学者と電子書籍のマッチングをこれから議論していきたい
仲正昌樹さんは金沢大学法学類教授として、ご専門は政治思想史、社会思想史、社会哲学です。著者としても専門書から一般書まで、多数執筆されています。ドイツ留学の経験もあり、学者として研究にまい進される仲正さんに、電子書籍の未来、本とのかかわり、学者と論文執筆についてご意見を伺いました。
家ではネットにつながない、資料を読みながら執筆の日々
――早速ですが、大学でのお仕事を含めて近況を伺えますでしょうか?
仲正昌樹氏: 大学では政治思想史という科目で教えています。法学類の方では政治思想史に関連した演習とか基礎演習、それから1年生向けの初学者ゼミを担当しています。あとは、法学類とは別に教養課程のドイツ語の授業。大学の中ではそういう感じですね。本は、具体的に書き進めているのは、現在2冊ですね。その他、出版社に原稿を既に渡して、編集待ちの向け原稿がいくつかあります。雑誌あるいは論集の依頼原稿です。あと、政治思想史の教科書を編集し終わって、作業が始まるのを待っています。
――普段の執筆はどちらの場所で行われているんですか?
仲正昌樹氏: 研究室と自宅です。私はもう1台ノート型パソコンを持ってるんですけれど、家ではネットにつないでいないんです。スマートフォンにまだ切り替えてないから、その時にでもまとめてやろうかなと思ってるんですけど。あとは、ずっとネットを見ていると不健全な気もしますしね。
――家と研究室での執筆の割合はどのくらいですか?
仲正昌樹氏: ちゃんと計ったことはないけど、7対3か6対4くらいじゃないですかね。あと、本をどっちに置いて仕事をするかで、メインの仕事場所が決まってくるわけなんですね。大抵の人は、少々汚れてもいい本と、あまり汚したくない本ってあって、汚したくない本はどっちかに決めて置いとく。大抵、研究室になると思います。私はそうしています。そのため、研究室で書く割合が多くなります。また、先ほどお話したように、私は家のパソコンをネットに繋いでないので、研究室でネットで調べものをしながら書き進める方が便利です。日本だとあんまり発達してないけれど、海外だと哲学など学術論文が掲載されているジャーナルを無料で公開しているサイトとかあるんです。それから、大学が契約を結んでいて、学内からだと無料で見られるジャーナルもあります。あと、図書館で本を借りたり、相互貸借で余所の図書館から取り寄せたりするにも、学内にいた方が便利です。
――普段の執筆の場合も、資料を見ながら進められるんですか?
仲正昌樹氏: 書いてるものの種類にもよるんですけれど、資料を見てる割合は結構高いですね。例えばある思想家のテキストについて解説する本の場合は、資料を見て重要な部分を引用し、引用しながら自分で解釈を考えるというやり方が多くなります。特定の思想家についての解説じゃなくて、ある思想傾向とか論調につついて自分の視点からまとめたうえで論評するような文章の場合、いちいち細かく見ないで、記憶に頼りながら大筋を書いて、後で細かいところを確認していく感じになると思います。エッセイのようなものったらあんまり見てないと思います。
ネットは使用せず、書籍は専門書店に注文する
――書籍はここにあるだけでどれくらいの冊数になるんですか?
仲正昌樹氏: そうですね。確実に1000冊はあると思いますけどね。わざわざ数えたことはないですけど。
――これは研究生活に入ってからのものでしょうか?
仲正昌樹氏: 基本的に捨てはしないですね。あとは、本の買い方って時期によって違う。院生のころはそんなに買わないようにしてました。収入がないから。教員になってから買う冊数は圧倒的に増えました。ただ、大学の予算で買う本も少なくないですね。先生になったばかりの時は、元々の蔵書が少ないということもあったし、関心が文芸批評的なものから政治思想や法思想へと拡がっていく時期でもあったので、いろいろ買っていました。最近は、大学の予算が少なくなったので、必然的に自分で買う本の割合が増えていますが。本とか消耗品を買うのに使える大学の予算を校費というんですが、校費で買うのは、いい本だけど、すぐには読まない資料、あと、政治思想史を教えている人だったら持っておいた方がいいような基本的な本とかです。あと、献本が多くなりましたね。直接執筆と関係無しに読んでいるのは、献本が多いですね。講談社から作品社とか春秋社とから、私の関心に関連していそうな本を、担当編集者が送ってくれる。少なくとも月1冊は何かもらってる気がしますね。
――本を購入する時は、本屋さんに行かれるんですか?
仲正昌樹氏: 新書と文庫は基本的に金沢でも買えます。4000円台を越えるとそもそも部数が少ないから、金沢にない本っていうのがあります。そういう本は京都か東京に行った時に買います。
――ネットを利用されますか?
仲正昌樹氏: いや、ネットは使わないです。宅配がそもそも面倒です。Honya Clubの様な仕組みとかが割と楽ですね。生協に送ってくれて生協で買うんです。ただこのHonya Clubの難点は、洋書が注文出来ないことです。これが洋書も店頭で受け渡し出来る様になれば相当楽だなと思います。
――東京へ行かれた時の、お気に入りの書店はどちらですか?
仲正昌樹氏: ドイツ語の本で買いたいものが決まっていたら、郁文堂に行くことがあります。電話で注文することもありますが、実物を見て買いたい時もあります。頻繁に行くのは、八重洲のブックセンターとか、丸善ですね。東京駅に降りてすぐだから。あと時間があれば、紀伊國屋、リブロ、ジュンク、三省堂などにも行きます。英語圏、フランス語圏、ドイツ語圏の哲学や倫理学の新しい本については、丸善の四階か、紀伊国屋の代々木店でチェックしています。
大学院生の時から、論文を「書く」ということを意識し始めた
――先生の幼少期のころからの読書歴をお伺いしたいと思います。ご出身は。
仲正昌樹氏: 広島の呉出身です。
――子どものころから本はたくさん読まれていましたか?
仲正昌樹氏: 学者に一般的になってる人が読んでるのに比べれば多くはないと思うんですけど、普通よりは読んでいたと思います。ただ、子どものころから難しいものを読んでいた記憶はないです。せいぜい偉人伝とか、漫画の日本史とか、それぐらいしか読んでいない。よく天才だって言われる人で、中学くらいから本当に難しい哲学書みたいなものを読む人がいるけれど、それはなかったです。せいぜい新潮文庫の小説くらいですね。
――その中で書く行為もされていましたか?
仲正昌樹氏: いや、本当に書くことを意識し始めたのは、院生になった29歳の時です。私の場合特殊で、新興宗教にいた時期に、新聞記者の仕事もやっていましたから、その時、「書く」経験は結構しましたが、論文を書く感覚とは違います。新聞の記事は、短く、印象に残るように書くことに重点を置きますが、論文は、厳密さ、論理的一貫性、先行研究に基づく裏づけなどを必要とします。
著書一覧『 仲正昌樹 』