円城塔

Profile

北海道出身。 東北大学理学部物理第二学科卒業後、物理学ではなく学際的な領域に専攻を変え、東京大学大学院総合文化研究科博士課程を修了し、学術博士号を取得。 北海道大学、京都大学、東京大学で博士研究員として働いたのち、ウェブ・エンジニアを経て、専業作家となる。 SFや前衛文学など様々な意匠の混在する作風。「数理的小説の第一人者」と称され、独特の論理展開やユーモアを含む文体を操る。 著書『道化師の蝶』での芥川龍之介賞受賞をはじめ、数多くの賞を受賞している。

Book Information

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本で稼ぐための仕組みの変革


――とはいえ、本作りに編集者が必要なのは変わらないことでしょうか。


円城塔氏: そうですね。電子でも編集さんがいないと、どうしようもない感じはします。結局一人ではできないので、それは変わらないんじゃないでしょうか。特に僕の場合、猛烈に間違える(笑)。引用とかも間違えますから、ダブルチェックはしないといけない。ワークフローを一人で抱え込むと気が狂うので、分業することは必要です。必要があって分かれた仕事のはずなので、急に元に戻せるとは思えない。分けすぎるとお金がかかりすぎるという問題もありますから、集約できるところは集約する必要はありますけれど。



まずは、出版社に、頼むからWEB技術者を雇ってくれとは言いたいですね。普通に新入社員で採ればいい。外注すると、WEB担当者が週に1回しか来なくて、「今担当がいないので直せません」ということがよくある。誤字を直してくれとかいうレベルで、そういうことが生じても困る。「じゃあサーバーのパスワードくれ、自分が入って直す!」みたいなことになるわけです(笑)。これは編集さん個人の話ではなくて会社組織の話です。
今も、電子書籍化は出版社内部で版組ができなくなっているので、印刷所が持っているはずです。端末があれだけある以上、全部の見栄えをチェックするというようなことは出版社の手に負えない。アメリカもそうで、紙の本と同時にKindle版が出ることが多いですけど、あれは印刷所が持っているからできることです。印刷所は、紙の本自体はそんなに作らなくなっているという話もあります。印刷所は何かを印刷するのが仕事で、必ずしも本を印刷しなくとも良い。それを編集者がある程度わかっていないと、話が通じなくなるでしょう。

――「自炊」の問題などに顕著ですが、デジタルデータになることで、著者にどのようにお金が入るのかという問題もあります。


円城塔氏: データが複製可能であること自体は、どうしようもない。でも、みんな意外とお金は払うんです。ただ、今は少額の振り込み、例えば100円振り込むというシステムを作るのが難しい。バーチャル貨幣系のことでそれをやろうとする人はいます。マイクロペイメントみたいなものもあって、そっちにつなげようとする人はいますが、社会変動が伴うので、難しい。マイクロペイメントができて、お布施のようなシステムが回れば、ある程度は回る。でもそれも無理かなという気もしていて、今のところは、どうするのかが見えていない。そもそもなぜ作家が稼げていたのか、どうやってお金をもらっていたんだっけ、みたいな話になりますね。

環境に適応した「小説」が生成する



円城塔氏: でも「小説家」の歴史は浅いんです。せいぜい19世紀、想像のお話を書いてお金がもらえるようになったのは、ここ200年ぐらいです。それ以前は『ガリヴァー旅行記』とかでも、冒頭に「本当の話だから!本当の話だから!」と書かないと許してもらえない感じもあった。そうしないと「何でお前のウソなんか聞かなきゃいけないの?」みたいな話になる。そういった時代から、著者に暮らしていけるくらいのお金が入るというシステムができたのは、かなり最近のことではないでしょうか。本を一人で書くようになったのも、その本に著者の名前が付くようになり、お金が入るようになったのも新しい。そして最近になって、電子によるコピーの話が出てきて、複製のコストが恐ろしく下がった。何か、「一つの時代が終わる」みたいな大きな話にだんだん近づいてきてしまいますね(笑)。

――次の時代、円城さんはどのような作品を書きたいと考えられていますか?


円城塔氏: 僕は、自分の書きたい小説があって、それを書くというタイプではなくて、どちらかというと成り行きに任せています。長期計画よりは、機会があれば、という感じの方が楽しいので、本当に何でもいいです。伝えたいメッセージとかも、よく聞かれるんですが、別にない。僕は、自分の意志決定はそれほど信じていないところがあります。自分のすることは、周りの環境によって決定されるものだという感覚が強い。それでいて責任は自分が取らなきゃいけないというのは、理不尽なシステムだなと思いますが(笑)。
最近は、ずっと同じことばっかり書いているような気がしていて、ちょっと苦しんではいます。ものかきとしての生活もまだ6年目なんだから、同じことしていてもいいんじゃないか、ということも一方では思いますが、僕は、どちらかと言うと前の方に行って暴れるための要員という感じはしているので、あんまり落ち着いてはダメかなという気はしますね。少なくとも文豪になるというタイプではないです。僕は多分、温泉宿に行って小説を書いたら、文豪になるんじゃなくて、文豪プレイになると思うんですよね(笑)。何かウソくさくなる。その辺のバランスが難しいですね。僕は前々から、自動生成と言っていますが、プログラムで小説を書いちゃえばいいと言っている。そういう依頼が来るといいんですが、ありませんね。「そんなことできないでしょう」とか言われるんですけど、できないのは当たり前です。でもできることもある。とりあえずメタデータを入れろとか(笑)。読み方も片っ端から検索されることを想定して、それに特化したものを書いていく方が楽しいという気はしています。今はそういう話を編集さんとかにしても「ああ、面白いですね」みたいに流されて終わりみたいなことになってしまいますね。そのようなものができてきた時、次の時代の小説とは何なのかという話がようやく出てくるのではないでしょうか。

(聞き手:沖中幸太郎)

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この著者のタグ: 『メディア』 『研究者』 『きっかけ』 『小説家』

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