元気な自分をつくると、他者とのコミュニケーションもよくなる
最近NLPという言葉をよく聞く。コミュニケーションと行動改善のための効果的な心理学手法として、コーチングやカウンセリングではおなじみのこのNLPを、脳だけでなく心とからだを含めたホリスティックな視点から独自にアレンジしたのが三宅裕之さんである。誰かとのコミュニケーションがうまくいくと、人はハッピーになる。人がハッピーになると社会もハッピーになる。そんな理念から個人や企業、省庁などでのコミュニケーショントレーニングを重ねてきた。人の行かない道を行き、懐深く何でも融合してしまう三宅さんの、しなやかな生き方と壮大な夢を伺った。
NLPを生かして教育やホリスティックに取り組む
――三宅さんが経営されているシナジープラスという会社のホームページを拝見しますと、脳や語学、食、からだなど、さまざまな柱がありますが、どういったお仕事をされているのですか?
三宅裕之氏: シナジープラスは、広い意味で教育に関する仕事を行っている会社です。個人が持っている能力を高めるために、教育への取り組みにおいて、脳・心・からだ・食という4つの側面からホリスティック、つまり全人的にアプローチすることを基本にしています。それに加えて中国語と英語が学べるスクールもありまして、コミュニケーションを通じてよりよい世の中をつくっていくというコンセプトのもとに経営をしております。
――ホリスティックとは具体的にどういったことですか?
三宅裕之氏: コミュニケーションをよいものにしようとした時、知識や技術だけでなく、その人自身が心身ともにいい状態にあることが非常に重要です。ですから、玄米食のマクロビオティックスや呼吸法、ピラティスやヨガなどのボディーワークなども学んでいただいて、前向きで強い心をつくることも、コミュニケーショントレーニングの一環と考えているのです。
――最近は、日本国内だけでなく海外でも活躍の範囲を広げておられるとのことですが、どういった地域ですか?
三宅裕之氏: 2011年の10月から私が中国に行って、昨年、2012年に中国の蘇州に関連会社を設立しました。そちらでも同じように教育のビジネスを行っております。主に、日系企業の中の中国人幹部スタッフおよび日本スタッフに対する異文化リーダーシップのセミナーや、中国人に対しては日本語、日本人に対しては中国語の教育も行っています。
――そもそもコミュニケーションをお仕事にしようと思ったきっかけは何だったのですか?
三宅裕之氏: もともと私は、語学のビジネスに興味があって、ベネッセコーポレーションで語学教育に携わっていました。その時は英語教材を開発していたのですが、中国とも昔から縁があって、大学時代に北京の財政経済大学というところに1年間留学したことがあります。その時、アジアが東アジア共同体のようにもっと一体化できればいいなと感じました。ベネッセでは希望通り語学事業部に配属になりまして、語学のビジネスに携わることができました。仕事を通じて語学を学ぶことの本質は、実は他者とのコミュニケーションというより、自分自身とのコミュニケーションがしっかりしていることなのではないかと考えるようになりました。
――そのあと、キャリアデザインの仕事にかかわられるようになったんですね。
三宅裕之氏: その後、学生時代の恩師知人の人材教育会社を引き継ぐ形で、学生や社会人向けの就職とか転職の支援を行う仕事を始めまして、『絶対内定』という本も出版しました。この中でまたTOEICなどのスコアアップを目指す人向けの英語のコーチングスクールも立ち上げまして、あらためて、自分自身とのコミュニケーションと他者とのコミュニケーションの相乗効果みたいなものに興味を持ったように思います。そういったコミュニケーションについてさらにしっかり研究したいと思い、2004年にコロンビア大学の教育大学院に2年間留学しました。そこで多文化多言語教育といったものを研究し、その時にNLP心理学と出会ったのです。
――NLP心理学とはどういうものですか?
