づいて、興味を持てたら、「もっと知りたい」と思いますし。「気づき」というのは、自分で気づけるかといったらとても難しい。いろいろな人に気づかせてもらうわけです。だからたくさん出会いがあったほうがいい。

ビジネス書は速読でエッセンスを学び、旅行記では好奇心を養う


――新聞は1時間半かけて読まれるそうですが。読書はいかがでしょうか?


遠藤功氏: ビジネス書は私にとっては読まないといけないものだから、はやっている本は必ず目を通すようにしますね。でも、ちゃんと読みとおすのではなくて、速読をします。自分が知らないことや、「これは面白いな、新しいな」と思うことが1冊の中に1つでも2つでもあればもうそれで十分だと思っていますね。もちろん何にもない本もありますけれど。本の中にも「気づき」を求めているわけです。

――いわゆる文芸書みたいなものはお読みになりますか?




遠藤功氏: 高校・大学時代は文学青年でしたが、最近は文芸書はあまり読みません。寝る前に必ず読むのは、海外旅行記ですね。旅行記を読んで、スイッチをオフにして寝るんです。私が行ったことのない国の話を読んで「ああ、面白い体験をしているな」と感じてスイッチがオフになっていくわけですね。

――朝の新聞で気づきがあってオンになり、夜の旅行記で気づきをオフにされるんですね。


遠藤功氏: 海外の旅行記には、自分の知らない世界や行ったことがない場所がたくさん出てくるし、そこを読むととても面白いんですね。そうすると「今度あそこに行ってみようかな」と考えられるので、毎回寝る前は海外旅行記を読むことにしています。

――最近はどんな旅行記をお読みになるのですか?


遠藤功氏: 今読んでいるのはアジアを旅しているバックパッカーの書いた本です。あとは自転車で世界一周に行った人の体験記なども読んでいますね。本を探す時は、書店の旅行書や旅行記のコーナーを見て、面白そうなものを片っ端から買って読んでいます。無名の著者のほうが面白いですよ。

――今でも書店さんに足を運ばれているのですね。


遠藤功氏: 毎週1回、週末は書店に行くようにしています。

――昔と今とを比べて書店さんや本自体が「こんな風に変わった」というご感想はありますか?


遠藤功氏: 今はもう、書店はコンビニ状態だから、売れない本はすぐどかされてしまう。あれはちょっと…と思いますね。売れる本だけ並べればいいのかというと、そうじゃない。本というのは文化だから、多様性があって初めて文化なので、売れる本だけ並べておくというのはどうかと思います。特に旅行記なんて、売れないからすぐにどかされる(笑)。

――では、見つけたらすぐに買われるんですね。


遠藤功氏: すぐ買いますよ。だから、いつも未読本のストックを5冊ぐらい置いておきますね。

本を書店で買うのと、Amazonで買うのではまったく別の体験


――難しい本は嫌がられる傾向にあるのでしょうか?


遠藤功氏: 単純に売れない本は置かないという話でしょう。スペースにも限りがあるし、出版点数が多いから。でも本を全部Amazonで買うかというと、欲しい本がピンポイントである場合はいいけれど、Webで本を眺めていても、本は語りかけてこないですからね(笑)。だから紀行本は書店で買う。買うことが決まっている本はAmazonで買えばいい。書店で買うのとAmazonで買うのは、同じ本を買うにしても全然違いますね。

――まさしく「気づき」ですよね。


遠藤功氏: たくさんある中でキラッと光っている本があるわけです、「読んでね」って語りかけてくる。そうした本に出会うのが楽しい。そういった意味で、書店というのは絶対必要な場所だと思います。

――ご自宅には本を納めた書庫や書斎みたいなものはありますか?


遠藤功氏: あることはあるけれども、全然整然としていないですよ。乱雑だし、1回読んだら友達にあげたり、学生にあげたり、子どもにあげたりしていますね。「これは面白いよ」と言うと、みんな喜んでくれますね。

出張の際、できるだけいろいろなところを旅して「出会い」を探る


――ほかに何か好奇心の赴くところで何か活動をされていますか?


