山元賢治

Profile

1959年大阪生まれ。1983年神戸大学工学部システム工学科卒業。日本IBM入社。1995年日本オラクル株式会社入社。2002年 日本オラクル株式会社専務執行役員。2004年アップルコンピュータ株式会社 代表取締役兼米国アップルセールス担当バイスプレジデント。2009年コミュニカ設立。著書に『世界でたたかう英語~アップルジャパン前社長のポンコツ英語反省記』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『外資で結果を出せる人 出せない人』(日本経済新聞出版社)、『ハイタッチ』(日本経済新聞出版社)がある。

Book Information

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テクノロジーは生活をデザインする。
楽しくなければ何かが間違っている



山元賢治さんは、外資系のIT企業に30年間身を置き、Apple Japan社長も務めました。現在は有意の若者を、世界で戦えるビジネスマンに育て上げる「山元塾」を主宰。企業顧問や講演で世界中を飛び回っています。山元さんに、教育に賭ける想いや、英語論、仕事論等をお聞きしました。また電子書籍については、Appleで当事者として目の当たりにした、デジタル音楽コンテンツの発展という先例を引き合いに、テクノロジーは何のためにあるのかという根源的な視点から論を展開していただきました。

次代日本のリーダー育成のため、今できること


――変革期にある日本の、次代のリーダー育成のための活動の一つである「山元塾」ついて伺います。


山元賢治氏: はじめは「就職したけど悩んでいる」といった悩みを持つ東大生・東大卒業生10人にカウンセリングをすることからスタートしました。4回目以降は、外部講師を招きディスカッション形式となりました。毎月開催で、足かけ4年目に突入しており、ゲストによる講演会と懇親会の組み合わせになっています。僕の講演をどこかで聞いた人や、さらにそれを伝え聞いた方々が中心となって集まってくれています。

――全国で講演されていますよね。


山元賢治氏: この一年間に8000名ほどにお話しをしました。他にも、顧問企業もいっそう増えたりと忙しくなる一方ですが、「それだけだとまだ足りない、直接指導してほしい」というお声も寄せられました。

そこで、CL山元塾(=Compassionate Leadership)と称して、毎隔週土曜日に3時間、全6回に渡って私が直接講師を務め、想いやりのあるリーダーシップを教えるようになりました。2月現在、1期生、女性限定コースはすでに終了し、1月からの2期生・3期生の塾生と一緒に勉強しています。4月からの4期生・5期生の募集も始まったところです。6期生に関しては、土曜日に参加できない方の為に月曜日の夜に開講予定です。さらに同月、特に大学生を対象に若者のリーダーシップを伝授するYL山元塾(=Young Leadership)コースも始まるなど、こちらの取り組みもどんどん進んでいます。塾生にはビジネス・リーダーシップを身につけてもらい、インターンシップなどを通じて様々な企業に進んでもらいたいと思っています。

――新しい熱のこもった取り組みですね。そこではどんな活動がなされるのでしょうか。


山元賢治氏: CL山元塾では、個人、ベンチャー企業の社員、学生、大企業社員を対象に研修をしています。またYL山元塾では就職活動、起業前にリーダーシップ・経営・ビジネスコミュニケーション・ビジネスマナーを身につける選抜研修という形で行われます。どちらも
広い世界に通用する、戦えるスキルとして3つの柱を伝授しています。

――「3つの柱」とは。


山元賢治氏: 「Compassionate Leadership: 心、想いやり、価値観」、「Business Communication: 話し方、聞き方、状況判断、語彙選びなど」、「Personal Branding: 身だしなみ、髪型、服装など」です。

この3つの柱を軸にリーダーシップとは何かを、塾長である私が直接問い、ヒントを与え、それを受けて塾生自らが考え行動する内容になっています。皆、熱気に満ち溢れています。スピード、地頭、素直さ、柔軟性、経験、これから伸びていく人には、どれもみな大事な要素だと思いますが、そういったものを兼ね備えている若者がどんどん集まって、切磋琢磨してくれているのは、塾長としてとても嬉しいです。

――行動と、結果。そのプロセスの間にスピード感を感じます。


山元賢治氏: 「自分が今何をやれるのか」と考えた時、もたもたしている時間はないのです。それを評して、フランクリン・コヴィー社の副社長の佐藤さんは私を「ビジネスアスリート」という風に紹介して下さいました。(笑)

