電子書籍は全く新しい「複合メディア」に
――出版の世界では電子書籍が大きな変革となっていますが、どのようにご覧になりますか?
高橋宣行氏: 欧米、特にアメリカと日本の場合は、紙に対する愛着に関して大きく差があると思うんです。アメリカ人は日本人ほど、紙や色や文字を愛して読んでないのではないでしょうか。だから効率的で、便利で、スピード感があるメディアは願ってもないものなのです。もちろん日本でも結果としては電子化は否応なく進むでしょう。でも、車で例を挙げるとすると、ハードが一気に進んできて、あるところで突然マナーの問題や安全の問題、あるいは文化や社会に合わせて車が変わらざるを得なくなってきています。文明の利器はつねに、本当にこれが人間にとっての幸せなのか、自分の生き方にとって認めていいものかどうかと、後ろを振り返る時、戻る時、落しどころをさぐる時がくると思います。
――電子書籍の役割も利便性以外のものが出てくるかもしれませんね。
高橋宣行氏: 今のところは紙をどうやってデジタルにするかという、置き換えだけの問題になっていますが、それだけではなく、紙と全く違った新しいメディア、カテゴリーの商品として、きっと音や映像なども入ってくると思います。そうすると本との競合の問題ではなくて、紙の文化とは全く違った楽しみ方ができるメディアとして両立するだろうと思います。本屋さんも、ただ本だけを売るという専門性だけでは厳しくなるから、地域の人たちの暮らしに合わせた複合型のお店になって、本をベースに新しいタイプのお店ができあがる。携帯電話も、iPhoneになると、何かがくっついたというだけではない、全く新しいメディアになりました。そういう意味で、電子書籍も複合した新しいメディア、新しいカテゴリーというものが進んでくると思います。まだ今は、日本の紙文化の魅力に対して、それを追い抜いていくような魅力を持っていないのかもしれません。
「想い」があるか。「提案性」があるか
高橋宣行氏: 出版は、世の中の流れを後追いしているような気がしてるんです。出版社自体に「世の中がこうなってほしい」「人をこういう風にしてみたい」というメッセージのようなものがないと、存在感が消えかかってくるんじゃないかと思います。あれだけの歴史を持っている本に関わる人たちが「誰かが当たったから」、「受けそうだから」という理由で本を出しているのを見ると「もういい加減にしてよ」と思います。ちょっと言葉はくさかったけど「ジャーナリストとして、世の中をこう変えたい」とか、「あなたたちと一緒にこう変えていきたい」など、昔はそういう想いが出版社にもあったんだろうと思っています。熱い「想い」が。名物の編集者や、出版社の社長など、そういう人たちはだんだん消えていっているのかもしれません。
――ご自身の本は編集にどのようなこだわりがありますか?
高橋宣行氏: 絵と文字と言葉の使い方など、「口当たりがよく、コクがある」を目ざして、人の気持ちの中に入り込めるように作りたいと思っています。最初の本の『オリジナルシンキング』は、半年ぐらいかかってデザインを試行錯誤して、デザイナーの方も「新しい本を作りたい」とのってくれましたし、僕も「ただの文章は書かない」「言葉にイメージを持たせた」と、短い中に「気付き」になる言葉をちりばめました。
――最後に、ご著書も含め今後の展望をお聞かせください。
高橋宣行氏: 執筆に関しては、メインテーマはずっと変わらず「考える基本姿勢を手渡したい」ということです。それを、みんなが共感できるように、アングルを変えながら書けるだけ書いてみたいなと思います。あともう1つは、地方の企業に注目していて、「考えるヒント」を与えると、もっと動くところがたくさんあると思っています。その動かす手助けができればと思い、島おこしをしたり、地方でセミナーをやったり、企業のブランディングをやったりしています。次は秋田での活動を考えているところです。「創造とは破壊だ」といわれ、基本的にはある意味、変化させないといけない。今までの習慣や古い概念のようなものを壊していかないと新しくならないわけですから、「壊す勇気」を地方の人たちに与えていけたら、と思っています。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 高橋宣行 』