野心とナルシシズムが、明確な個を作る
太田肇さんは、組織学者、経営学者でありながら「組織は嫌い」と言い切ります。研究者として、また文筆家として一貫して追求するのは、組織についての一般的理解である、画一性や同質性ではなく、組織の中で個の価値を尊重し、活かすことの大切さ。太田さんの「個人尊重」の思想の原点、そして、現在活動の中心に据えているという本の執筆にかける想いなどをお聞きしました。
本を書くのは生きがい
――早速ですが、太田さんの活動の近況をお聞かせください。
太田肇氏: 私は、活動の中心を本を書くことに置いていますので、できるだけまとまった時間を本を書くために確保したいと思っています。もちろん、大学で教えるのも仕事ですが、生きがいは何かと聞かれたら、本を書くことだと私は答えます。
――本を書くことと、ほかのお仕事との大きな違いはなんでしょうか?
太田肇氏: 本を書く前も、論文はたくさん書いていましたが、本はとにかく後に残るという点が良いと思います。テレビに出たり講演をしてもその時限りですが、コンセプトが明確で、新しいことを理論化された本を書けば、いつまでも残ります。自分の書いたもので世の中を動かして、少しでも自分の名が残ればいいなと思っていますので、媒体としては本に集中しようと考えています。
――近々、『組織を強くする人材活用戦略』という本も出版されますが、もともと、組織論について研究しようと思われたのはなぜでしょうか。
太田肇氏: 組織が嫌いだからです。嫌いだけれどもやはり組織に属さないといけない。例えばプロ野球選手にも、あまり組織になじまないタイプの人もいますが、そういう組織の嫌いな人が、そこに居場所を見つけられるような、もっと力を発揮できるような組織が作れないかなという思いがあります。役所の研究機関で仕事をする中で、人と同じようなことをやっていたらダメだと思って、そこで自分のスタンスとして、徹底して個人にこだわろうと決めて、それがずっと続いているという感じです。それは自分の性格や価値観に合っているし、ずっとブレていないと思います。
――ご自身の性格というお話がありましたが、幼少期はどういったお子さんでしたか?
太田肇氏: 子どもの頃は自然の中で遊んでばかりいました。ただ、私は、みんなと一緒というのがイヤでした。昔は、いわゆる「巨人・大鵬・卵焼き」という時代でしたが、私は、卵焼きは好きでしたが、アンチ巨人で、アンチ大鵬。みんなが応援したら、その相手の方を応援するのは今でもそうで、典型的なあまのじゃくではないかと思います。
――文章を書いたり本を読んだりすることはお好きでしたか?
太田肇氏: 本はあまり読まないし、文章を書くのもむしろ苦手な方でした。文章がうまくて褒められたことも全くないです。とにかく外で遊んでばかりいたという気がします。
先々の本の構想がパソコンの中に
――最初に本を書かれたきっかけをお聞かせください。
太田肇氏: 研究所に入って労働関係の仕事をしていて、最初の1、2冊は、ほかの研究者に紹介してもらって書かせてもらいましたが、その後は、ちょうど書きたいと思っている頃に声を掛けてもらったので、ラッキーだったと思います。最初に一般向けの本を書いたのが、中央公論新社の『個人尊重の組織論』という本なんですが、それは今までの中で一番売れたと思います。出てその日に増刷になりましたし、本屋さんで自分の本を手にとってレジに持って行ってくれる人を見て、「これはいける」と思いました。
――いつも執筆はどこでされているのでしょうか?
太田肇氏: どこでも書きますが、家が比較的多いです。家に書斎が2つあって、それぞれにパソコンを置いています。気分転換にもなりますし、資料などがたくさん必要な時と、資料がいらない時とで使い分けています。研究室や出張先のホテルでも書きますので、いつもパソコンを持って行きます。
――本の企画はどのような過程で詰めていくのでしょうか?
太田肇氏: 私の場合は、基本的な方向、タイトルも決めてもらって、あとは自分で書けと言われるのが一番うれしいです。そういう風にして、でき上がったのを持って行くというスタイルにしています。最初の段階で企画が通っているので、完成原稿として送るという感じです。
――方向性だけを決めて、本として完成した形に書き上げてしまうというのは驚きです。
太田肇氏: 普段からずっと先のものまで、何冊か考えているんです。仮のタイトルや、色々なアイデアが、パソコンの中に入っています。ネタ帳のようなもので、気付いたことをどんどんパソコンに入れて、それを構成して作るという感じです。パソコンを持っていない時は、授業中だろうが道路だろうが、思いついたらメモにすぐに書いて、帰ったらパソコンに入れるようにしています。ただ、必ずしもそれがいい方法だとは思わないところもあります。メモは、部分的には使えるかもしれませんが、何かのテーマで書こうとした時に、メモの内容に引きずられるところがあります。いいものはやはり頭の中に残っているはずですから、メモにこだわり過ぎない方がいいかもしれない、と私は思っているのです。
著書一覧『 太田肇 』