本物の英語、話せる英語で未来の人材を作り出す


――30年以上の外資系企業の経験もふまえ、英語教育についてもお伺いしたいと思います。


山元賢治氏: 今苦しんでいる日本の若者、世界で戦う若い人に、THINK into the Future (未来に思いを馳せて)、Create Your Future (あなたの未来を、あなたの手で) と伝えています。もう1つ取組んでいるのはDesign Your English。日本人が弱い英語対策ということで、大人に対する英語教育も始めました。

そこから派生し12月から、TODYE (= Test of Design Your English)という名称で、英語テストを開始しました。1000点満点のテストで、TOEIC990点越えの人でやっと700点ぐらい取れる、なかなか難易度の高いものです。この英語テストでは、スピーキング、リスニング、ビジネス・シチュエーションにあった英作文能力が問われます。

英語については、昨年8月に『世界でたたかう英語 前アップル・ジャパン社長の ポンコツ英語反省記』を出しました。

――インパクトの強いタイトルですね。


山元賢治氏: 「ポンコツ」というのは私が自らつけました。30年以上の外資の経験があっても、理想の到達点からすると、まだまだポンコツです。ビジネス・シーンを50、100と集めて、「もっとうまく伝えられたはずだ!」という苦い体験を書きました。自らのキャリアをさらけ出すような恥ずかしい本です(笑)。

――この本の狙い、主軸はどういったところでしょうか。


山元賢治氏: 日本人というのは何でも言い訳したがるので、英語においても、「これからはアジアだから、発音はいい加減でよい、勉強しないでよい。」という本が売れる傾向にあります。しかし、本物の英語でないと世界のトップでは通じない。私は、英語がまあまあでいいと思ったことは一度もありません。電話やメール、また実際に外国人と会食をするときに「ジョークが一発出ないかなあ」と思うことしきりで、これで30年間苦しみました。



ですから、私が海外で実際に遭遇した場面を紹介しながら、手を抜く方法ではなく、「最高の英語を目指す」という事に主軸を置いて書いています。

――英語そのものだけでなく、エピソードから文化背景をも理解していくのですね。近刊はどんな内容でしょうか。


山元賢治氏: 若者へのメッセージを込めた本については近日ダイヤモンド社より出版予定です。これには、私が開発したHigh-Touch Leadershipについても記述しています。会社や個人のリーダーシップレベルを108の視点から分析するMethodologyです。6つのElementsから構成されています。Business Model, Organization, Communication, To-Be Model, Business Style, Capabilityの6つの視点から分析していき、改善・改革目標を設定していけます。

――山元塾の活動や、著作活動の根底にある、山元さんのお考えはどんなものでしょうか。


山元賢治氏: 「時間と重力には絶対に抗えない」という事です。逆に言うと、それ以外はどうにでもなる、と言えます。であるならば挑戦しようということです。「一回の人生をどうしたいのか」という質問を自分に投げかけてみて下さい。決して、他人のせいにしてはいけません。質問の回答は自分自身で出す事が出来ます。そのためには常に、「自分がどうありたいか、考え抜く」これが大事であり、私がもっとも大切にしてきた行動指針ですね。

世界のレジェンドを目指す。「昔の日本人ならそうしたはず」


――今までお聞きした活動の共通項は「日本を再生させる」事だと感じますが。


山元賢治氏: そうですね。ここまで国が傷んだら、元の上質な日本人がたくさんいた時代に戻すには、下手したら10年、20年掛かるでしょう。しかし今、未来の為に、志ある者たちが行動を起こすことによって、「最高の日本」を取り戻していかなければなりません。すべての活動を通して、変革のリーダーとなりうる坂本龍馬を発掘したいと考えています。

躍動する高齢者たち。60代はまだまだ成長過程


――山元さんのバイタリティはどこからくるのでしょうか。


山元賢治氏: 体力は大事です。自宅の地下をジムにしてありますし、腕立て伏せと腹筋はもう30年以上毎日やっています。体力がないと人は仕事で絶対手を抜きますから。私がラッキーだったのは、35歳でIBMを飛び出して、GMになり、45歳で社長に就任し、50歳で退任してみたら、まだとても元気だったという事。CPUも20代とあまり変わらないし、ほとんど傷んでいない。今でも走れるし、ここぞという勝負時の交渉もできるし、計算もプログラミングもできます。

