出版社は電子書籍を売りたくない?
――内山さんのホームページでは、e-booksといった形で電子版の書籍を販売していますね。
内山力氏: それは一般の方というより、わが社のコンサルティングのお客様に売っていくことを狙いにやっています。それほど認知される必要のない本であれば、お客様によって表現を変えていくことができます。本で読まなきゃいけない理由はありません。
――電子書籍についてはどのような可能性があると思われますか?
内山力氏: PHP新書はほとんど電子書籍になっていて、売れた分だけ印税がくるんですが、意外と売れていて、「こんなに買っている人がいるんだ」と驚きました。でも、出版社は売れた分だけを払うというだけで、投資していないわけです。『論理的な伝え方を身につける』の電子版が出る時に「リンクを貼るとか、パワポで動くようにすればいいんじゃないか」と僕が言っても、「売れるかどうか分からないからお金をかけられない」と言われました。『会社の数字を科学する』という本は、僕がやっているセミナーの中で一番売れているものを本にしたんですが、電子化する時に「これをテキストにしてセミナーの動画もつけて売ればいい」と言った時も、「そうするとお金がかかる」などと言うわけです。出版社としては、電子本というのは、価格が落ちるだけで、本質的には売りたくないのではないかと僕は思っています。
――電子書籍では、出版社を通さずに個人で出版する可能性も出てきますね。
内山力氏: 出版社にとって一番怖いのは、出版社を通さないコンテンツが大ヒットするという場合だと思います。でも、僕らが書いている本は、本という形を通して欲しい情報を得ている読者が多いわけです。そうすると別に本の状態じゃなくても、どういう形でも要は伝わればいいわけです。
電子書籍を怖がってはならない
内山力氏: 小説を読むのが好きな人は、文学が好きなのであって、情報が好きなのではありません。僕らは小説家じゃないから、情報のキレが一番大事なのであって、それを表現するツールが紙しかないというのでは物足りない。電子本や映画、あるいはゲームだろうと、どういう形をとってもいいと思っていますし、そのうちそういった形のものも出てくるんじゃないでしょうか。その時は、逆に本を守るためにも、もっと投資していくべきだと思います。テレビが出てきた時、映画はダメだろうということで、日本映画はなるべく安く撮る、という方向になっていったけれど、逆にハリウッドはもっとお金をかけて、テレビではできないコンテンツを作ろうとしました。それと同じように、電子本を怖がってはいけません。電子本が売れない一番大きな理由は、実は、誰も投資しないからなのです。最初にあまりお金をかけないで出したものが当たったとしたら、次はお金をかけてやる可能性も出てくると思います。
――最後に、展望をお聞かせください。
内山力氏: 本は僕のビジネスに必要なものですから書き続けていきます。それが市販本がいいのか、それとも別の形がいいのかと考える点もありますが、どんな形にしろ、読者と良いコミュニケーションがとれればと思っています。それから、ウェブサイトで、通信教育というスタイルで本を書いて、それを添削してフィードバックするという形でやっていくというようなことも考えています。
僕らの本は情報ですから、法律の改正など、劣化していく可能性があるわけなので、リアルタイムメンテが可能な電子本の方が有利な面もあります。本業に使っている教科書を、市販本で出している理由は、セミナーを受けなかった人にも同じコンテンツを渡せるからです。一緒に考えた企業も、成果物として本にするというのはすごく喜びますので、そういったことはこれからも続けていきたいと思っています。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 内山力 』