日垣隆

Profile

1958年、長野県生まれ。東北大学法学部卒業。販売、配送、書籍の編集、コピーライターなどを経て87年より作家、ジャーナリストへ。『辛口評論家の正体』で編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞・作品賞、『そして殺人者は野に放たれる』で新潮ドキュメント賞を受賞。海外取材70カ国。有料メルマガ『ガッキィファイター』を発行するなど、多方面で活躍中。世界各地への取材、単行本とメルマガの執筆に専念している。近著に『つながる読書術』(講談社現代新書)、『世間のウソ』(新潮新書)、『ラクをしないと成果は出ない』(だいわ文庫)、『情報への作法』(講談社+α文庫)など多数。

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蔵書は7万冊、もちろん電子デバイスも使いこなす


――蔵書はいまこちらにあるだけで何冊くらいですか?


日垣隆氏: ここは7万冊くらいあると思うんですけど。上が全部書庫なんですよね。こういう状態が良いかどうかっていうのはやっぱり迷いますよね。年齢的にも、いま30歳なのと70歳というのじゃもう全然違うと思うんですね。70歳だったらもう何も迷わずにこのまま行きますよね。30歳だったら何も迷わずに電子書籍化して自分の所有物にすると思います。だからその中間の年齢で股裂き状態みたいな感じですよね(笑)。金曜日まで、15日くらいイスラエルへ行ってきたんですけれど、その間にもやっぱり本を持ってっちゃうんです。しかも途中で買ったりするので、40キロくらいになる。40キロって結構重いんですよ。デバイスは基本的に一通り使いましたけれども、なんだかんだ言って分けちゃうとやっぱり使いづらいわけですよ。

――iPadだ、Kindleだ、iPhoneだと分けてしまうと使いづらくなるんですね。


日垣隆氏: そうですね。「これはKindle」かとかね、「これはリーダー」とかね、そういうのが段々増えてくるとね。全部持っていくと、あんまり本の時代と変わらないですね(笑)

作家になったのは偶然、でも学生の時に大量に原稿を書いてきた


――書くお仕事をされるようになったきっかけを伺えますか?


日垣隆氏: この職業に就いたのも全く偶然なんですね。前の会社が4つ倒産したり失業したりして、最後に出版社にいて辞めたんです。そのころは就職率4倍とかいう様な良い時代だったんですけど、皆が好景気の時に1人だけ沈んでるっていうのも結構大変なんですよ(笑)。その時に声を掛けられてテレビの番組制作とかコピーライターをやったりする様になって、ずっと書く仕事をしていたんですね。何年かたった時に大学の先輩に会った時、「お前学生の時にあれだけ大量にものを書いていたら、そりゃあ鍛えられるわ」って(笑)。「だからそれは適職だわ。お前の天職だわ」とかって新聞記者の先輩に言われたんです。

25年前から、電子時代の到来を予告していた



日垣隆氏: あとは営業をやってたのがやっぱり自分にとっては大きくて、自分の中で、電子書籍を個人で売るということに関して、全く壁がないんですね。25年くらい前から電子書籍や課金システムのことを皆に言ってきたんです。でも全然だれも反応してくれなかった。理屈は分かるわけですよ。だって紙の本がこのまま伸び続けると思うか、YESかNOかって。その当時、電話回線でFAXが送れたりNIFTY SERVEっていうものができていた。アメリカではとかね、そこの記事が検索ができると。では5年10年先にこれと同じことが、朝日新聞でできると思わないかと。「この流れは不改悪だと思いませんか」って言ったら「まぁできるだろうね」と。「じゃあ僕らが書く文章も電話回線なりそういう空を舞う時代になると思わないか」と。そうすると僕らにとって何が最大の問題かって言うと、本や雑誌に乗っけている原稿がタダになってしまうのか、課金をどうやってできるのかっていうことに掛かってくると。もしすべてが電子になっちゃったら、大衆にメリットはある。それは書くことを本職にしていない人が、たくさんものを書くことができる。だけどそれで食っているわれわれはどうする?と同業者に聞いていたんですね。

――どういう回答が返ってきましたか。


日垣隆氏: そしたら「別にいま困ってませんから」って言うわけです。だから「困ってないっていうのはアリとキリギリスもそう言ってたよね」みたいな。かなり色々と宣教師的に、「やっぱり自分のメールマガジンを持って、自分の媒体を持ってないと色んな意味で苦労すると思うよ」って僕は言っていて、聞いていてくれた人は1人2人いたんですけれども、大抵の人は「もういい、面倒くさい」って言いましたね。でもいまになって「話を聞かせてくれ」とか(笑)それはちょっと違うんじゃないのって思います。

なぜ自分の本は売れ続けたのか、それは「おまけ」を付けたから


――いま「電子書籍は売れない」と言われていますが、日垣さんの本は売れ続けていらっしゃいます。どこに違いがあると思いますか?販売戦略なんでしょうか?