三宅裕之氏: NLP心理学は、neuro-linguistic programmingの略で、「神経言語プログラミング」と訳されますが、最近は、ビジネスパーソンを含め、いろんな方に広く知られてきました。カウンセリングやコーチングでもよく使われるような、体系化したコミュニケーションの技法であり、コミュニケーションをよりよくするために用いられることもよくあります。まず、人間は外界にある物事は五感によって取り入れて、脳で処理して、行動などの形でアウトプットしています。その際、物事の一定のとらえ方や解釈が何度も繰り返されることで、その人の思考や感情、行動は、自分では無意識にプログラムされて、その人独自のパターンになっていきます。もしも、人間関係であれ、勉強であれ、自分の希望するアウトプットが手に入らないとしたら、そのプログラムが望む成果を手に入れる行動を妨害していると考えられます。
NLPを学ぶことは、潜在意識に働きかけて現在うまく機能していないプログラムを書き換えて、その人の能力をより向上させる、弱いところをよくしていくような行動がとれるようにつながります。つまり、NLPを通じて脳の効果的な使い方を学んで、仕事や生活の上でよりよいアウトプットを得ることができるのです。NLPでは、コミュニケーションを非常に体系的にとらえているので、具体的にスキルを向上させるのに大変適しています。私にとっては、NLPを勉強したこともまた、他者より自分とのコミュニケーションが重要だということの再確認となり、アメリカから帰国後に現在の会社を立ち上げました。
自分自身とのコミュニケーションの根幹は健康にある
――それから約10年が経ちますけれども、そのような形で、語学教育から始まって、現在のお仕事まで一貫してコミュニケーションをテーマにすることを、ずっと意識してこられたのですか?
三宅裕之氏: そうですね。大学時代もゼミで、異文化マネジメントの研究をしました。マネジメントは、コミュニケーションがわからなければできませんから、自然と異文化コミュニケーションについても研究することになりました。異文化との対話への興味と同時に、そのころからすでに自己との対話というものにも興味がありましたし、自分自身とのコミュニケーションを突き詰めていった時に、心理学や健康の問題についても考えるようになりました。心とからだのつながりを意識することは大切です。私は、自分自身とのコミュニケーションの根幹は、健康にあると思っていますので、食生活や睡眠なども含めたホリスティックなアプローチが必要だと考えるようになったんです。
――そういった三宅さんのお考えが、お仕事をする上での理念につながっているのですか?
三宅裕之氏: シナジープラスという会社は、心身の健康づくりと「コミュニケーションを通じてより豊かな世界を」という理念のもとに経営しています。もっと言うと、個人のハピネスを通じて全体のハピネス、地球の調和みたいなものをつくっていきたいというふうにも考えています。
例えば食生活を考えると、食生活の改善によってその人は当然健康になりますけれども、食生活は環境問題とも密接に結びついていますので、個人に対してアプローチをして、その人がよくなることは、社会をよくすることにもつながると思います。まさに、個人がハッピーになることが地球にも調和を取り戻すことになるのです。そんな社会をつくっていくことに貢献したいですね。
私自身は、よくも悪くも、いろいろなものに興味があるタイプなのですが、その中から本当に重要なエッセンスをつかみ取って、それを統合したり編集したりして世の中にお伝えしていくということを割合得意としているのではないかと自分では思っています。ですから例えばコミュニケーションにおいても催眠療法とか心理学とかNLPとか、いろいろなものを学びながら、それを統合して自分流にアレンジして置き換えていく。食生活とか健康であるとか、いろいろな分野のものをつなぎあわせて一つのコンテンツにして人に届けるのが割と得意だと自分では思っていますので。そういう形で世の中のお役に立てればと思っています。
――個人向けのコーチング以外にも、省庁でのコミュニケーショントレーニングもなさるのですか?
三宅裕之氏: キャリアデザインの仕事をしていたころには、経済産業省でお仕事をしたことがありますが、ここ最近は文部科学省や厚生労働省でのお仕事を4年ほどさせていただいていて、官僚の方を対象としたトレーニングを行っています。
人の経験しないことをして自分の希少価値を高める
――今の三宅さんができるまでには、語学教育のお仕事から始まってどんどん深くコミュニケーションの勉強をされたことはもちろんとして、それより前の学生時代にバックパッカーとして海外を旅行された経験なども影響していると思いますが、本から受けた影響についてお聞かせ願えますか?
