太田肇

Profile

1954年生まれ、兵庫県出身。 神戸大学大学院経営学研究科博士前期課程修了、京都大学経済学博士。 国家公務員など経験の後、滋賀大学経済学部教授を経て2004年より現職。 専門は組織論、人的資源管理論。 特に個人を活かす組織や社会について研究しており、経営者やビジネスマンを相手に、講演やセミナーを精力的にこなしているほか、マスコミでも広く発言している。 著書には「表彰制度」「お金より名誉のモチベーション論」「承認欲求」(共に東洋経済新報社)、「承認とモチベーション」(同文館出版)、「公務員革命」(ちくま新書)などがあり、これまでに経営科学文献賞、組織学会賞などを受賞している。

Book Information

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電子書籍で「本」の概念が消える!?


――太田さんは電子書籍については、書き手としてどのようにお感じになっていますか?


太田肇氏: 私は、1人でも多くの人に読んでもらえたら紙でも電子でもいいと思います。

――電子書籍が普及すると、本や出版業界にどのような変化があるでしょうか?


太田肇氏: 私は電子媒体が広がっていくと、いずれ本や論文がなくなるんではないかという気がしています。本にしても論文にしても紙媒体が前提だったのですが、紙媒体がなくなれば、論文というような形をとる必要もないわけで、長期的には本、論文という概念そのものがなくなってくるかもしれません。

――未来の本の世界はどのようになっているとイメージされますか?


太田肇氏: 色々な媒体を組み合わせて、この人はこういう主張をしているとか、こういう考え方を広めたのはこういう人だ、ということが分かるようになると思います。つまり、電子媒体だったら、文章だけではなく、映像や音楽なども入ってきますので、多次元に広がっていきます。ボリュームも本のように制約がないわけですから、無限に大きくなったり、小さくなったり、自由にもなります。場合によっては、その人の一生で考えたものが、全部1つの体系として残るかもしれません。その方向に行くことが、私は電子媒体、電子書籍の将来の道かなという風に思いますが、今はまだそこまで行っていませんし、逆に電子書籍の弱い面というのもたくさん見えています。

――どのような弱さがあるでしょうか?


太田肇氏: 1つは、私は本を読むだけではなくて、線を引いたり折り曲げたりするので、電子書籍ならば、それがしにくいということがあります。それから、中途半端に部分的に電子媒体にしても、それだとあまり意味がないと思っています。書店にある本のほとんどが電子媒体になるような時代になれば、変わっていくのではないかなと思います。情報が一定の量を超えたら、検索すればすべて分かるという感じで、一気に広がっていくと思います。

――今は電子書籍は利用されていますか?


太田肇氏: 今はまだ、完全に書籍が電子化されていませんので、ほとんど使っていませんが、量が出てきたら一気に電子書籍に切り替えようとは思っています。ほとんどが電子媒体になると、研究室や家にある本は全部は必要ではなくなりますし、どこに行っても本が読めるようになってきますから、私と同じように思っている人は、多いのではないでしょうか。
本の置き場所に、みんな困っているんです。研究室でも本を置けませんので、それが解消されるというその意義は大きいです。それから一番の長所は検索機能。実際に読んだ本の中でも、何かいいことが書いてあったという記憶はあっても、情報が増えれば増えるほど、どこに書いてあったか分からなくなってしまうので、それを検索できるというのは、大変便利です。私は本を読んだ後は、要点や感想を、何ページにどんなことが書いてあったかを、必ずA4用紙1枚ぐらいに書き出して、パソコンの中に入れているんです。1998年くらいからはパソコンに入れていますが、それまではノートに書いていて、そのノートに関しては、もう何百ページにもなっていると思います。パソコンにしてからは検索できるようになったのでとても便利です。

ドロドロとした人間論を書きたい


――今は、どのような本を中心に読まれていますか?


太田肇氏: 基本は、自分が書く本に関連する本が多いのですが、その外側にある思考をふくらませてくれるようなもの、何かヒントになるようなものを読んでいます。ベストセラーに関しては、なぜ売れるのかということを知りたいので読んでいます。あとは書評などを書かされるので、書評用の本を仕方なく読んでいるというのも多いです。

――最近読んだ中で、面白かった本はありますか?


太田肇氏: 最近では、林真理子さんの『野心のすすめ』ですね。あれも書評に書くために読んだのですが、面白かった。

――太田さんにとって面白い本、良い本とはどのような本でしょうか?


太田肇氏: 一番は、コンセプトが明快ということです。この本で何が言いたかったのかということがはっきりしていて、しかもそれが読者にとってもインパクトがある本。中には、読んでいるうちは「そうだそうだ」と納得して読むのですが、しばらく経ったら「あの本、何が書いてあったかな」と思うこともあります。そういう風に思うのは、本の主張が明快ではないからではないでしょうか。訴えるものの大きくて、斬新なコンセプトがあれば、いくら書き方が下手で、極端に言えば、読んでいる途中は冗長で同じ様なことの繰り返しでも、書いてあることは後になってもずっと忘れない。そういう意味で古典と呼ばれるものは、読んでいる時は本当に退屈だと感じるものもありますが、それなりの内容があると感じています。

――良い本を書くための書き手の資質のようなものはあるのでしょうか?


太田肇氏: ナルシシズムでしょう。自分の言っていることが一番だという一種のナルシシズム、そして、林真理子さんではありませんが、野心がなければ書けないと思います。本当に謙虚になったら、書いたりしゃべったりできません。学生にも「成功しようと思ったら、ナルシシズムと野心が必要だ」とずっと昔から言っています。志という言葉はみなさん素晴らしいと言いますが、野心となると急にダーティなイメージになる気がします。志というのは、誰でも持てるわけではない。野心であれば、もっと俗っぽくなるので誰でも持てるし、本音の部分が入ってきます。自分をしっかり見るということも大事ですが、自分を客観的に見てばかりだったら、自分はつまらない人間だなって思ってしまいます。自分はすごいんだと思えば、モチベーションもわいてくる。日本人は自己肯定感が特に低い気がしています。客観的に見る目も必要ですが、他方では一種の自己愛のようなものが必要なのです。

――最後に、先生の今後の展望をお聞かせください。


太田肇氏: あらゆるところで発言したいというのはあります。今は、一種の人間論のようなものが書きたいと思っています。まだ具体的なものはありませんが、俗っぽいドロドロとした部分に光を当てて、赤裸々に書きたいです。昔『人間通』というベストセラーがありましたが、その自分版のようなもので、欲望、嫉妬など、本人が気がつかない行動の源について書いてみたいと思っています。既成の学問にとらわれず、深く掘り下げてみたいです。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 太田肇

この著者のタグ: 『大学教授』 『組織』 『考え方』 『出版業界』 『経営』 『教育』 『ファシリテーター』 『バックボーン』

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