本作りは編集者との二人三脚
――電子書籍で出版が簡単になるとも言われますが、本の中身を手間をかけて作るという編集作業の重要性は変わらないと思われますか?
辰巳渚氏: 私の考えは明快で、「編集者なくして本はできない」です。編集者とは本当に素晴らしい仕事だと思いますけれど、あまり評価されていない。家の設計者に近くて、家を売り買いする時にも、図面を引くのにお金を払うという発想をする人はあまりいない。家幾ら、土地幾らで、設計費はその中に上手に織り込んでいくというのが通常のパターンですよね。でも目に見えない作業こそが大事なんです。自分は編集者としてダメダメで申し訳なかったと思うのですが、自分が書き手となった時、編集者がいてくれるから企画自体もスタートするし、ほどけていってしまう自分の考えをつなぎとめ整理してくれる感覚があります。そもそも、世の中であまり常識になっていないようなことを言おうとする時に、編集者が揺るぎなく面白いって言ってくれることは本当に大事なんです。書き手の心理として、人を喜ばせたいから書くというのがありますが、まず喜ばせたいと思うのは信頼している編集者なのです。つまり、本の中身の質を高める意味でも、またモチベーションを持ち続ける意味でも、編集者なくして本はありえない。二人三脚のように、編集者がいるからこそ自分を超えたところに行けるんだと思います。おそらくいきなり書き手として入った方はそこがなかなか分からないですよね。書き手も、一冊は誰でも書けると思うのですが、継続して文筆の仕事をしていこうと思ったら一人でいいから信頼できる編集者の友人を持った方がいいと思います。
――辰巳さんにとって理想の編集者はどのような方でしょうか?
辰巳渚氏: やっぱり対話ができる相手です。打たれ強くもあって欲しいですね。先ほど言ったように、価値観は違っていてもよいし、でも違うところを面白がって、本が売れてくれたらなおさら喜びあえる人が理想です。また、人に伝えられなければ意味がないと思いますから、作るだけではなくて売るということに関しても情熱を持っていて欲しいですね。人が本に接触する機会は作っていかなければならない。積んでおくだけで売れていく本なんて、数万冊に一冊あるかないかだと思います。
――最後に、作家としての今後の展望をお聞かせください。
辰巳渚氏: この数年、家事塾を立ち上げていくのに本当に労力を使って疲れ果てていたんですけれど、ようやくその時期が終わって、自分の中でまた生み出していく時期が来たなと言うか、久しぶりに本を書きたいという気持ちになっています。この7月には、自分なりのこの10年の集大成というか、今後の活動の軸になる本が出版されます。『人生十二相』というタイトルで、イーストプレスさんが版元です。人生を一度きりと捉えず、小さな人生が12個あるのだ、と捉えてみよう、という提案をしています。そう考えたら、うまくいかないことがあっても、次の人生をうまくやっていこう!って元気になるじゃないですか(笑)。その本が出たら、今年は、あと10冊でもいいから書きたいぐらいの気持ちです(笑)。書きたいことはたくさんストックされているので、そのストックされたものを出してしまわないと、また次に行けないですから、それを出し尽くすのが今年だと思っています。
(聞き手:沖中幸太郎)
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