遠藤功氏: 最近は時間があまりないんですが、海外も国内もそうだけれど、出張に行った時に時間があれば少しでもいろいろなところを回ってみようと思っています。日本には自分が知らないところがたくさんあって、「ああ、こんなにいいところがあるんだ」という発見があるとびっくりしますね。今は日本国内のほうが面白いですね。

――それは海外に行かれることが多いから分かることですね。


遠藤功氏: たまたま講演で地方に行くこともあるので、時間が取れれば自分でレンタカーを借りて回るんです。この前も大分に講演に行った時は、半日時間があったからレンタカーで観光をしてきました。レンタカーだと行きたいところにいけますからね。初めて杵築という町に行ったけれど、すごくいいところですよ。以前に週刊誌で見て、すごくきれいな町だなと思っていたんです。場所を調べたら大分の空港から近かったので、ここだったらレンタカーで行けるなと思って、途中杵築で2、3時間ぶらぶらと歩いてから大分に行きました。杵築にはお城もありますし、坂の町なんですね。

――まさか、そんな場所に遠藤さんがいらっしゃるとは誰も思わないと思います。


遠藤功氏: そういうことが一番気分転換になります。自分で面白いなと思ったところには自分で行ってみる。ワインが好きなので、北海道でも自分でワイナリーを探して行きました。だからこれもすべて好奇心ですねその時には「山崎」というワイナリーへ行ったんです。今、北海道のワインはとてもおいしいですよ。自分のところでぶどうを作っている小さいワイナリーがたくさんできています。特に白ワインはレベルが高いですね。

――ワイナリーを訪問して、その場でお飲みになるのですか?


遠藤功氏: そこでは大量に買って家に送るんです(笑)。直接行くと、ネットとか酒屋でも売ってない、「そこでしか売っていません」という非常に希少なワインがあったりするから、そんなのを見つけた時はすごいラッキーですね。限られたぶどうしかないので、「これは来ていただいた方しか売れません」と。

出会いと気づきに加えて、行動が大切


――このインタビューの中で、すべてにおいて「出会い」「気づき」というところが根底にあるんだなと思いました。




遠藤功氏: その前に「動く」ですよね。動くというのは重要で、まずは動かないとどうしようもない。動かないと出会えないし、出会わないと気づかないし、だからまず動くんです。どう考えたって、行動する人としない人の差が圧倒的に出ます。人間24時間しかないのは一緒でしょう? 24時間をどう使うかということが人生の生き方を決めるわけです。だから、できるだけその中で自分の動ける時間を作る。動けば出会えるわけだし、出会えばいろいろなことに気づくわけです。そういう時間を増やすことが実は豊かになっていくことにつながる。では動くためにどうするかというと、それこそ本を読んで「あそこに行ってみたいな」と思うわけですね。本が起点になって「動く」ことが誘発される。そういう意味でも動くことが重要だし、本を読んで頭の中で想像するだけではなく、今度は自分で動いてみる、行ってみるという行動は大切ですね。意識的にやらないと日常性に流されてしまう。そうすると楽だけれど、豊かと呼べるかというとそうではないですよね。

新しいテーマは『現場女子』


――最後に今後取り組みたいテーマをお伺いしたいと思います。


遠藤功氏: 12月に新しい本が出ました。タイトルが『現場女子』と言うんです。現場で頑張っている女子を題材にしている本で、日本経済新聞出版社から出ました。私が実際に女性が活躍している会社を取材して書いた本なんです。この企画が生まれたきっかけなんですが、いくつかの現場に行った時、女性の活躍している姿を見ていて、そこから「なぜこの現場でこんなに女性が頑張っているんだろう」という疑問とテーマの気づきがあって、その「現場力」と「女子力」を合体させてこの本になりました。それも私が現場に行くからそういうことが生まれてくるんですね。自分が「これを書きたい」ということではなくて、いろいろと動くことによって新しいテーマも決まってくる。ふつふつと新しいものが生まれてくると思うんです。だから、そういう出会いや題材やテーマがあればうれしいですよね。
そんな本の書き方をしていますので、あんまり固定的なテーマらしきものはないんですね。机上の空論よりも、現場に行ったほうが面白いですね。だから本をきっかけにして、皆さんにどんどん動いてもらうといいんじゃないかなと思っています。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 遠藤功

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