高橋宣行

Profile

1940年生まれ。1968年博報堂入社。制作コピーライター、制作部長を経て、統合計画室、MD計画室へ。制作グループならびにマーケットデザインユニットの統括の任にあたる。2000年より関連会社役員を経て、現在フリープランナーとして、さまざまな企業のプランニングならびにアドバイザーを務める。 近著に『キーメッセージのつくり方』(ディスカバー・トゥエンティワン)、『高橋宣行の発想ノート』(日本実業出版社)、『「差別化するストーリー」の描き方』(PHP研究所)など。今年9月20、日本実業出版社より『高橋宣行の発想フロー』を出版。
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山は「生き方」を教えてくれる


――ご出身は北海道ですね。


高橋宣行氏: 北海道の滝川で1940年に生まれて、次の年は戦争でした。終戦を迎えたのは5歳の時で、その後、小学校の頃に札幌に移りました。

――どのようなお子さんでしたか?


高橋宣行氏: どちらかというと外へ出歩く方が好きで、好奇心も旺盛でした。父に似たのか、家で本を読んでいるよりは外に出て遊んでいる方が好きでした。近くに藻岩山があったので、スキーなどをしたり、中島公園というところの池が広くて、そこが凍ると市民のスケートリンクになっていましたから、スケートもしていました。当時は、長靴にスケートの刃を縛り付けて、寒い時期には道路も凍っていたので、道路で滑ったりもしていました。

高橋宣行氏: 当時『少年少女文学全集』が家に全巻そろえていたので、昔の少年少女が読んでいるような本は一通り読んだかもしれません。本を夢中になって読んだという記憶はありませんが、貧しい中でも本があるというのは、すごくラッキーだったんじゃないかなと思います。ただ、僕が目が悪くなったのは、当時の暗い電球の下で寝ながら読んだのがいけなかったのかもしれません。

――人生に影響を与えた本を1冊挙げるとすれば、どの本でしょうか?


高橋宣行氏: 文学作品からはイキ、僕自身のメンタルも含め、人生のあらゆる局面で影響を受けたのは、深田久弥さんの『日本百名山』です。「山にはこういう歩き方、見方があって、それが生き方にもつながるのか」と、非常に感銘を受けました。僕は2000年に、日本百名山完登しました。高校時代に友達が登山部にいて、百名山の一番目の利尻岳という北海道の山に、連れて行ってもらったのが初めての登山経験でした。その後、会社に勤めている時、私の姉が横浜に住んでいて、その近所の山好きの人が、僕を谷川岳へ連れて行ってくれたのをきっかけに、少しずつ登るようになりました。コピーライターで朝から晩までひたすら働いて疲れ切っていると、当時の制作部長が「高橋君、休んで山でも行ってきたら?」などと優しい言葉をかけてくれたこともありました。その方は「物も人も分からない人間が、得意先の金を使って広告を創るようではいけない」とよく言われ、先ほどの「松屋を上から下までウォッチング」ということを言われたのも、その制作部長でした。

――登山の魅力はどういったところにあるのでしょうか?


高橋宣行氏: 精神性のようなところです。いつでも逃げられる。「やめようかな」などと時々思いながらも、耐える、粘る、頑張って登る。昔は体力に任せて、とにかくただひたすら登っていたものが、年と共に山から見える景色が違って見えたり、足元の感じ方が変わってきたり、だんだん視野が広がってくる。例えば、高速を走っていると周りがあまり見えないけれど、農道をゆっくり走ると周りの景色が見えてくるのと同じように、年と共に、スロースピードになって、見える範囲も感じ方も変わってきました。登山の体験はいまも生きています。

変わるもの、変わらないものを見続ける


――本を書かれるようになったきっかけを教えてください。


高橋宣行氏: 「明日までに考えておけ」とか、「もう少しいいアイデアないのか」などと、どの会社にいても「考えろ」と言われますよね。仕事の大半が課題解決なのですから…。でも、何を、どこから、どういう風に考えていったらいいのか。「HOW TO THINKING」といったものがあるようで意外になくて、先輩も教えてくれない。出てきたものに対して、色々批評はできても、考える基本姿勢といったものを教えてくれるものが少な過ぎるんじゃないかなと思ったのが、本を書くきっかけになりました。

――高橋さんの本は、業種を問わず、気付きが得られる内容ですね。


高橋宣行氏: 40数年広告をやってきましたが、広告の経験談ではなく、色々な会社で話をしても、ずれなくて済むのは「考え方」というベースの部分があるからだと思います。創造というのは人と違う新しいものを作りだすことだとすると、正解なんて絶対にあり得ないわけです。正解を出そうとすると、すでにあるものに合わせようとするから、オリジナルではなくなります。正解がないんだから何を考えてもいいけれど、周りが「なるほど、そんな考え方があったのか」と思うようなリアリティがあるとか、共感性があるのがきっといいアイデアなんだろうなと思います。そのリアリティって体験や経験がないと生まれにくい。私が「生き方以上の発想はない」とよく言っているのは、こういう意味でもあるのです。

――独りよがりにならず、共感を得るためにはどうすればよいでしょうか?


高橋宣行氏: 何が本質的に大事なのか、というのを考えるということです。ビジネスは常に相手がいて成り立つわけですから、相手の立場で考えなくてはなりません。僕がコピーを書いている時、よく上司に横から、「こんなこと書いていて人が喜ぶの?」と言われましたし「根っこがないぞ」とも。管理の方になってからも、社長に「現場をこういう風に変えたい」と言うと、「それで現場は喜ぶの?」などと言われました。相手のことを知らないで、ひたすら「いいものだ」と作り続けても「相手にとって何が一番必要なのか」ということを外してしまうと、どのようなビジネスでも成り立たない。家電メーカーが「どうだ、これは世界最小の液晶だ」と作っていたところが、気がつくと、相手の興味はもう違う方向へ目を向けている。モノの微差でなく暮らしに合わせて…と。相手のことを考えないと関心事からはずれるし、コミュニケーションも成り立たないし、モノも動かない。

――時代の変化に対応していけるように、常に相手を見続ける必要があるということでしょうか?


高橋宣行氏: 変える部分と変えてはいけない本質的な部分を、常に見続けていくかというのが大事なことです。よく「伝統と革新」と言われますが、ここを外すと自分の生き様のようなものがなくなるといった部分に関しては変えてはいけません。背骨がない企業はそれをころころ変えてしまって、時代に合わせて右往左往して、価格競争でお互いに体力を消耗してしまう。例えば虎屋は500年近い歴史を持っている中で、変わる部分と変わらない部分というのがあります。和菓子というものを通して「日本の文化、食材あるいは日本の四季などを伝えていきたい」というベースがあって、その上で時代と共に季節の対応の仕方や、日本人の好みの変化も見ていく。その両方を見ることが、考える時の基本的な姿勢だと思っています。

著書一覧『 高橋宣行

この著者のタグ: 『経済』 『生き方』 『広告』 『クリエイティブ』 『メディア』 『コピーライター』 『創造』 『登山』

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