日垣隆

Profile

1958年、長野県生まれ。東北大学法学部卒業。販売、配送、書籍の編集、コピーライターなどを経て87年より作家、ジャーナリストへ。『辛口評論家の正体』で編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞・作品賞、『そして殺人者は野に放たれる』で新潮ドキュメント賞を受賞。海外取材70カ国。有料メルマガ『ガッキィファイター』を発行するなど、多方面で活躍中。世界各地への取材、単行本とメルマガの執筆に専念している。近著に『つながる読書術』(講談社現代新書)、『世間のウソ』(新潮新書)、『ラクをしないと成果は出ない』(だいわ文庫)、『情報への作法』(講談社+α文庫)など多数。

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良いものを作ったからって売れるわけじゃない



日垣隆氏: さっきの英語じゃないですけれど、良いものを作ったら皆英語ができる様になるとか、皆買ってくれるっていうことはないと思うんです。営業をやっていた時に、やっぱりもちろん良いものは売りたいけれども、良いからっていって売れるとは絶対限らないということは思っていた。大事なのはおまけ(笑)。みんな、自分で良いと思って作ったものを自ら売ってみて、相手に感謝されるっていうことがどれだけ楽しいことかっていうことは経験した方が良いと思います。僕はたまたま学生時代はたくさん書いてきて、その後に営業マンをやったりしていて、その両方が合わさって、電子書籍を喜んで買ってもらうっていう時に工夫しようと思ったのが、おまけということだったんでしょうね。

――ホームページの中で、絶版になった本も読める様にしていますね。あちらはいかがでしょうか?


日垣隆氏: 絶版は、自分にとっては発想の転換で。僕の本は百何十冊出して2割くらいは絶版になっていると思うんですけど、やっぱり絶版になると嫌なんですね。「確かに出版社が絶版を決めたっていうことは、その寿命が尽きたとも考えられるな。けどそこまでクールになれないだろ」って、ずっとひっかかっていたんです。「これどう考えても出版社の都合だよね」っていうのがあって。確かにあと3000部刷るとかっていうことはないかもしれない。だけど800人くらい欲しいかもしれないじゃんっていう。そこが採算が取れないだけの話ですよね。だから電子書籍っていうものができたので、もう発想自体を変えて、「おしっ、来た!」みたいな(笑)。最近は電子書籍の権利についてもうるさくなってきたので、とにかく先に「もう絶版をしたらこっちのもので売らせてもらうね」って言うんです。前に自分でも1番この本が大切だって思ってた本が絶版になったんですね。それを電子書籍にして、その時はおまけを付けなくて、「僕の代表作で、すべてはこの本から始まった」って、「自分の原点」っていう風に書いて電子書籍を売ったら1万部売れちゃったんですよ。「1万部売れるのに何絶版してんだよ」とかちょっと思いますよね。それで1万部売れたっていうのを聞きつけて今度は違う出版社の文庫になってますね。

人のせいにしない、最大限「売る」努力をすること



――日垣さんがいま思う、電子書籍、電子のメディアの状況と、今後の可能性について伺えますか?


日垣隆氏: 問題だなと思っているのは、いまの状態を皆が人のせいにしていること。例えば書店は出版社のせいにしていたり、いわゆる出版業界は、究極的には「本を買わない」とか読者のせいにしていたり。あとはAmazonのせいにしてたりとか。そういう何か自分たちの窮状に関して人のせいにしてる。いまの書店員さんって、僕が書店員をやっていた時から比べたらものすごくよく働いてるし、給料も低いですよね。よく頑張ってると思いますけど、でも決壊しますよ。優秀な人材はやっぱり低賃金のところに集まらないですから。限界がもう来ちゃってる。一言で言えば、お互いに人のせいにしちゃってるっていうところはあらためて、Twitterをやってみるとかね、Facebookやってみるとかした方がいい。でもその一方で、書店ではものすごい古い体質を持ってて、1人のお客さまに電話1時間くらいかけて、この本はないか、あの本ないかとか対応してるとかってやってる。それはコスト的に全然見合わないですよね。

――そうですね。


日垣隆氏: 例えば自分のところになかったら、明日までにお届けしますってAmazonで注文しちゃったっていいんじゃないのかって思います。そしたら、「ここは何でも買えるんだな」とかって思ってくれるわけですよね。裏では全然もうけてなくても、そういう努力をする。それから実際に本屋さん同士だったら1割引で買える制度があるわけですから、すぐ「ないです」とか言わないようにする。ジュンク堂や紀伊國屋か何か走ってって、「明日までにお届けに上がりますから」って言って、住所聞いて、翌日に電話して、「お届けに来ました」とかって、そういう様なことを僕だったらやるなとは思うんです。

――それも大きな意味で、先ほどお話しいただいた売り方の問題ですよね。


日垣隆氏: シンプルな話だと思うんですよ。そしたら「いまありませんけど、明日までにはご用意できると思います」と。それのやり方がもしバレたとしてもですよ、「この店員は仕事を退けてから紀伊國屋に行って買ってきてくれたんだ」と思ってくれるかもしれない。それがもし分かったとしても、感動につながるわけですよね。

多数派にはできないことを、新たなハードルを目指してチャレンジする


――最後の質問になりますが、今後の展望を伺えますか?


日垣隆氏: どうやって答えたらいいんでしょう。何か出版界に飽きちゃったっていうか。最後にこれかよって感じですけど(笑)。個人的には、ちょっと難しそうだな、自分にはできそうもないなっていうことをやるのは割と好きなんですね。それから、どうも多数派ではないなっていうことは段々分かってきたんです。あとノンフィクションも一時の勢いはないですよね。そうすると、週刊誌でルポを2年連載するってこともちょっと考えられないですし。もう媒体がない。ネットで色んな専門家が書く様になったことは、僕は良いことだと思うんです。大学の先生とか、あるいは総研の人とかね。昔はプロと素人が明確に分かれていたわけですよね。カメラとかものを書くということに関しては。いまでは色々な人が撮ったり書いたりする様になったために、その状況は良いことなんだろうけれども、プロにとってみたら危ない状況なわけです。



そこでどうやって生き抜くかは、それぞれの得意技を出すしかない。書店もそうですよね。Amazonは仕組みはうまいけれども、実際に配送している社員の人がものすごく本好きだとかそういうことはないですし。やっぱり時代環境が大きく変わって、時間もお金もネットに使う時間とお金が圧倒的になっている中で、しかも収入がそれの分増えるんだったらいいけれども、サラリーマンの場合は固定だし、むしろ減っている。そういう中での分配の問題ですから。編集者の劣化とか本屋の劣化とかっていう風な考え方ではなくて、新聞記者もね、明らかに優秀になってると思いますね。でも、良いものを書けば売れるっていう勘違いは止めた方がいい。もちろん良いものを書くんだけれども、とにかく売れることに関して全意識を傾けないと、全勢力を傾けないと淘汰されちゃう。だから電子書籍に関して、意外に大したことないって皆で思い合ってるんじゃないかなってちょっと感じますよね。でもハーレクイン的なものって結構売れてますでしょ。漫画も結構いいところにいっていますし、ハーレクインも世界的にかなり市場あります。この不況を打開する、克服する術っていうのは、1つはマーケットを世界に広げるっていうことと、ネットで自分のメディアを持つことの意識を持っていれば、三脚できっちり自力で立っていけると思うんです。

(聞き手:沖中幸太郎)

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この著者のタグ: 『ジャーナリスト』 『英語』 『哲学』 『作家』 『勉強法』 『売り方』

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