はせがわみやび

Profile

1963年6月30日生まれ。埼玉県浦和在住。物語とゲームがあれば、他に娯楽はいらないという人。著書は『ティアリングサーガ ユトナ英雄戦記』(全3巻/ファミ通文庫)、『ファイナルファンタジーXI』シリーズ(ファミ通文庫)、『新フォーチュン・クエストリプレイ』シリーズ(深沢美潮と共著/電撃文庫)。浦和レッズの熱烈なサポーター。最近の活動では「英雄伝説 空の軌跡」を電子書籍の月刊ファルコムマガジン(毎月末頃配信)で連載中。
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実家は書店、広範な読書と父親との「激論」で成長


――ゲームだけではなく、ほかのジャンルの本などにインスパイアされることもあるのではないかと思いますが、普段はどのような本を読まれていますか?


はせがわみやび氏: 本は何でも読みます。参考にしているものは、あらゆる漫画、小説、映画ですよね。学生時代に読んでいたのは、ノンフィクション半分、小説半分くらいですね。ノンフィクションは、学者志望だったので、サイエンス関係の本が多かったです。そこからもネタを引っ張ってきているというのがありますね。あとは、ファンタジーの世界で殺人事件をやるというテーマは、辻真先さんが、『アリスの国の殺人』(徳間文庫)とかでやっていますよね。ファンタジーだったらSFから持ってくるとか、ラブコメディーから持ってくるとか、いかにそのジャンルに近いものから取って来ないかがポイントかなと思います。全然関係無いところから取ってくると、皆さん驚いてくれる。



ノベライズを書くには、ノベライズを読むなということですよね。もちろんノベライズも読まなきゃいけないんですけど、読んだ上で、ネタはそこから拾わないっていうのがポイントじゃないかなって思っています。あとは実体験もあります。キャラクターが山を歩くときの経験は、大学時代のフィールドワークをそのまま生かしてます。地学系はフィールドワークのときにマッピングをするんですよ。歩数を計って手帳に書いてということをするんですね。『フォーチュン・クエスト』とか『ファイナルファンタジー』のシリーズを書くのに役立っています。

――読書体験についてさらにお聞きしたいのですが、色々なジャンルの本を読む習慣は幼少時からあったものですか?


はせがわみやび氏: 私は実家が本屋なんですよ。親が浦和の駅前で書店経営をしておりました。いまパルコがあるところにあったんですけれども、父が亡くなってしまったので店は閉じてしまいました。でも、そのために本はたくさん読む、漫画もたくさん読む子どもではありました。

――普通の読書人とは異なった形で本と深くかかわられていたご家庭なんですね。一般家庭でよくあるように、漫画を読むのを禁止されたりはしませんでしたか?


はせがわみやび氏: うちの親は全然それがなかったんです。親も漫画は読んでいましたし(笑)。何を読むかじゃなくてどう読むかということなんですね。この漫画を読んで、こういう風に考えたというように、ちゃんとした意見が言えれば、読んでいることに反対はしないんです。私はおやじと、高校時代は毎日のように議論していたんです。おやじはインテリだったから大抵負けるんですけど(笑)。

――どのようなテーマで議論をされていたのですか?


はせがわみやび氏: そのときに見ていたニュースのネタなんかが多かったでしょうか。30年以上前になるんで、ネタはあまり覚えてないですね。要するに、相手が未熟であることを知らせようという意図があったと思うんです。だから原則、僕の言うことには賛成しないような議論だったと思うんですよ。しかも向こうは酒が入ってるものだから、酔っぱらい相手にしても勝てないやみたいとこがあるんですが(笑)。

書店は巨大な図書館の「窓」である


――ご実家での貴重な体験を踏まえて、本屋さんとはどのような存在だとお考えでしょうか?


はせがわみやび氏: 出版された全ての本がある巨大な図書館があるとすると、本屋はその知の財産の窓だと思っています。だから本屋は定期的に本を入れ替えなきゃいけないと思ってるんです。返品制度がいいのかどうかっていう議論がありますが、もし返品制度がありだとするならば、大きな知の財産を見せるのが使命だと思うんですね。ウィンドウに何を映すかっていうのを変えるために返品制度があるんだっていう風に考えれば、ありだと思っているんです。

例えば小さい本屋で1万冊しか入らないとしますよね。でもその1万冊を、1年に1回入れ替えれば、10年間に10万冊の本をウィンドウに並べられる。もちろん本当は知の財産はもっと大きいものですが、完全に固定のものしか並ばなかったら、人類が持ってる知の財産のごくごく一部しか与えることはできないですよね。小さな本屋は色んな見方で知の財産の紹介をしてくれる場所っていう考え方もあると思います。ただ、現実にはうまく返品させることはできていないので、Amazonさんがその役割を担っている。Amazonさんには「お勧め」で、自分の本棚ができるじゃないですか。それが僕の言っていることの現代版になっていると思うんですよ。小さい書店をいっぱい作る代わりに、Amazonの使用者のウィンドウに陳列して、背後に大きな知の財産があることを見せるということをしています。小さい本屋があれと同じことをできるんだったら生き残れたと思うんですが、実際には、そう行かなかったので、こういう現状になってるのかなという気はします。

――いまも書店に足を運ばれることはありますか?


