多面的な見方を身に付け、対立を「ブレークスルー」せよ
岸良裕司さんは、TOC(Theory Of Constraint=制約理論)の創始者、エリヤフ・ゴールドラット博士に師事し、現在はゴールドラット・コンサルティングの日本代表として日本のみならず世界各国の企業や行政の問題解決に手腕を発揮しています。特に独自の公共事業改革の理論は国策として採用されるなど大きな話題となりました。インタビューは、岸良さんが電子と紙の書籍が対立概念として語られる出版業界の問題を明快に解きほぐしてくれました。
地球を1周する間に原稿がきていた
――世界中で岸良さんのノウハウが実践されていますね。日本にいらっしゃることが少ないのではないですか?
岸良裕司氏: そうですね。最近までリトアニアに行ってました。その前が韓国、オランダ、中国。そういう感じで動いているので、時々朝起きた瞬間にどこかにいるのかわからなくなります。今日も南アフリカのエキスパートが来て、僕らの活動を支援してくれてますよ。各国に必要に応じて僕が行ったり、向こうからわざわざ来てくれたりするんです。
――そうすると執筆も日本の仕事場でというわけにはいきませんね。どのような場所で書かれているのですか?
岸良裕司氏: 明後日から飛行機に乗るので、10時間くらいずっと集中できるから、ヨーロッパに着くまでに原稿を書いて、それを送るつもりです。朝日新聞でずっとやっていた連載も、ほとんど飛行機の中で書いてました。以前、ニューヨークで原稿を書いて送って、それをフランスのシャルル・ド・ゴール空港で編集して、また向こうの意見があったんで北京でチェックして、日本に帰るころには新聞に載っていたなんてこともあります。
――地球を1周する間に原稿ができたわけですね。
岸良裕司氏: そう、地球1周。飛行機の中って集中できるんですよ。だから僕、飛行機の中で書いたり読んだりするのが大好きですね。ビジネスクラスだったら席に電源もあるし、そのときだけは邪魔されずに集中できるから、楽しんでやっています。
――岸良さんの本は各国で出版されていますが、どのような言語に翻訳されているのでしょうか?
岸良裕司氏: ゴールドラット博士に推薦を受けて書いた本"WA - Transformation management by harmony"は、英語で出して、韓国語、ポルトガル語、スペイン語、中国語も出ています。「三方良しの公共事業改革」の論文なんかは、実は、何カ国語で翻訳されたのか僕自身もわからないんです。
――国際的に活躍されていると、語学、特に英語力が必要になってくるのではないかと思うのですが、『一夜漬けのビジネス英会話』(中経出版)のご著書もある岸良さんの英語上達法をお聞かせください。
岸良裕司氏: 僕は英語がしゃべれなかったんですよ。中学3年間英語はビリでしたから。そういう人間が英語を勉強するには、ゲリラ的にやるしかない。気が付いたことはシンプルなことだったんです。皆、「英語をしゃべれる様になりたい」という目的で英語を、勉強をやっています。これが世の中の常識みたいなんですけど、僕は「外国人とコミュニケーションしたい」っていうのを目的にしたんです。例えば「私はこの本はいいと思います」って英語で言ってみてくれますか?
――This is a good book・・・
岸良裕司氏: ま、そう言うでしょう。この本はいいっていうことを言ったんですね。でも日常会話では「これっていいよ」ぐらいしか言わないでしょ。だから文法なんか気にせずにThis goodでいいんじゃないのと。isって付けるだけでも格好悪く感じませんか。ここで、もしも異論のある方は『一夜漬けのビジネス英会話』にアレルギー症状があり得るので、これ以上読み進めないことをお勧めします(笑)。だけど僕は、とにかく外国の人たちとコミュニケーションしたかっただけなんです。だから単語でも何でも並べて相手とやればいい。そうやってるうちにしゃべれる様になって、いまは同時通訳もなんとかこなせるようになっているわけです。本格的に勉強してないんですよ。しゃべれなくて苦労して、プレッシャーの中でやってきたからなんです。だからこの本は皆の共感を生むんだと思うんです。
妻の書いた本を肌身離さず持ち歩きたい
――岸良さんに、電子書籍についてもお伺いしたいと思います。現在は電子書籍はご利用されていますか?
