「分からなくなってきましたね」
――今後のビジョンをお聞かせください。
寄藤文平氏: 物語について考える本を、いつものシリーズで出そうと思っています。物語とは2種類しかないと、何かに書いてありました。欠けているものを補うストーリーか、どこかに帰るストーリー。今言われた「ビジョン」というのは必ず、欠けているものを補う形で描かれる。自分の未来について考えるという時、必ず物語化しなくてはならない。そのような場合に、選択肢が2種類しかないのはおかしいと思いませんか。実際にはもっと大量の未来があるはずなのに、自分がどうなりたいかと考えた瞬間、選択肢が2個になってしまう。
ビジョンを設けてそこに向かって生きていくということは、2つだけの選択肢の中で自分を考えるということになる。僕は、それはおかしい、不自然だと思うんです。70代までもし生きられたら、このテーマを本にまとめたいですね。
――二者択一の人生じゃない人生を、ということですね。
寄藤文平氏: 野球の中継でよく「分からなくなってきましたねー」とコメントしたりします。僕はピンチの時、頭の中であの実況をするんです。締め切りにもう間に合わないとします。これを落とすと本当に危ないという時に、頭の中で「分からなくなってきましたねー」と中継すると、気持ちが楽になります。「分からなくなってきましたー」って言うと、急に「今の状況は面白い」という気持ちになれるんです。
あとは今「データサイエンティスト」という職業に興味があります。データは一個の生態系みたいなものです。ソーシャルと言っているけれど、そこには現実とは別の環境がある。だから、もうひとつ地球があるようなものです。その世界を読み解いて、実際の世界と結びつけていく職業として、「データサイエンティスト」という人たちがいます。僕は、それはすごく大事なことで、ビジネス的にも産業として発達する可能性が高い分野だと思います。今後、もう少し汎用性の高い感じでビッグデータにみんながアクセスする時代になる。そういう時に、大量のデータから、ある「意味」を見つけ出していく作業は、相当クリエイティブな仕事だと思います。それは、森を見つけて木を切って家を建てる人が必要なのと同じように、必要とされる仕事ではないでしょうか。
僕は、そういうビッグデータの中で約束されていることや、向こうの世界で起きていることを現実と結んで話をしていくメディアが必要だと思います。だから今後「データサイエンス」という雑誌を立ち上げたら、読者がつくのではないかと考えています。朝日新聞を読むのではなく、「朝日新聞を取り巻くこの記事はこのデータのここです」というような、こういうメディアは、これから必ず出てくると思いますし、面白そうなので先駆けて研究、開発をしていきたいと思っています。そして、これからは謎が価値だと思います。ビッグデータに皆がアクセスすることで、殆どの謎がなくなっていく社会になりますから。僕は、これからも謎を求めていくと思います。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 寄藤文平 』