一度の「やりきった」体験で、人生が変わる
さくら剛さんは、インドや中国、南米等での体験を赤裸々につづった旅行記が人気の作家です。著作への高い評価の理由は、なんといっても「笑える」ことにあります。自らの引きこもりや、失恋の体験もギャグとして発信する、さくらさんの笑いの原点を探りました。また、表現者、また旅行者として見た、電子書籍の可能性についても興味深いお話を伺うことができました。
漫画とゲームに明け暮れた少年時代
――旅行についての著作が人気ですが、普段のお仕事はどういった形で進められているのでしょうか?
さくら剛氏: 旅行記を書く場合、旅行をする期間と、部屋で執筆する期間があります。作家というと、締め切りまで徹夜して書くようなイメージがあるのかもしれないですけど、僕はそれでは頭が働かなくて、思いっきり寝ないとだめです。そうすると、なぜか1日1時間くらいずつ起きる時間がずれていく。10時に起きた次の日に11時に起きて、その次は12時と、何カ月もそういう生活を送っています。
――24日で1周しますね。
さくら剛氏: そうですね(笑)。だから夜の10時に起きてしまう日もあって、気分が落ち込みます。夜だと行ける所も限られてくるし、人とも会わずに部屋にこもって書いているので、かなりしんどいですね。
――今日はさくらさんの創作のルーツに迫ってみたいのですが、幼少期はどういったお子さんだったのでしょうか?
さくら剛氏: 根暗でしたね。1人っ子で、人との触れ合い方がよく分からなくて、漫画ばかり読んでいました。
――どんな漫画がお好きでしたか?
さくら剛氏: 好きだったのは『少年ジャンプ』系で、小、中学校ぐらいに『ついでにとんちんかん』という漫画の連載があって、それが僕のギャグの原点です。面白いことを考えるようになったきっかけはあの漫画だと思っています。それと小学校高学年ぐらいでファミコンが登場して、もうオタク街道まっしぐらです。ファミコンがあれば友達と遊ばなくても平気ですから、ずっと家に引きこもってファミコンをやる日々でした。スーパーマリオとか、スペランカーとか、当時は新しいものを買ってもらえないから、同じゲームを何回も何回もやっていました。ドラクエⅠは発売日に買いましたが、ドラクエは自分の成長と共にありまして、シリーズ全部やっています。リアルな友達よりも、ドラクエの戦士とか僧侶が友達でした(笑)。
3日でフラれ、旅に出た
さくら剛氏: 当然、僕は女の子にもモテなかった。学生時代は「それでいいや」という感じでした。社会人になると、気に入った女の子を遊びに誘ったり、細かく戦略を立てるようになりましたが、いいところまでいっても、最後は僕の根暗さが見破られる。オタクでも、いいオタクはいますけど、僕は「ゲームオタク」で、女性には何の魅力も感じられないタイプのオタクです(笑)。オタクであることを一生懸命隠しているんですけれど、コミュニケーション力のなさとか、いざという時の頼りなさとか、おどおどする感じでバレるんだと思います。そういう時に横からサッカー部出身とかの男が出てきて一気に彼女をかっさらっていく(笑)
――旅行に出会われたきっかけはどういったことでしたか?
さくら剛氏: 大きなきっかけは彼女にフラれたことです。その彼女も「付き合おう」となってから3日ぐらいでフラれた。その彼女が旅好きな人で、中国に留学に行ったんです。付き合って3日目ぐらいに「中国に行くから、さようなら」みたいな感じで、嫌だったから中国に逃げたのかなと思うぐらいのタイミングでした。最初に食事に誘った時点で断られるならダメージが少ないのですが、山のてっぺんまで登ったところで突き落とされるとダメージがデカい。それなら最初から仲良くしないでほしいくらいです。その時に、「自分はこのままじゃだめだ」と思った。女の子だけの話じゃなくて、友達作りであったり人付き合いであったり。僕は言ってみればサッカー部の友達が欲しかったんだと思います。でも、他人の目からしたら、こんなやつと友達になりたくないだろうし、ましてや女の子だったら絶対付き合いたくないだろうと。で、ちょっと苦しい所に身を置かないといけないということで「旅」に行きついたんです。
――最初の旅行ではどちらに行かれましたか?
さくら剛氏: その彼女を中国まで追いかけて行こうとしたんです。でも、中国にいきなり行くのではなくて、そこにたどり着く前に一人旅の中で自分を成長させていきながら中国を目指そうとしました。世界地図を見て、陸路で中国から一番遠い場所が、南アフリカ共和国だったので、スタートを南アフリカにして、そこから中国を目指して旅が始まりました。
――すごい行動力ですね。
さくら剛氏: 恋愛のパワーってすごいですね。中にはストーカーになったりする人もいますが、ストーカーになるのも、ものすごいエネルギーがいる。エネルギーが負の方に行くとそうなる。パワーを正の方に何とか転じようとして始めたのが旅だったと。まあ、言い方を変えれば壮大なストーカーでもあるとは思いますが(笑)、海外に行って良かったと思います。もし負の方にいったら、逮捕されるぐらいになっていたかもしれないですから。
著書一覧『 さくら剛 』