岸良裕司氏: 読むのは紙が好きなんですけど、持ち歩きたいので、全部電子化したいんです。iPad miniも、早速買ったんですけど、あの薄さでいつも持ち歩けるんだったら最高ですね。というのも、この本を見てください。汚れてるでしょ。
−−奥さま(絵本作家のきしらまゆこさん)の絵本『いちばんをさがして』ですね。
岸良裕司氏: 肌身離さず持ってるんです。これ、泣けるくらいいい話なんですよ。飲み会でおじさんたちに見せても、本当においおい泣くんです。(岸良氏、『いちばんをさがして』の読み聞かせをはじめる) ウサギ君が散歩しているとみんな集まっておしゃべりをしてた。「ねぇねぇ何をしてるの?」と聞くと、力自慢で優勝したライオンさんのことを話してた。それで皆、「僕たちだって何か1番のことがあるんじゃないの」って言って、「キツネさんは1番賢いんじゃない?」、「キリンさんは1番背が高い」、「ゾウさんは1番大きいんじゃない」、そうしたらウサギ君が「ねぇねぇ僕が1番のことはないの」と言う。「ウサギ君は1番速く走れるんじゃない?」、「チーターさんのほうが速い」。「1番高く跳べるんじゃない?」、「カンガルーのほうが高く跳ぶよ」と。「ウサギ君は1番小さいんじゃない?」、「リスのほうが小さいよ」。ウサギ君がどんどん悲しい顔になってくるわけですよ。ウサギがとぼとぼ歩いているとライオンさんがいた。「ねぇねぇライオンさん、ライオンさんはどうやって1番強くなったの?僕も何かで1番になりたい」と。「よく寝てよく運動して美味しいものいっぱい食べて・・・」、と言いかけて、「おい、お前にも1番のことがあるじゃないか」。「え、なになに?」って、うれしそうな顔をしてる。目きらきらしてるでしょ。で、「それは、1番美味しいってことだよ」って。それで、ウサギ君はぎゃあーって逃げるんです。そのとき後ろで大きな音が、って言ったら、ライオンさん石につまずいてねんざしちゃったんです。「痛いよう。動けない。どうしよう」と不安になってきた。そこへウサギ君が湿布と包帯持って大急ぎで帰ってきた。それで、「さっきは驚かして悪かったね。お前が1番のところだけど、俺さまの1番の友達ってのはどうだ」と。どうですか、これ。肌身離さず持ちたくないですか。
――とても温かいお話ですね。
岸良裕司氏: で、僕の悩みは、これをはじめ色々な本を、持ち歩きたいんですが、重いし汚れるし。だから、やっぱり電子化して持ち歩きたいんです。常に持ち歩きたいっていうのは2つあると思うんですよ。1つは、僕にとっての嫁さんの本のように、本当に好きで常に持ち歩きたい本。そして、もう一つは、日常使う本だと思うんです。僕の本は『三方良しの公共事業改革』もそうだと思うんですけど、日常使う本なんです。僕を知っている人で、紙の本については書き込みをいっぱいしてるので、書き込んだ本は本として持っていて、もう1冊買ってスキャンして日常持ち歩いているんです。有り難い話ですね。
――ところで、奥さまのお話が出ましたが、奥さまとはどうやってお知り合いになったのでしょうか?
岸良裕司氏: 社内結婚なんです。海外にいるときに、社内報で初めて見たんですよ。すごい美人だったから、「俺の嫁さんが入ってきた」と(笑)。犯罪ってよく言われるんですけど(笑)。彼女はITの人なんですけど、絵本を書きたいって言い出して。それで絵本を始めたら、いつの間にかプロになった。まあ天才なんですね、彼女は。何をやっても天才なんです。
――愛情がひしひしと伝わってきます。結婚するまでには相当なアタックをされたんですか?
岸良裕司氏: もう、額を地面にこすり付けて(笑)。最初は苦手だったらしいんですけど、あんまり僕みたいなタイプ見たことなかったようですね。でもその後は仲良くなって、本当にすぐに結婚したんです。それ以来もうずっと仲良し。嫁さんの作品に対しても僕が色んなことをアドバイスすることもあるんですよ。極くまれですが、アイデアが採用されることもあるんです。色々なアドバイスをもらったり、あげたりして、やっぱりお互いに磨かれます。犬の散歩をしながら、色々しゃべったり。私の本はビジネス書ですが、みんなにわかりやすいって言ってほしいといつも思って書いています。だから、そこは一生懸命こだわってますよね。彼女に何度も読んでもらって、わかりにくいところはトコトン直す。彼女がいないと僕の本は成り立たないですよ。だって、嫁さんの絵が入ってないのは1冊もないですから。
著書一覧『 岸良裕司 』