三宅裕之氏: 本に関する思い出としては、私が2歳になった誕生日から小学校2年生まで、親がよく毎晩読み聞かせしてくれていたことです。これは毎晩でした。この読み聞かせがきっかけで、本が身近なものになりましたし、本の世界に親しみを持つようになったと思います。読んで聞かせてくれたのがちょうど寝る前だったので、想像の世界というか、本の世界に入りながらそのまま寝るという習慣がついて、これがおそらく想像力や発想を豊かにしてくれるのに非常に役立ったのではないかと思っています。
――では、小さいころからよく本を読まれましたか?
三宅裕之氏: もちろん本を読む習慣もつきました。小さいころからよく読んでいたと思いますし、バックパッカーとしてシルクロードへ旅したのは、沢木耕太郎の『深夜特急』を読んでトルコがなぜか気になったせいなんです。それで旅行中に中国留学の経験があるバックパッカーにたまたま出会ったことで、自分も中国に留学した。そう考えると、私の場合の『深夜特急』のように、書籍はいろいろな行動の原動力になり、人生の中で非常に大きな影響をもつものだと思っています。
――バックパックや留学も、いわゆるメジャーなアメリカとかヨーロッパではなく、アジアを選んだのは何か理由があったのですか?
三宅裕之氏: 中国留学やシルクロードへの旅について言うと、2つ理由がありまして、一つは割とマイナーなものに飛び込んでいって自分の希少価値を出して行きたいということです。今でこそ中国メジャーになりましたけど、私の学生時代は、そんなにメジャーでもなかったし中学留学をする人もいませんでした。だから、自分自身の知らないところに飛び込んでいくなら、人が経験していないものを経験したほうが希少価値が出していけるという考えもありましたね。高校時代にやっていたハンドボールもそうでしょうね。
――インターハイ出場経験もお持ちです。相当厳しい練習をされたのでしょうか?
三宅裕之氏: いいえ、そうでもないんですかなりきつかったですね。ただ、これはハンドボール経験からも学んだんですけれども、どちらかというと、自分はさぼって怠けるタイプなんですねなので、やらざる得ない環境に追い込むことが必要なのです。私は仕事柄、努力家だとか行動力があると思われがちなんですけれども、決してそんなことはないんです。ただ自分の強みは何かというと、自分自身で怠け者であることを理解していること。それが強みだと思っているんです。ですから、こんな怠け者の自分でも、努力せざるを得ない仕組みや、努力せざるを得ない環境に自分を置いてしまうことを心がけています。
――具体的にはどんなふうになさったのですか?
三宅裕之氏: 大学時代の留学も、ちょっと生活が便利なところだと、おそらく自分は怠けるであろうと思ったので、生活がちょっと不便で苦労しそうな中国やロシアに自分を置いてしまって鍛えてしまえというような考え方をしました。そういう環境を利用して自分を鍛えるということと、人がやらないことをやるということの2つで、自分の希少価値を出していくこともできるので、それがまた強みにもなっていきます。
本を読んだら何か一つアクションを起こす
――現在は、海外で生活されているということもありますけれども、電子書籍を利用されていますか?
三宅裕之氏: 海外へ移る際、日本の家を引き払う時に、蔵書の電子化をしました。非常に便利だと思います。日本は住居コストが高いので、自宅に本をたくさん所有しているということは、コストが高くなることとイコールだと私は考えているんです。それをデータ化してしまえば、それだけのスペースがいらなくなるわけですから、非常に意味があります。
特に私みたいな海外に住んでいる者に関しては、自分の書籍が、特に自分でアンダーラインを引いたものや書き込みをしたものをまるまる全部スキャンしてもらえるのはありがたいです。今、中国に住んでいますが、Kindle自体のコンテンツが、まだ中国ではダウンロードできません。ですからダウンロードは日本に帰った時にして、Kindleに入れてしまえば、どこでも読めるので、そういう利用の仕方をしています。
――本の書き手としては、読者に対して、紙で読んでほしいとか、あるいは電子書籍で読んでほしいとか、何か特別な感情はありますか?
