取材は魂と魂の揺さぶり合いである
中央大学法学部卒業後、新潮社に入社。週刊新潮編集部に配属され、デスク、次長、副部長を経て、2008年4月に独立。デスク時代から『裁判官が日本を滅ぼす』(新潮社)『甲子園への遺言—伝説の打撃コーチ高畠導宏の生涯』(講談社)、『ハンカチ王子と老エース』(講談社)などを出版、最近では、『なぜ君は絶望と闘えたのか』(新潮社)、『太平洋戦争 最後の証言』(小学館)、『尾根のかなたに―父と息子の日航機墜落事故―』(小学館)、福島原発を描いた『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日』(PHP)など、戦争や事件、事故の真実に迫るノンフィクションを次々と執筆している。今回は門田さんに、ノンフィクションとは、そして門田さんにとっての電子書籍のあり方などを伺いました。
メインテーマはただ一つ、描く人のジャンルはスポーツから歴史まで多岐にわたる
――早速ですが、最近はどのような活動をされていますか?
門田隆将氏: 今年中にノンフィクション2冊と、新書系の本、あるいは文庫なども出すつもりで、締切に追われています。ノンフィクションというジャンルは「取材が全て」ですので、できるだけ人に会わないといけない。やらなくてはいけないことが多いので、頭の中を小分けして整理しながら仕事をしています。
私のテーマは、毅然と生きた日本人像をノンフィクションとして描くことです。毅然と生きる日本人はスポーツの世界や歴史、事件、事故の当事者……等々、様々な分野にいらっしゃる。メインテーマは1つですが、ジャンルが多岐にわたっているわけです。多くの分野を描くことは私にとっては不思議なことではありません。『週刊新潮』でデスクを18年間務めて、特集記事を700本以上、あらゆるジャンルの記事を書きました。私のように週刊誌の特集記事をこれだけたくさん書いたデスクやアンカーマンは珍しいと思います。
――あらゆるジャンルで記事を執筆されるのは、すごいですね。執筆する時に心がけていらっしゃることはありますか?
門田隆将氏: 戦争物も多く書きましたが、一言で戦争と言っても色々なものがある。専門家の本も参考にはしますが、私の書くものはあくまでもノンフィクションなので、当事者の証言、あるいは日記、手記を元に人間を描き出していく作業です。そのために、膨大な取材と資料分析が必要です。
1つの大きな出来事があった時、その全部がネタになるわけではない。そこに素晴らしい生きざまをしている人が存在し、埋もれていた感動のあるドラマがある。自分自身が取材の中で、魂が揺さぶられることがない場合は、あえて作品にはしない場合もあります。
私の本で単行本化された物語は、ふるいにかけられて、より素晴らしい人間ドラマが残ったものが多いですね。埋もれていた事実や生きざまを掘り起こす。そこが、ノンフィクションの面白さでもあり、ジャーナリズムの醍醐味でもありますが、感動の次に何を重視するかと言われると、やはりスクープ性だと思います。
例えば私の本で『この命、義に捧ぐ―台湾を救った陸軍中将根本博の奇跡-』を執筆する時に、根本博さんという方は、国共内戦の最末期、金門島における戦いで軍事顧問として作戦を立案し、中国共産軍を撃破し、台湾を救ったのですが、この方の功績がすでに広く知られていたのであれば、これほど深く突っ込んでいったかどうかはわかりません。調べてみたら、台湾の国民党政府が根本さんの功績を封殺し、歴史に埋もれていたところにスクープ性がありました。なんとしてもこの秘史を掘り起こさなければと、より一生懸命調べました。