門田隆将

Profile

1958年、高知県生まれ。大学卒業後、新潮社に入社。週刊新潮編集部で政治・経済・歴史・事件などの様々な分野でスクープをものにする。特に、少年事件においては、神戸で起きた酒鬼薔薇事件の被害者遺族の手記を発掘するなど、少年法改正に大きな役割を果たした。2008年4月にフリーのジャーナリスト、ノンフィクション作家として独立。NHK土曜ドラマ「フルスイング」の原案となった「甲子園への遺言」や、光市母子殺害事件を描いた『なぜ君は絶望と闘えたのか―本村洋の3300日』は、共に10万部を超えるベストセラーになっている。

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電子書籍で、海外にも読者を広げる


――今回は電子書籍のお話も伺いたいのですが、ご自身で電子書籍の利用はされていますか?


門田隆将氏: 私自身は利用をしていないんですが、友達に特派員や駐在員が結構多くて、彼らから「お前の本は電子書籍化されてないので海外で読めない」とクレームが来ます(笑)。私自身はやはり紙の本自体が好きだし、出し続けてほしいとは思いますが、海外で読めない人が、電子書籍化されたことによって手に入るようになることは、素晴らしいことだと思います。だから電子書籍について、バッテンではないんです。
海外の読者という点では、私の本に『蒼海に消ゆ―祖国アメリカへ特攻した海軍少尉「松藤大治」の生涯』というものがあって、日系2世でゼロ戦に乗って祖国アメリカに特攻していく男の物語なんですが、たまたまブラジルの日本人会の人からこんな連絡が来たことがあるんです。なんでも日本会議が出している冊子がブラジルの日本人会に届き、そこで私の本の存在をたまたま知ったそうです。その人は、「ここで書かれているのは、自分のおじさんのことだ」と気づいたらしいんです。その人自身は移民でブラジルに渡って60年以上たち、親せきとも音信不通になってしまっている。だから、私に伝手を頼って連絡が来て、それから半年後ぐらいに、わざわざブラジルから私の東京の事務所にやって来られたんです。

――すごいことですね。


門田隆将氏: それで、その方は「門田さんの本のおかげで、叔父が特攻でどういう風に死んでいって、最後にどういう言葉を残したかということが初めてわかりました」と仰った。それで私がその方のアメリカのご親戚にも連絡を取って、その人はその後アメリカにも行って、ご親戚と70年ぶりの再会を果たすという出来事がありました。私はそれを見て、「ああ、すごいな」と思いました。
海外にいる人というのは、そのくらい日本の書籍には触れられなくて、色々なものから関係が途絶している。たまたま、この方は日本会議の冊子のおかげで、遠いブラジルの地でも私の本の存在を知ったのですが、本が全て電子書籍化されたら、たとえ地球の裏側にいても、私の著作が読めるようになるわけです。せっかく一生懸命取材して、ノンフィクションを書かせてもらっているので、一人でも多くの人に読んでほしいと思っています。だから電子書籍には頑張ってほしいと思います。取材で、海外や日本の田舎にも行きますが、海外には書店が少ないし高い。田舎の書店も小さいし置いている冊数が少ないから、もう電子書籍市場は社会の要請として「大きくならざるを得ない」と思いますね。

――今後の展望についてお伺いできればと思います。


門田隆将氏: 今後も、やはり毅然と生きた人々の姿を描いていきたいと思うんです。それは何かというと、多くの人が絶望や挫折をして、色々なところに迷い込む。迷い込んだ時にノンフィクションを読んだら、こんな絶望の中から、はい上がった勇気を持つ人たちがいるとか、こんな逆境におとしめられても日本や家族、故郷を救うために立ち向かった人がいるんだとか、そういうところを読んでくれたら、やはり勇気を持つことができると思うんです。そういう真実は、作家が小説で書くのとは違うと思います。今日本人が弱くなったと言われているけども、震災の中、あれほどの絶望を経験しても、それでもはい上がろうとしている人たちもいる。そういう人たちのためにもできるだけ「毅然と生きた人たち」の実例を、今後も自分の力で掘り起こしていきたいと思います。



司法についても書いていきたい



門田隆将氏: 今後書きたいテーマは、司法についてです。『裁判官が日本を滅ぼす』とか『なぜ君は絶望と闘えたのか』という私の作品は司法の本なんです。『裁判官が日本を滅ぼす』をなぜ書いたかというと、日本の官僚裁判官制度というのは最悪の状態に来ていたわけです。裁判官が公務員という国民の奉仕者である意識を忘れ、驕り高ぶり、相場主義で、個別の事案も見ず、形式的に次から次に案件を処理していく悪弊に陥っていました。民事裁判も同じです。最近、私も東京地裁でとんでもない判決を受けました。ジャーナリズムの現場をまるで理解できない官僚裁判官によって、言論・表現の自由の範囲がどんどん狭められているのです。小渕内閣の時にできた司法制度改革審議会が司法改革のために出した最終意見書が、小渕さんの死後の2001年に出ました。そこに小渕さんの遺言とも言うべき下りがあります。「裁判の過程に国民が参加し、一般国民の健全な社会常識を裁判の内容に生かす」という言葉です。これが、今の裁判員制度につながる提言となりました。いま刑事裁判の分野では、国民の参加によって、さまざまなものが是正されてきています。しかし、民事裁判には、全く国民の健全な常識というものが生かされていないので、やはり司法のこともこれから書いていかなければいけないと思っています。

ノンフィクションを書く仕事は10K以上、でもやりがいはものすごくある



門田隆将氏: いま、ノンフィクションの世界ぐらい悲惨な世界は少ないでしょう。まず取材にお金や手間暇が掛かる。それでいて総合誌はどんどん廃刊になっていって発表媒体も減る一方です。昔、『文藝春秋』や『現代』、『中央公論』とか総合誌が全盛のころは、取材費にも余裕があって色々やれたんだけども、いまそういうことができなくなっている。昔はそれこそ取材記者ということで何人もの人たちが色々動きながら、単行本を出したりしていたけれど、全てがいま無くなってきています。でも、ノンフィクションという分野はものすごくやりがいのある世界なんです。10K以上の厳しい仕事ですが、けれどもこの仕事は、事実を掘り起こしていって、人間の根源を描くことができる。問題に目をつけるセンスと感受性とネットワークがあって、さらに掘り起こす意欲さえあれば、とてもやりがいがあると思います。そんなジャンルに沢山の若い人に入って来て欲しいと思っています。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 門田隆将

この著者のタグ: 『ジャーナリスト』 『ノンフィクション』 『現場』 『取材』 『テーマ』

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