日垣隆氏: 1つは煩雑さですね。何か買いたい時、楽天に行くかASKLEへ行くかAmazonに行くかって言った時に、やっぱりAmazonのワンクリックにかなわない。ワンクリックの特許があるので、いまのとこAmazonだけがワンクリックです。でもAmazonが独占してくれてるおかげで、Amazon以外のところはワンクリックではないので、ワンクリックにどれだけ近づけるかっていう戦いになっていると思います。僕のとこは1回買った場合には6けたの暗証番号を入れれば、もうあと一切必要がないというところまでは来ていますけど、本当はワンクリックにしたいわけですよね。でも多分、10億払っても手に入らないです、いまは。

――Amazonの特許なんですね。


日垣隆氏: はい。Amazon以外はそれをやってないので、何とか個人でも戦ができていますけれど、それが多くの人が、例えば10億なら手に入るってなったら大企業が手出しをてきますよね。実質的に個人でやるにも考え方の違いで、紀伊國屋であれ東販であれAmazonであれ、しょせんユーザーにとっては1つの選択肢でしかない。そうすると紀伊國屋書店も三省堂もAmazonもこの一個人ライターのウェブサイトも、ここでしか買えなければ買いにくるわけですよね。問題はここにしかないということをどうやって告知するかということと、その水路をどうやって開くかということだと思うんですね。水路がないと来ないですから。検索っていう方法はもちろんあるにしても、ここで電子書籍を売っているっていうことを、それはメールマガジンの読者には知らせたり、SNSを通じて知らせるっていうことはできるかもしれないんですけど。それよりは僕の場合はおまけでしたね。

――おまけですか。


日垣隆氏: グリコのおまけですよ。いまの大人がちっちゃい時っていうのは何か買う時におまけが付いてくるのが好きだったわけですよね。ふりかけにも。そういうおまけが付いてくるとかね、ジャーナルに何か付いてくるとか、そのおまけを集めるとかね。そういうのってあんまりほかの国に聞かないんですけど。いまは「これを買ったら何か音声が付いてきます」とか、「別の付録のPDFが付いてきます」とかありますよね。でも本にそういうものが付いてきてもそれはちょっと違う。「キャラメルにガムが付いてきたってしょうがないんだよね」っていうのが僕の中にはあったんです。全然違うもので、ほかでは手に入らないものがいいなと思った。

――ここでしか手に入れることができない希少価値のある「おまけ」ということですね。


日垣隆氏: 最初にイラクへ行った時に、フセイン紙幣ってあるんですけど、それがもう大暴落していた。そしたら当然イラク紙幣っていうのは、25ディナール、10ディナール、50、100、1000とかあったんですけど、もう大暴落して紙同然になっちゃっていた。僕はそれを持って帰っちゃったわけです。そしたらそれが、フセインが裁判にかかって処刑されて、Yahoo!オークションで暴騰したわけですよ。どんどんどんどん希少価値になった。その紙幣を『イラクへの遠い道のり』(サイト限定電子書籍)に付けて、壊れちゃった国家に入るための苦労話も面白いということで、メールのやり取りとかそのまま載せちゃって、写真も載せて、最後に付録で、回った時の写真も付けて、9.11の様子も付けて売ったんですね。「これを買ってくれた人には、フセイン紙幣をプレゼント」と。そういう風にプレゼント付けたのがデカいんじゃないかなと思うんですよ。



厳密には分析できないですけど、その後も色々おまけ作戦をしまして。キューバの3ペソを2000枚くらい持って帰ってきてそれを2000円以上電子書籍を買ってくれた人には、世界的なアイコンとして知られるゲバラの3ペソをきれいなプラスチックケースに入れてプレゼントしますっていうキャンペーンをやりました。それが2、3日で2000枚はけましたので、それはプレゼント効果ですよね。

――売っているものは電子書籍ですが、そこにライブ感のある本物と組み合わせるっていうのは発想としては凄い面白いなと思いました。やっぱりそこが秘訣だったんですね。


日垣隆氏: 自分で言っちゃいますけど、凄いですよね、その先見の明は(笑)。

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