はせがわみやび氏: ええ。私は本屋中毒なんです。大学に行っていたときは毎日3、4軒回って帰っていましたが、いまでも2日に1回くらいは行っています。なぜ本屋に行くのかと言うと、買うだけじゃなくて、どんなものがウィンドウに映ってるかを見るためです。地層を見る様なものですね。

――書店を回るときはやはり本の入れ替えなどを中心に見ているのでしょうか?


はせがわみやび氏: たまに本屋に対する文句で、何で3ヶ月とか半年で棚を変えるんだ、探しづらいじゃないかというのがありますが、あれは探しづらくしてるんですよ。動物の記憶って差分で行うと思うんです。初めて通る道は、周りを注意して見て歩くけれども、毎日通る道って見なくなりますよね。だけど、看板が変わってると気付くじゃないですか。前の日と違うところに注目するんですよ。動物が餌を取りに行って戻るときは、前に通った安全な道を歩きますよね。でも、何か違ってたら危険になっているかもしれないからそこは注意します。

本屋もたくさん本を並べていても、2、3回通って棚が変わらなかったら、見ないんですよ。良い本があっても、前の日と同じ位置に並んでると、見る方がよっぽど昨日と違う気分になってない限りは見ないんですよね。それを強引に棚を変えると「あれ?」と思って探す。もちろん頻繁にやりすぎると、危険ばっかりだからここは通らないようにしようってなっちゃうので、安心さを与えるレベルで変えないといけないんだと思うんですけど。だから1周して出るまでに、ぼんやり歩いてしまうということは棚が変わってない。そういう本屋は、大抵潰れてしまいます。チェーン店とか大きい本屋さんは定期的に棚を変えますよね。場合によってはフロアを変えたりもしています。あれは絶対必要ですね。Amazonもお勧め本がずっと同じだったら見なくなると思うんですよね。

電子書籍により「1冊の本」という概念がなくなる


――出版不況とも言われる中、電子書籍の出現が救世主としても、さらなる出版界の危機であるとも語られています。電子書籍にはどのようなお考えを持っていますか?


はせがわみやび氏: 知の海にさかのぼって行きやすくなるという点では、絶版がなくなるというのが1番大きいです。特に娯楽はそうなんですけれども、物理的に手に入らないとあきらめるものだと思うんです。実用書はあまり変わらないと思うんです。切羽詰まっていれば国会図書館に行けば良いので、何としてもということであればそこまでやるだろうと思うんです。娯楽は手に入れるためのハードルが低い方がいい。例えば本屋で注文しなければならないと買わなくなるんです。小さい本屋の最大のネックもここにあって、新刊が出て売れてる最中でも、その書店になかったらもう駄目なんですよ。書店員に「すいません、注文してください」って言うのは勇気の要ることで、普通の人は、「まぁいいや」ってなってしまう。電子書籍だとその場でダウンロードすればいいことですからね。

――本の形態が変わることで読み手、書き手にどのような変化が起こるでしょうか?


はせがわみやび氏: 例えば漫画の場合、電子書籍になった場合、巻っていう概念がなくなりますよね。30年前の漫画といまの漫画を比較したときの1番大きな差は、1つの作品の巻数が増えたことだと思うんです。昔は内容的に1冊だったのが、3冊とか5冊になってますよね。それは、いまの人たちはそれくらいでないと当時と同じ様に楽しめないからです。ストーリーを楽しむ人って、プロット重視でディテールはあんまり気にしなかったりするんです。いまは心理的な部分や、細かい描写があるので、同じプロットでもページ数がかさんでくる。読者が楽しんでる部分が違うんだと思います。



それで、いままでは本が先に出版されていたから、巻の概念に縛られてたけれど、電子書籍になってしまうと、例えば1冊500円の単行本3冊分を1500円で買っても、たくさんの本を買ってるというより1個の物語を買っている気分になります。それをあらためて本にすると、膨大な巻数になってしまいますよね。多分、電子書籍の数が多くなると、本に戻せないっていう場合が出てくるだろうと思います。デジタルネイティブの子どもたちは、最初からダウンロードされてくるものを読んでいるから、切れ目なく、だらだらと読んでる感じになりますよね。ウェブで連載した、

例えば、「となりのネネコさん」とか、「今日の早川さん」とかを読んでいる人は、多分、巻の概念がないですよね。更新されたから毎回読んでいる。あれに対して毎回お金を払うようになると大きく変わってくるでしょうね。

著書一覧『 はせがわみやび

この著者のタグ: 『ゲーム』 『考え方』 『紙』 『作家』 『雑誌』 『本屋』 『経験』 『ノベライズ』 『レーベル』

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