自己を見つめる日々、本は黙って見守ってくれる
作家の廣瀬裕子さんは、恋愛や食生活、エコロジーなど、人が気持ちよく生きるためのライフスタイルのヒントを提供する著作で人気です。また、禅の思想に基づいての「生き方」を再考する作品で、幅広い読者層から共感を得ています。最近香川県塩江町に引っ越され、新たな思索をはじめた廣瀬さんに、ご自身の作品について、また書籍編集者としての経験を踏まえた本、出版についてのお考えをお聞きしました。
香川に引っ越して、自分と向き合う時間が増えた
廣瀬裕子氏: 去年の7月に香川県に移って来て8か月になります。昨年の12月に禅の本を出して、今は次の本に向けてゆっくりと準備しているところです。
――香川県塩江町に越されたきっかけはどのようなことでしょうか?
廣瀬裕子氏: ここに来る前は3年半葉山に住んでいました。とてもすきだったのですが、3.11が起こり、思うことがあって、別の場所で暮らしてもいいかなと思い始めたんです。漠然と四国がいいと思っていました。そうしたら、夫が塩江町にすると決めたんです。
――四国に決めた理由はなんだったのでしょうか?
廣瀬裕子氏: いくつかありますが、水の良いところに住みたかったんです。愛媛と高知は水が豊かできれいで、どちらかにしようと思っていたんです。たまたま夫が紹介されたところが香川県でも山の中で、水が豊かな場所でした。
――水のおいしさはやはり違いますか?
廣瀬裕子氏: 水道水でもおいしいです。関東ではずっと水を買っていたんですけれど、ここの水だったら買わなくても良いですね。水道水ですが、味が全然違います。
――執筆活動には変化がありましたか?
廣瀬裕子氏: 執筆に集中しやすい環境にはなったんですが、条件がそろったからといって、人間そう変わらないことがよくわかりました。(笑)。葉山に住んでいた頃は、友だちもたくさんいたし、色々な活動をしていたので、外に出て行く機会が多かったんです。知り合いが少ないところに越して来て、人とのかかわりが減り、仕事をやろうと思ったらかなりできるんですけど、あまり書く時間は変わらないですね。ただ好む好まざるにかかわらず、自分の内面に向き合う時間は増えました。自分自身を考える、自分に向き合う時間です。
書かなければうまく社会とかかわれないのかもしれない
――廣瀬さんが本を書こうと考えたきっかけを教えてください。
廣瀬裕子氏: 最初の本を書いたのは、「こんな本があったら良いな」と思ったのがきっかけです。私の世代は男女雇用機会均等法ができた頃でした。それまで受けていた教育は男女平等でしたけれど、実際社会に出てみると違う。現実を知って、「女性は大変だ」と思ったんです。 仕事をしていて、結婚しようと思うと「仕事か結婚か」の選択があり、子どもができれば「子どもか仕事か」考えなければならない。仕事をしながらの子育ても大変です。多分、男の人は通過してしまうようなところを女の人は1回1回止まって考えないといけない。でも、そこで、そういうシステムの中で争ったり、あきらめてしまうのではなく、すっと越えていけるようなきっかけがあったら、その人なりに進んで行けるんじゃないかと思ったのが最初です。 自分が経験したことや、つまずいたことを皆が乗り越えていけるようにできたらと思って書きました。恋愛の本も、「こういう風に考えたらもうちょっと良かったのに」や「こうやって考えたら楽だった」と思ったことを言葉にしています。
――廣瀬さんのライフスタイルを見本にされている方も多いと思いますが、今でも生活の中で不自由を感じることや、苦労されることがありますか?
廣瀬裕子氏: 引っかかりっぱなしです。「あれっ?」て思うことがいっぱいある。それを考えて言葉にしてるんです。通過できるのだったら書くことをしていないと思います。多分、私は書かなければうまく社会とかかわっていけないところがあると思います。
――ご自身の経験から書かれたことが幅広い読者の共感を呼んでいるのはなぜなのでしょうか?
廣瀬裕子氏: どうすれば楽になるかは人それぞれですが、それでも多分多くの人に共通する核の部分はそう大きく変わらないのではないでしょうか。わたし自身が感じていること、きたことは、多くの人が感じていること、きたことなのだと思います。
著書一覧『 廣瀬裕子 』