鹿島茂

Profile

1949年生まれ、神奈川県出身。東京大学文学部仏文学科卒業。共立女子大学助教授・教授を経て現職。19世紀フランスを専門とし、幅広い分野での評論活動を行っている。フランス文学の研究翻訳を行っていたが、1990年代に入り活発な執筆活動を開始。『馬車が買いたい!』でサントリー学芸賞受賞、『子供より古書が大事と思いたい』で講談社エッセイ賞、『パリ風俗』で読売文学賞受賞。古書のコレクターとしても有名で、「NOEMA images STUDIO」では、書庫を貸しスタジオ兼貸しギャラリーとして一般開放している。

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全部読みたい、全部観たい


――本はどこで読まれていましたか?


鹿島茂氏: 学校の図書館は、利用したくなかったんです。なぜかというと、僕には昔から図書館に行くのは優等生で、先生の言うことをよく聞く嫌なやつだというのがあったからです。本を読んだのは、家の酒屋の隣にあった雑誌を置いている店で、その店にある雑誌を全部読んでました。中学生になった頃から、月1回、日本の文学全集、世界文学全集が配本されてきたので届く度に読んでいました。高校生の時が一本を番読んだと思いますが、そのころよく読んでいたものや、良いと思ったものは今でも変わっていないです。

――当時はどのような本を中心に読まれていましたか?


鹿島茂氏: 日本文学や世界文学の全集も、何を読めばいいかよく分からないから配本された順に読んでいました。サルトルの『嘔吐』に著者のABC順に読む「独学者」が出てくるんですが、僕もそういう感じで濫読をしたおかげで、後にためになったことはいっぱいありますね。ただ、もう少し高校生のころに理科系の勉強をしとけば良かったなと、今になって後悔しています。あれは先生が悪かったんだと思います。理科でも数学でも受験のために最初に数式を手っ取り早く教えられるのが、非常に苦痛でした。数式がどういう風にして出てきたのかというところが面白いところなんですがね。

――大学時代は、映画をたくさんご覧になったそうですね。


鹿島茂氏: 年間400本から500本は観ていました。ビデオもない時代に、3本立てとか観て、時間はあるから、安く観る方法もいろいろ考えました。駿河台下へ降りてくるとユーラン社という招待券の販売所が今でもありますが、そこで株主優待券とかを売っていましたので、大分買いました。

――多くの映画を観ることは、何に突き動かされたのでしょうか?


鹿島茂氏: シリーズものの全部観なければいけないという感じで、ほとんど義務という感じです。そういうところにも若干コレクター的な気質があるんだと思います。例えば、やくざ映画で、『網走番外地』などシリーズもので、1本だけ観てないと、何か気持ちが悪いので全部観たいと思うわけです。

仕事の面白さは、やってみないと分からない


――学生のころから将来は大学で教えたいと思われていましたか?


鹿島茂氏: 大学院に行きながらも、教師になることはあまり考えていませんでした。自分は何か違う道に、合わないところに進んだんじゃないかと思っていたんです。僕が学生だった当時は、構造主義などが流行っていて、頭の良さの競争をせざるを得ない。それはどうも僕には向いていないなと思っていました。僕は道楽労働という言葉を使いますが、仕事が道楽にならないといけないと思っていましたので、苦痛でしょうがなかった。仏文学を選んで良かったなと思いだしたのは、教師になってからです。

――鹿島さんの講義はどのようなものですか?


鹿島茂氏: 講義はその時の出たとこ勝負。今日は何を話すかなという感じです。何を話すかもどこに進むかも分からないから、漠然としたイメージで、前回の学生の質問に答えたりしながら、「今日は貨幣の価値論について話します」とか、そんな感じです。

――疑問を感じながら始めた教師のお仕事に、楽しみを見出したんですね。


鹿島茂氏: パスカルが、「人間は、基本的にどんな仕事にも向いている」、「向いてないのは部屋の中に1人閉じこもってじっとしていることだ」と言っています。仕事の面白さは、やらないと分からないんです。学生にいつも言っているのは「疑問の立て方を学べ」ということです。自分にとって関心のある疑問はどんなところでも立つから、その疑問を解くことが仕事になるのがベストで、まずは疑問の立て方を学ぶことが重要です。

どんな仕事でも、自分の仕事を展開していく上で、サラリーマンとして与えられるのではなくて、自発的に考えなければつまらない。最近、文藝春秋で実業家の名言をピックアップする仕事をしたのですが、松下幸之助はずっと小僧をやっていて、電灯会社か何かに入ってから町に出て電灯の検査をする仕事に就くようになって、自分の裁量で何事かをなし得る喜びっていうのを初めて味わったんです。それで、「一生懸命社員に働いてもらって、良い会社にするためには、人が命令してやるのではなくて、自由裁量に任せて自発的に仕事を喜びにさせるしかない」というようなことを言っていて、僕もその通りだと思います。

――「道楽労働」という言葉もありましたが、若者が職業を選ぶ時点では、その仕事に楽しみがあるかどうかが分からないことにジレンマがあるような気がします。


鹿島茂氏: 自分が面白いだろうと思うということは、その時々のレベルに応じて違うわけです。若い人に楽しいことをやりなさいと言うと、漫画を読んだりアニメを観たりするのが楽しいから、それを仕事にしたいと言い出すことが多いんですが、そうではないんです。まず、自分が変わる可能性を考えなければならない。その上で、自分にしかできなことは何だろうと考える。皆、オリジナルなことを考えようとして、結局同じことをやるんです。それは、自分に対する批判精神がないということです。自分のやっていることは、非常にユニークでオリジナルなものだろうと思っていても、凡庸なものかもしれないですから。

著書一覧『 鹿島茂

この著者のタグ: 『大学教授』 『アイディア』 『漫画』 『教育』 『美術』 『無駄』 『コレクション』

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