安さではなく、電子書籍ならではの価値を
――電子書籍の未来の可能性についてはどう思われますか?
小川卓氏: 私の知り合いが、電子書籍という形でアクセス解析の書籍を販売しています。それは、ツールの内容や操作が変わった時に改定する料金も含めての料金体系となっています。解析ツールは機能が追加されたり、結構中身が変わる。本だと辛いのが、そういった改定にリアルタイムで反映出来ないことです。本を出した日にはもう情報が古くなっている事も実際にありました。私の本も改訂版の時に全部直しました。GoogleのAnalyticsという解析ツールが操作方法も含めて変わって、本の改訂版の時に、必死に120枚ぐらいスクリーンショットを撮るという不毛な作業をやっていた。新しいサービスができて、260ページから340ページ位に量も増えました。逆にサービスが終了したものもあって、「このツールはいいですよ」って言っていたものが、もうないということもあります。だから、どんどん更新をかけていけるということには、電子書籍の可能性をすごく感じます。更新料も含めて売っていく方法もあるのではないかと思っています。
後はNewtonとかを読んでいると、太陽の周りを惑星が回る様子が動画で見られる。昔、確かマイクロソフトエンカルタで、例えば「ピラミッド」を調べると、ピラミッドの歴史と写真だけではなくて、ピラミッドの作り方が動画で出る。それを書籍と呼ぶかというと微妙なところはあるんですけれども、私の本でも、ツールの操作の動画があって、電子書籍で流せると、より分かりやすいだろうし、電子書籍ならではの楽しさもあると思っています。作るのは大変なんでしょうけどね。
――電子書籍と紙の本の関係はどうなっていくでしょう?
小川卓氏: 今は、本を電子書籍にすると安くなるに決まっているでしょうという感じになっています。確かにそういう面もあるでしょうけれど、どちらかというと電子書籍でしか出せないもので、お金を作っていった方がいいのではないかと思います。ウェブサイトの読み物とも違って、電子書籍は有料だけれど、そこでしか読めないもの、しっかり書かれたものや、インタラクティブ性が高いものとか、更新性があるという形で使い分けられる気はしますね。
企業の中でも「小川ブランド」を確立したい
――今後の活動についてお聞かせください。
小川卓氏: リクルートの最後の1年ぐらい「エバンジェリスト」という肩書をもらっていたんです。要は伝道師ですね。アクセス解析ツール、分析の良さを伝えるというのがミッションだと思っています。今までSUUMOとかリクルートの採用につながることを考えてやっていたんですけれど、これからは、イメージとしては「サイバーエージェントの小川」というより、「小川がサイバーエージェントにいる」という、「小川ブランド」でやっていきたいという思いが強いです。ただ、やっぱり企業だからこそできる分析もあります。さっきも言ったテレビCMの分析などは、なかなか独立すると機会がないので、会社にいることのメリットもありますね。もちろん制限されているところもあって、コンサルなんかを全部やりきれていない。今は、そこのバランスを取りながら、どうしていくか考えていますね。
今はソーシャルコミュニティーとかスマートフォンならではの分析があるので、それを学びながらやっています。サービスを分析することによって、世の中にとって良いウェブサイトが一つでも多く増えれば、最終的には自分にとっても有り難いと思います。
――執筆活動については、近々の予定はありますか?
小川卓氏: 今年の秋にも本を出すことになっていて、今回は事例中心の本にしようと思っています。分析の方法を教えるというより、こういう事例ではこういう分析をするとこういう結果につながりますというのを、1事例2ページみたいな形で50種類ぐらい書こうかと思っています。例えばメールマガジン、コミュニティー系のサービス、B2Bのサービス、ソーシャルゲームなど、どういう風に分析して、どういう風に見るのかを、サービスごとに分けて事例を出していく本にしていきたいと思います。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 小川卓 』