西郷、稲盛が述べ伝える「最高な日本」の復活を


――読書についてお伺いします。山元さんが最も影響を受けた本はなんでしょうか。


山元賢治氏: 一番好きな本は稲盛和夫さんの『人生の王道』です。

――稲盛さんが西郷隆盛の精神について書かれた本ですね。どんな魅力を感じましたか。


山元賢治氏: この本の基調には、「損得勘定がない清い日本人はそこらじゅうにいたんだ」というメッセージがあります。一言でいうと、心優しい。想いやりがあって、己のことを言い過ぎない、人のために精進努力する人です。私の講演で、「みなさん最近日本どうですか」と聞いたら、「停滞している」と多くの方が悲しそうに言います。でも私のメッセージは「日本は今でも最高!」です。世界を周っていた人間ほどそう思うはずです。日本最高と思う瞬間は、残念ながらほとんど海外にいるときです。

例えば「歯磨きをするときにペットボトルの水を使わなくていいことが素晴らしいと感じるか」とか、「食事の時に油と水の心配をしないで良い」とか。戦後日本が復活した要因は、日本人の上質さに起因する部分が大きいと思います。世界から見ても、空前の奇跡が起こったのです。我々はその品質のおかげで、80年代に世界から神のように扱われてきたわけです。アメリカに来た瞬間に「ケンジ、日本の品質、文化についてプレゼンしてよ」と言われたのもそういった背景からです。

――「日本最高」という確信があるからこそ、現状の日本に厳しい意見を投げかけているのですね。


山元賢治氏: 発展途上国からの帰国の際に、少し考えることがあります。そこにはエネルギーがあふれていて、若い人はみな「今日頑張れば明日もっと良くなる」という熱気のようなものがあります。60年前は日本人もそう思ってきたはずです。しかし現在、この国はどこに行きたいのかも示すことができない状況に見えます。国の行く末を憂いて戦った西郷さんのメッセージを、稲盛さんが『人生の王道』で私たちに残してくれていると感じます。私は本を読むことを強要しないタイプなので、読めとは言わないですがマネジャーチームに配りました。読むか読まないかは個人の自由ですが、必ず勉強になることがあると思っています。

iPodで経験したことが、電子書籍の世界で起こっている


――電子書籍は利用されますか。


山元賢治氏: 現在はまだあまり読んでいませんね。理由はコンテンツの少なさにあります。普及するにはコンテンツのサポート体制の強化と、信頼感のあるWebサイトが出てこなくてはならないと思っています。

――ハードウェアも各社から出ていますが、電子書籍の状況はどのように分析されますか。


山元賢治氏: ハードウェアに対して真摯に取り組んでいる会社を、信用します。Appleのように、毎年ハードウェアを良くしていくことにコミットしている会社でないと、我々読者も安心して購入できないと思います。別に毎年買う必要はないのですが、より使い勝手がよくなるよう定期的に改良されて、同じコンテンツがまた読めるという信頼感を保証するのは継続的なサービスだと思います。購入したコンテンツが、今後も見ることができるという安心感が重要であって、ハードの価格が問題ではないと思います。2004年に、iPodの類似商品が40種類ほどあったのですが、淘汰された結果、他社と一対一の対決になってから業界が伸びたわけです。「どっちか買っておけばもう安心」となりました。まだ乱立している感は否めませんが。もちろん私はApple製品のファンですから、もう少しコンテンツが増えたらiPadで読もうかな、と思います。

―― 一般ユーザーのニーズと関係のないところでシェアを争っているということでしょうか。


山元賢治氏: 人間側の立場に立って、もっと生活をデザインすべきではないかと思います。人間が支配力を持たないと。「本がある、持って歩きたいけれど重い。」これはまったくiPodと同じ動機です。それまでは、CDウォークマンでCD10枚、約100曲しか持ち歩けなかったわけです。電子書籍の議論をする前に、「一体何冊、本を持って歩きたいの?」という議論があってもいいと思います。それがテクノロジーのアプローチであって、善悪の所在がどこだとかは、ディスカッションにはならないのではと思います。

もう一つ大事なのは、音楽と同様に、読みたいと思った瞬間に読めるということです。例えば私から『人生の王道』の話を聞いて、読んでみたいと思えばすぐにダウンロードしたくなるでしょう。Amazonでクリックして、購入してもやはり時差がある、それは少し寂しい感じがしませんか。電子書籍も、Appleが先導を切ればこうならなかったのではとさえ、思っています。コンテンツは7割方カバーすればOK。私はApple時代に、最後の最後まで世界4大レーベルのソニーミュージックの曲を1曲も販売していませんでした。それであれだけ普及できたことを考えると、難しい話ではないと思います。

