何を書いても、バックボーンは変わらない
――多彩なテーマで執筆されていますが、共通して訴えたいことはありますか?
太田肇氏: 何にでも手をつっこんでいる気がしますが、一貫して、「個人を生かす組織や社会作り」をコンセプトにしているので、そういうバックボーンがあるんだということは分かって欲しいなと思っています。極端に言うと、軸をはっきりさせると1冊でいいわけですが、多少ブレないと新鮮味がなくなってしまうという部分もあって、私なりに葛藤を抱えているわけです。内容に新鮮味も残しつつ、色々なものを読んでもらって、徐々にバックボーンを分かってもらう、ということを意識して私は書いています。そういった意味で、ある程度受け身で、出版社の人に色々なアイデアを出してもらったり、刺激をもらったりすることは、大変ありがたいと思っています。
――編集者の役割は重要ですね。
太田肇氏: 私にとって、仕事に関係するあらゆる人の中で、一番大事なのは編集者です。編集者がいて、初めて仕事ができるという感じです。
――理想の編集者はどういった方でしょうか?
太田肇氏: 理想像というより、条件のようなものがあります。みなさん、それぞれ力のある方ばかりなんですが、私がこだわるのは「当事者能力」です。もっと俗っぽい話をすると、いくら優秀でも年齢が若いと、会社の中での影響力が大きくない場合もあるので、「これでいこう」と話がまとまり、方向性が決まっても、上がうんと言わないこともあります。ですから、ある程度年を重ねた人というのが一番大きな条件です。そういう人と、思いをぶつけて話し合う中で、企画を具体化していくということを大事にしています。
「勝った、負けた」はどうでもいいこと
――大学での授業のスタイルもお聞かせください。
太田肇氏: 私のゼミはちょっと変わっていて、個人が自由ということで、基本的に学生に任せています。自分たちが企画して、自分たちで好きなようにやる。そのかわり、最初にゼミ生を採る時に、精神的に成熟して、空気が読めるというのを条件にしている。その最初の条件があるから、あとは任せておいても大丈夫。私は一種のファシリテーターと言うか、アドバイザーです。
――学生にとってもやりがいのある方法ではないでしょうか。
太田肇氏: そういう学生もいますが、逆にそれではもの足りない、もっとかまって欲しいという生徒もいます。私のような授業形式は学内では一般的ではない気がします。
――学生と飲み会などでの交流はされますか?
太田肇氏: 私が積極的にやることはありませんが、学生が声を掛けてくれて、それに参加させてもらうという感じです。私と学生との間に、あまり意識の差がないので、学生は歓迎してくれます。精神年齢が低いからなのでしょうか、私は上から目線ではないと思いますし、むしろ私の方が過激なことを言ったり考えたりしているかもしれません。
――学生から教えられるようなこともありますか?
太田肇氏: どこに行っても誰と会っても、何かいい材料はないかなということを考えている気がします。
――お話を聞いていると、謙虚な印象を受けます。
太田肇氏: 不遜な言い方かもしれませんが、人と比べて自分が勝ったとか負けたなど、そんなことはどうでもいいのです。いい仕事をして実績を残せば、自然と周りから評価されるし、それが大事なのだと思います。
著書一覧『 太田肇 』