「考える」と「伝える」で、初めて意味がある
――電子書籍について、どう思われますか?
高田貴久氏: 便利だなと思います。うちの嫁は本が好きで、年間100冊は読んでいると思います。暇があれば本を買って持ち歩いている。一緒に旅行に行っても、私が旅先で仕事をしたりする間、嫁は子どもを遊ばせながらよく本を読んでいるんです。ですから、旅行に行く時も本を5、6冊は持って行くので、今年のホワイトデーのお返しに、ソニーのタブレットをプレゼントしたんです。
――電子書籍の可能性をどう感じられていますか?
高田貴久氏: やはり一度にたくさん持ち歩けること。あとは、書籍とウェブが連動して何かしら新しい読み物ができてくるのかなと、漠然と思います。
――編集者や出版社への理想はありますか?
高田貴久氏: 英治出版にはすごく感謝しています。『ロジカル・プレゼンテーション』を出した時には、かなり無理を聞いてもいました。
私は自然科学とプログラミングが好きなパソコン少年で、ロールプレイングゲームにも結構ハマりました。ビジネススキルを体系化することは、プログラミングと似た感覚なのです。プログラミングは、基本部分とその上に乗せるコンテンツ部分とを分離して設計しますが、我々が「ラーニングポイント」と呼ぶ考えの骨子と、その上に乗るケースの題材も別に設計するんです。ですから、同じ問題解決の教材で自動車業界のケースもあれば金融のケースもある。ケースと考え方の理屈が完全に分離設計になっている。
私は、そこに何かコンテンツを乗せないと面白くないと思いました。昔好きだったロールプレイングゲームのような世界観、主人公がいて、こんなトラブルがあって、最後はハッピーエンドというような、理論の説明プラスストーリーで書きたいと話をしたんです。その時、出版社の方に「そんな本はないですよ」と言われました。読者はスキルを知りたいので本を買うわけだから、ビジネス書はスキルを淡々と説明する。一方、ストーリーで書くものは完全にお話だと。「ストーリーがあって説明、ストーリーがあって説明では中途半端」だと言われましたが、私は「絶対にこれを書く」と、そこだけは徹底的にこだわったんです。その時に「いいんじゃないの」と言ってくださったことに本当に感謝しています。「そういうのは世の中にないからダメ」、「スキルならスキルで書きなさい」と言われていたら、多分この本はなかった。
――『ロジカル・プレゼンテーション』執筆で、他にもこだわったことはありますか?
高田貴久氏: もう1つこだわったのは、「伝えるプラス考える提案の技術」というコンセプトです。『自分の考えを効果的に伝える戦略コンサルタントの「提案の技術」』、「考える」と「伝える」があって初めて意味があるという主張をしたんです。
298ページの本ですが、書いた時には18万文字ぐらいありまして、校正に校正を重ねて13万文字まで削ったんです。さらに、図表が80数点入っていますから、本当は350~400ページぐらいだったのを、段組みを相当詰めてこの薄さに収めているんです。これも出版社の方から多すぎるから、「考える本」と「伝える本」と2冊に分けろと言われました。でも、「考えて伝えて初めて意味があるんだから、どちらかだけの本なら意味がない」とさんざん言って、「じゃあそれで行こう」ということになったんです。
――本当にいろいろと要望を聞いてくれたんですね。出版社に対して何を感じましたか?
高田貴久氏: 著者の気持ちや思いを理解してもらえるというのは、本当にありがたいなと思いました。あとは、英治出版ならではの、ブックファンド方式(出版にかかる費用の出資を募り、その本が売れた場合に配当金を出して投資回収を促すファンド)もありがたかったです。私の場合、自分が100%出資しましたので、最初の1年だけなのですが、売れなかったら自分が全部損を被る、売れたらそれは自分の収益になる。何が良かったかと言いますと、最初の広告投資を好きにコントロールできたことです。
書籍って年間8万タイトルぐらい出ますから、初動で売れなければ一生日の目を見ない。出版社が予算を持っていると「ある程度売れたらあとは収益確保で」となるんですが、自分が予算を持っていたし、お金のために書いているわけではありませんから、初年度は赤字でもよく、ひたすらその予算内で広告投資をしました。こういう考え方やこの本の中身を世の中に問いたい。それも受け売りではなく、自分が本当に真剣に悩んで考えたもので「こんな感じだけど、どう?」という感覚ですから、より多くの方に読んでいただきたかった。
2冊目は「問題解決、分析、戦略、立案」
――『ロジカル・プレゼンテーション』の2冊目の構想はありますか?
高田貴久氏: 2作目の構想はあるんです。今書いているところですが「問題解決、分析、戦略、立案」という部分。1作目を書いた時から書きたかったことを約8年経って今ようやく形にしていますが、それでも8割しか形になっていない(笑)。
――2冊目の執筆も含め、今後の展望をお聞かせいただけますか?
高田貴久氏: 仕事としてはビジネススキルの体系化と普及を目標にやっております。いろんなスキルを体系化し、それにケースを乗せて、ビジネスで使えるように分かりやすくして世の中に広げたい。『ロジカル・プレゼンテーション』に書いているのは、本当に基本の部分で、「論理的に考え、それを人に伝える」という部分ですが、これの続きとして「問題を解決する」、「自分で戦略を立てる」、または理屈だけではなくその情報の部分、「ファクト&ロジック」と言いますが、そのファクトの部分をしっかりと使いこなす、このあたりが続編として必要なものなんです。今、8割くらいは書けていますので、ご期待ください。
さらに、このスキルや考え方の先は、企業経営やマネジメント、MBA的な話ですね、そのあたりを追求していこうかと思っています。受け売りではなく、事業会社で仕事していて「アカウンティングって何に使うの?」や、「マーケティングって私達の人生にどう関係があるの?」というような、本当に自分達に関係するMBA知識を、社の開発講師と議論しながら闊達にできればと思っています。書籍や研修としてもそういう部分を展開していきたいなと考えています。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 高田貴久 』