三宅裕之氏: 書き手の立場から読者に希望することは特にないですね。本は、どんな形態で読んでもいいと思っています。私自身は本を読む時に「ワンブック、ワンアクション」を大事にしていて、一つの本を読んだら何か一つ新しい行動をするよう心がけています。本を読む上でそれさえできればいいと思っていますので、書く時にも、読者が行動を起こしやすいような本を書いて、何か一つでも新しい行動につなげていただけたらうれしいなと思います。
――「ワンブック、ワンアクション」を心がければ、読んだ内容を行動に落とし込み、自分のものにできるということでしょうか?
三宅裕之氏: そうです。例えば、本を読んで書き込みをしたりすることがありますが、そこに何を書き込むべきかいうと、自分がその本を読んで「これをやろう」というアクションをぜひ書き込んでほしいと思います。私自身実際、書籍版で買った本に関しては、いつもそれをやっています。本の背表紙のところには自分がその本によって気づいたアクションを書くべきだと思っています。電子書籍で買ったものについても、同じようにメモ帳なりiPhoneなりに、その本を読んだ結果ひらめいたアクションを書いておくことをお勧めします。
――私が三宅さんの本を拝読した時、座る椅子を4つもって、4つの視点を持つことが大切だと書いてあったような気がするのですが、どういった内容でしたでしょうか?
三宅裕之氏: 自分自身を客観的に見る時や、問題解決の時でもいいのですが、立場を変えて物事を見ると、視野が広がって可能性が広がります。イメージを整理する際に、自分自身の立場から見る、相手の立場から見る、それ以外の第三者の立場から見る、さらに、そのすべてを含んだ全体の立場から見る、という4つを意識することで、物事が見えやすくなったり、行動が明確になったりします。
本を読んで起こすアクションは、どんなに小さいことでもいいですし、その本と直接関係ないことでもいいと思います。その本を読んだことがきっかけになって自分の中に新しいアクションが生まれて、それで人生が変わっていくということはよくあることだと思います。そういうふうに、私の本に限らず、本を読むことによって、読んだ方がどんな小さな行動でも新しい行動を起こすことができたらいいなと思います。
――三宅さんの本は、そんなふうに読者にいろんなきっかけを感じさせ、与えてくれると思いますが、本を執筆する時に、どんなことを心がけていらっしゃいますか?
三宅裕之氏: やはり読者が行動を起こしやすいように、具体的な行動のハードルを下げ、具体的な行動をよりわかりやすくするということを心がけています。考え方だけを述べる本って世の中にたくさんあると思いますが、そういう本では、読者が「考え方はわかったけども、結局行動できなかった」というパターンになることも多いかもしれませんので、私の本では、具体的にはこんな行動がありますよというものを、読んだ人にとってのハードルが極力下がるように、なおかつ、それを誰もができるようなわかりやすい形で示すように書くことを心がけています。例えば『毎朝1分で人生は変わる』という本にも書きましたが、実際にその場で1分あればできるような行動を、できるかぎり具体的に挙げるということが、読者が行動しやすくするために大事だと思いますね。
――これまで一貫してコミュニケーションをテーマにして、いろいろなものを統合して伝えられてきた三宅さんですが、今後の活動については、どのような展望を描いていらっしゃいますか?
三宅裕之氏: 中国においては、コミュニケーション教育というものと健康教育というものを融合したものを広めていきたいと思っています。個人の持っている能力がより引き出せるようなコンテンツを中国でもつくりたいのです。また、それを広める一方で、新たに中国にある中医学を学んでいくこともして、アウトプットとインプットの両方をやっていければと思います。そんな活動を通じて、コミュニケーションと健康とか、心身のホリスティックなアプローチをアジア発のコンテンツとして統合して、発信していきたいですね。中国の先にはシンガポールに行こうと思っていますが、5年から10年ぐらいのスパンで、アジア発のコンテンツで英語圏に広めていくことを目標にしていきます。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 三宅裕之 』