電子書籍の未来は、文豪より「テクノロジー屋」に聞け


――電子書籍の可能性はどういったところにあるでしょうか。


山元賢治氏: 体の不自由な人のためのリーディングブックという可能性があるのではないでしょうか。音声認識技術で、ダウンロードができ、読み上げてくれるような。その際はもちろん、操作ミスに対する補償など、なんらかのフェアな体制が必要です。新製品を作るだけではなく、Appleがやったように、「新しい生活の仕方」を作るべきだと思います。老年の夫婦がKindleを公園のベンチに座って読んでいる姿、いいと思いますよ。それなら、ご夫婦が同じページを見るような、同期型の電子書籍ができても面白いでしょう。夫が、「じゃあめくるよ」と言ったら同じページになって、妻と同じ本を読む。ネットワーク機能もあるわけだから、簡単な技術ではないでしょうか。

音楽も同じイヤホンで聴いている人がいますが、同様の発想です。要は「楽しさの創造」なのです。楽しくないことは何か間違っている。電子とかコンピューターというのは人間を楽しくする、記憶力と計算力はコンピューターに任せて、人間がクリエイティブな楽しいことをするためにある。どっちの機械がいいとか悪いとかは、問題ではない。機械に振り回されてはいけないのです。

――電子と紙の未来を、どのように見据えていらっしゃいますか。


山元賢治氏: 選択権があることは大事です。どちらにも何か特徴があるはずですし、社会でちゃんとバランスが保たれていくようになっていると思います。IBMにいた時代からペーパレスのプロジェクトを何年もやっていましたが、この不思議な紙と電子と人間の共存を、全否定するのはよくないと思います。好きな人は両方持つかもしれない。例えば、紙の本が1500円、電子書籍が500円でも良いと思います。私の場合『人生の王道』は何度も読みたいから電子書籍だと大変嬉しい。それとは別に、辞書のように「そこに置いておきたい。置いておくと安心。」という価値観。どっちがいいかという議論にするからおかしくなるのであって、本当に好きだったら両方買うのではないでしょうか。



電子書籍で本を出版するオーサーには、流通面などのコストが軽減された部分を勘案した、一定の印税が入るようにする。電子書籍とのハイブリッドによって、著者も報われると思います。また現在は、売れそうなものを念頭に出版されることが多い中で、良質な出版文化を守るという意味でも、両方選択できる文化を作るのも面白いのではないでしょうか。教科書の場合も、全部電子書籍になればいいかというと、どうも違う感じがします。赤線引いたり付せん貼ったり、赤い下敷きで隠して記憶度をチェックするような独特な勉強方法も、五感をフル活用するという意味では、良いのではないでしょうか(笑)。Appleのときも、音楽をiTunesで買うと、「CDが欲しい、アナログの音も聞きたい」という逆現象が起こりました。それぐらいの力をコンテンツが持っていなければならないと思いますし、それはデバイスに依存されるものではないと思います。面白いかどうかが重要で、価格などの商業競争では決まらないと思います。

――電子書籍が人間主体になるためには今後何が必要でしょうか。


山元賢治氏: 「文豪に聞くよりテクノロジー屋に聞いたほうがいい」と常々思っています。そして世の中の便利な家電製品――冷蔵庫も電子レンジも、全部アーキテクチャーはコンピューターなのです。「文系だからその辺はわからない、できない」というのはもったいないことです。もっとテクノロジーを愛し共生したほうが良いのではないでしょうか。どうしても抵抗があるのであれば、その恩恵に1週間ほどどっぷり浸かってみると良いと思います。テクノロジーとの共生について、もっと日本人は勉強したほうがいい。IT音痴から来ている議論を延々とやっている間に、世の中は変わります。まだ世界と戦える企業が日本にあるうちに、早くしないと黒船が来てしまうかもしれません。私はAppleにいた2004年には「何で毎日iPodをパソコンに挿さなきゃいけないんだ」という批判を多く受けましたが、現状はどうでしょうか。せっかく「楽しむ」という土壌が日本においても出来上がってきたのですから、電子書籍においても、もっと軽やかに進んでほしいと思います。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 山元賢治

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