電子書籍は有料コンテンツの選択肢を増やす
――山田さんは電子書籍を利用されていますか?
山田祥寛氏: まだ、あまり使っていない状態ですね。無償のものをちょこちょこと自分のスマホに入れていますけど、あくまでどんなものかっていうのを見る程度で、実際に使うことはあんまりないんです。私にとって読書は、小説を読むことだと思っていて、技術書を読むのは仕事だと思っているんです。小説は、寝る前に時間を作ってベッドに転がりながら紙をペラペラして読むので、スマホはあまり開きたくないっていうのがあります。
――書き手、発信者として、電子書籍の可能性をどう感じていますか?
山田祥寛氏: 今まで書籍としてまとめられなかったものを、電子書籍としてまとめる可能性が出てきたなというのはあります。書籍の一番の魅力でありネックでもあるところは、ページ数にしても冊数にしても、量を作らなきゃいけないっていうところだと思うんです。ある程度のページと部数も刷らなければ、同人誌になってしまう。それには、売れる市場と、コスト計算の前提がないといけません。その代替として、今まではウェブサイトという選択肢があったんですが、ここのところ収益を出すことに限界が出てきています。
広告収入モデルは、まだ崩れたわけではないと思いますが、頭打ちになっているのも事実ですね。それではコンテンツに対してお金を払うという形ができているかというと、正直なところできていない。会員制の有料コンテンツを設けたとしても、商売としてなりたちうるかは疑問というのは、どなたと話していても出てきます。電子書籍も形としては同じなんですが、対価を持ったコンテンツビジネス、値札をつけられるものが新たにできたことになります。量を作るのが難しいニッチなものを、ウェブサイトにただ出すだけではなくて、対価を伴う情報として出す選択肢が増えたということなんです。
個々の書籍に統一したコンセプトを
――出版社、あるいは編集者の役割も変わっていくでしょうか?
山田祥寛氏: 出版社も今悩んでるところだと思いますし、私も冒頭で申し上げたように編集プロダクション的な業務をやっているものですから困難を感じることもあるのですが、出版社には、流通させる役割、編集するという役割があります。流通としては、紙から電子になったことで、出版社の意義というのは非常に弱まってしまうとことがあると思うんです。
ただ、出版社が要らなくなるわけではないんです。編集としての役割に絡むことですが、書籍1冊の中である程度統一性、一貫性を持たせることは、それなりに書ける方でしたらできるんです。でも、例えば「10日で覚えるシリーズ」のように、複数の書籍で統一性の取れたコンセプトのある場には必要で、それは絶対1人じゃできないところなんです。シリーズとして見せて、世の中に対して流していくところに出版社としての意味はあると思っています。
――電子書籍によって出版が容易になり、多くの企業が参入することも予想されますが、今後の出版や編集に必要なことはどういったことでしょうか?
山田祥寛氏: 1冊をただ作るためだけに見てくというよりも、最適なコンセプトを見越した形で著者達をまとめて、編集者としてどうコンサルティングできるかだと思うんです。場を設定して、その中で個々の作品を著者がしっかり頑張るという体制が、いかに作れるかにかかっていると思います。1冊の本を編集するだけなら、ネット上で人を集めて査読体制を作ることも可能ですから。本作りの下流の部分の編集だけに目がいってしまうと、著者としては魅力を感じにくいというのがありますね。
電子媒体のモデル作りに取り組みたい
山田祥寛氏: 電子書籍の良いところであり、悪いところでもあるのは、更新がしやすいところだと思うんです。電子書籍も含めて、現在の出版社との契約形態は、単純に本を売って、著者は印税をもらうという形なんですけど、求められている形はそうじゃないのかもしれないという気がします。更新をして最新の情報を提供するのであれば、システムの保守契約に近い契約をしていかないと成り立たないんだろうなと思っています。
私はスマートフォンのプログラミング本を書いているんですが、書籍を出す段階で情報が古くなっていたりするんですね。そういう時は、とりあえず自分のウェブサイトで、インストール方法や、手順を公開したり、編集者さんが仕事の合間に新しい更新情報のまとめを作ったりしている。でも、それは仕事の合間でやっているという形ですから、長期的には成り立たない。とにかく人力が必要になりますから、なんとかしないと到底業界の人間は持たないんです。
――電子書籍への取り組みを含め、山田さんのこれからの展望をお聞かせください。
山田祥寛氏: 著者と編集プロダクションと、両方の立場がありますが、著者としては、とにかく新しいことをやっていきたいです。自分が知ってることだけを書いていくのは非常に楽ですが、先程申し上げた通り、常に初心者の気持ちを大事に、悪い意味での専門家になりたくないと思っています。
編集プロダクション的な立場としては、やっぱり電子書籍がまだよく分からないところがあります。契約形態もそうですし、フォーマット面の問題や、どのように展開しやすい形を作っていくのかなど、そういったところを整理して、10年、20年経っても本を残せて、なおかつコストパフォーマンスに見合うような形をどういう風に作っていけるのかということを考えていきたいと思っています。
(聞き手:沖中幸太郎)
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