繁栄には「根」「絆」「分」が必要
西田文郎氏: 起業した人は、初めは自我の勢いだけで、自分が儲けたいから一生懸命考える「商人」というわけです。これが少し成功すると、社員が入ってきて、商人から「経営者」になる。基本的には、大体ここで終わってしまうのですが、大成功した人は、経営者の次に「教育者」になっていく。そして、もっとでかくなると、商人に戻るんです。商人に始まって、商人に戻るのですが、「大商人」になるんです。昔の人で言うと松下幸之助さんや豊田喜一郎さんですね。最初の商人は自我の欲求で、自分の利益ばっかり考えて成長していくんですが、最後はそんなこと考えてないんです。社会にどう貢献するか、大商人としてグランドデザインの中心になって、なおさら発展する。
――経営者の理想には、一生終わりがないのですね。
西田文郎氏: 西田塾に来る経営者に、卒業する時に死生観を聞いています。死ぬ時に、回りにどういう人がいるかということなどを全部イメージングさせているんです。これは死ぬためではなく、限られた命をどう使うか、つまり生きるためなんです。金儲けはテクニックであって、仕事をすることで自分はどうあるか、という人間としてのあり方が必要です。本当の成功は、「生きては人に喜ばれ、死んでは人に惜しまれる」ということであり、「生きては人に嫌われて、死んでは人に喜ばれる」というようなやつは生きている意味がない。生きているうちは厳しいことも言うかもしれませんが、「この人と出会って良かった」と人様に喜んでいただいて、死んだ後には「あの人のおかげ」だと言われるのが人間としての真の成功です。金儲けを何のためにしてきたのか、どこに向かっているかというベクトルを決める。自分のためだという人は、絶対大きなことはできない。
僕は繁栄の法則には3つあると思っていて、1つは「根の法則」。グランドデザイン、理念が木でいうと根です。根があるからこそ中長期計画の戦略という幹があり、具体的な戦術という枝がある。何のために仕事をしているのか、何のために生きるのかという根がない人が幹を作っても倒れます。2つめが、損得勘定だけで動いていると社員さんとの真の絆はできないという「絆の法則」です。3つめが「分の法則」です。成功するまでは、社会的認知がありませんので、無鉄砲に攻撃した方が良い。石橋をたたいて渡っていてはいけないのです。もし石橋をたたかないで渡って落ちたら、そこからどうしたら良いか考えればいい。ところが、成功すると、地域や、社会、社員さん、あるいは顧客に対する責任などが発生します。その分を守らなければ、一時期勢いよく行っても、どすんと落ちるんです。僕はホリエモンは大好きですが、彼は分をわきまえなかったから、同じことをしている人たちがたくさんいるのに、見せしめにあった。図に乗ったことで損をしたのだと僕は思います。
要らないものを買わせる「仕掛け」
――西田さんは、電子書籍についてはどのようにお考えでしょうか?
西田文郎氏: やはりこれからは便利だし、楽ですから、電子書籍になっていくでしょう。通販会社をやっている卒業生の方がいますが、今はもうテレビ通販の売り上げが大幅に落ちて、圧倒的にネットになっていますし、これから益々ネットになっていくでしょう。テレビ通販は、ネットをしない層にターゲットを絞っていますが、若者たちはネットでものを買いますから、書籍もそうなるのではないでしょうか。僕自身は、紙でも電子でも読みます。買い方は計画的ではなくて、新幹線に乗る前や、面白そうだと感じた時に買って、あっという間に読みます。その時の関心が大事で、すぐに感動する方ですから、これ良いなと思ったらすぐに買います。
――ネットの登場で出版業界のみならずビジネスの世界は激変していますが、現状をどのようにご覧になっていますか?
西田文郎氏: 戦争で日本は崩壊したと思われたのが、我々の親の世代の人たちが一生懸命、ただ生きるためだけに頑張って繁栄しました。しかし繁栄すると、必ず崩壊が始まります。政治も経済もビジネスモデルの仕組みも、過去のことをまだやっていますが、もう壊れています。ネット時代になって、今までのリアル店舗の売り方は、業種によっては古くなっています。僕らの勉強会には若い子たちも出てきていますが、ネットを利用してわずか3年、28歳で年商100億の会社にして上場した人がいます。そういう人は、今までの仕組みではない仕組みで顧客のニーズをつかんでいる。昔は作れば売れたのですが、日本は成熟して、良いものだらけなので、良いものを作れば売れるという時代ではない。居酒屋も、今は冷凍食品の技術が発達していますから、まずいものを出しているところなどないので、商品が良いというだけではもう売れません。
――今の時代にものを売るためには何を心がければよいでしょうか?
西田文郎氏: 僕は「おかずの法則」って言っていますが、例えばここに100円で白米を売っている。もう片方では100円で白米と梅干しを売っていると、梅干しが好きな人はおかずに梅干しがついている方を取る。嫌いな人は白米だけを取る。だけど、おかずが3、4個ついていたら、その中に要らないものがあっても、消費者はおかずがたくさんついてる方を必ず取る。商品に対してだけではなくて、売り方やサービスなどに対しても、おかずをくっつけると爆発的に売れる。数少ない要る人に売ろうとすると、値段のたたきあいになってしまいますので、ブランディングの仕掛けで、要らない人にものを売らなければいけません。
書店の話に戻ると、Amazonが出てきて、ネットの方がはるかに便利ですから、従来の本屋さんは苦しい。電子辞書には便利というおかずがある。今、ターゲットを女性客だけにして、仕掛け始めている書店さんが出てきています。ターゲットを絞るとアイディアが出てきますし、セグメントされると、しなければいけないことがはっきりする。全てのお客さんにサービスするということでは、良いサービスにならないのです。ターゲットを絞って、要らなかったのに仕方なく買ってしまうという状況を作らなければだめなのです。