楠木建

Profile

1964年東京生まれ。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了。一橋大学商学部助教授、一橋大学イノベーション研究センター助教授、ミラノのボッコーニ大学ビジネススクール客員教授などを経て、一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授。日本語の著書に、『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社)、『知識とイノベーション』(共著、東洋経済新報社)、監訳書に『イノベーション5つの原則』(カーティス・R・カールソン他著、ダイヤモンド社) などがある。

Book Information

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実務家が実践の中で気づかない論理の追究



楠木建さんは1992年一橋大学大学院商学研究科博士課程修了後、一橋大学商学部助教授・イノベーション研究センター助教授などを経て、2010年より一橋大学大学院 国際企業戦略研究科の教授に就任。競争戦略とイノベーションを研究テーマとして、著書に、『ビジネス・アーキテクチャ』『ストーリーとしての競争戦略』『知識とイノベーション』などがあります。本について、電子書籍についてのお考えを伺いました。

教育、研究、経営助言。全ては実践する経営者のために


――早速ですが、近況を伺えますか?


楠木建氏: 僕の中には3つの事業部みたいなものがあって、1つ目は教育をMBAの学生に対して行うことです。うちの学校の特徴というのは、英語で全部講義をやることです。小規模のMBAプログラムで、毎年60人ぐらいいますが、4分の3ぐらいが外国人。われわれのコンセプトというのはアジアを中心としたグローバル人材の育成なんですね。日本には三井、三菱、SONY、Panasonicでなくても、面白い会社は確実に出てきています。それはアジアの人々にとっても関心があるようですね。そういう人たちが日本の会社に入れば、日本のビジネスのグローバル化に貢献します。彼らが自分の国に帰ったとしても日本のビジネスとのチャネルができる。やっぱり来てもらって良さを分かってもらって日本のグローバル化に貢献してもらえるといいなというのがありますね。

――外国の学生にも日本の企業との関わり方を伝えていらっしゃるんですね。


楠木建氏: それから2つ目が研究でやっていることで、競争戦略についての僕の考え事を本に書いたり論文に書いたりするということですね。3つ目は、僕の考え方を使ってアドバイスなどをして、会社の経営のお手伝いをするということです。

ビジネスをしていると見落としていしまう「賢者の盲点」を探す


――研究だけではなく、どのようにして実践で生かすかも大事にされていらっしゃるんですね。


楠木建氏: 僕のやっていることはくまでも机上の考えごとなんです。机上でないとはどういうことかと言うと、実際に自分で商売をやっているということですね。その分類で言うと僕の仕事は机上ですよね。

―― 実践とはビジネスをしていることなんですね。


楠木建氏: 経営学という分野に限って言えば、誰も知らない大発見というのは絶対にない。これが自然科学であればiPS細胞ができたとか、ニュートリノ発見とか、たまに誰も知らない大発見があるんですけれども。商売とは、普通の人が普通の人に対して普通にずっとやっていることです。そんなことについて、大発見はないと思うんですよ。だとすると言われてみれば全部当たり前。だとすれば何でそんなに当たり前のことが現実の商売でできないのかということが問題なんです。当たり前のことを当たり前にできないのは、実践しているからこそ見落としちゃうことがあるからです。だからそれを机上で補完するんですよね。当たり前のことだけれども実践だとつい見落としちゃうような、「賢者の盲点」みたいなものを、自分が商売をやっていないから、机上だからこそ考えられる。僕はこういうようなスタンスで仕事をしているんです。だから、これを応用したら即座にボロもうけみたいなものは絶対にない。そういった意味で机上と実践の折り合いを自分なりに考えて仕事をしているというスタンスですね。

森を見過ぎて木を見ず、日本という土壌ばかりを見てはいけない


――今の日本企業の状況を、どのようにご覧になりますか?


楠木建氏: 重要なことは1つの企業をよく見ることでしょう。これは見方にも力量が必要で、ちゃんと見られる人と見られない人がいるんですね。「今の日本企業」と言うことは、森を見るようなものです。森ではなく、1本1本の木をちゃんと見るという見方というのは、僕の仕事の重要な1つのゴールですよね。だから『ストーリーとしての競争戦力』という本を書いたのも、1本1本の木を見るために役立つようなものになれば、というのが動機の1つですよね。

――楠木さんはどのようにして、1本1本の木を見る視点を養われたんでしょうか?


楠木建氏: 僕も話を単純化して「日本企業は」ってよく言います。ただ、それは傾向論もしくは土壌論ですね。日本という土壌の上に色々な木が生えている。その土壌を議論することに意味はあると思うんですよ。ただ、土壌は約束しないし、責任はないわけです。その土壌のどこにどのような種を植えて、どうやって育てて花を咲かせるのかというのは経営の責任なんですね。だから、土壌とか傾向に意味はありますが、実際にこの仕事を始めて色々な会社を見ると、当然一社一社違いますよね。だから自然と、やっぱり木を見なきゃダメだなという気持ちになりますよね。

――研究者の中では楠木さんのような考え方は珍しいですか?


楠木建氏: なるべく科学的な手続きなりフォーマットに乗って研究をするべきだっていう人は、やっぱり学者には多いですよね。その科学的な手続きっていうのは、なるべく大量のサンプルを観察して、そこに認められる普遍的な因果関係を発見しましょう、というスタンスですね。経営学を科学だとしたら、僕がやっていることは全くそれから逸脱しています。なぜかと言うと普遍的な法則なんかないっていうのが僕の立場ですから。個別の会社の違いを見ていくというのが僕のスタンスです。ようするにケース・バイ・ケース。それでも商売にとって役立つ論理を抽出することはできる。それが僕の仕事。理論よりも論理ということです。

著書一覧『 楠木建

この著者のタグ: 『大学教授』 『海外』 『ビジネス』 『研究』 『教育』 『経営学者』 『企業』

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