執筆には魂を込める
――ご自著の中で、マンションを買う時も数字だけではないと書いています。その理由はなんでしょうか?
長嶋修氏: 昔から資本主義経済に疑問を感じていました。上手く立ちまわる人や会社が、経済的に上手くいくのはあまり良い世の中じゃない。資本主義経済を持続可能な状態にしていくなら、良いことをし、世の中を幸せにしている人や会社が、健全に売り上げや利益を上げるのがいいですよね。「お金が欲しければ世の中を良くしろ」という話になる世の中だと良いと思うんです。資本主義経済システムは、人間が作ったから完璧なものではないので、これをどういう味付けにしていくかという意思が必要だと思うんです。
――キーワードは、幸せを軸とした不動産だと言えるのでしょうか?
長嶋修氏: 不動産は手段ですから、ツールとして非常に有用です。幸せに今一番密接に関わっているのが不動産なんです。その他、食べ物も、医療も、社会をより良くするツールとして有用ですね。
幸せになるということは結構、厳しいことですよね。誰かが幸せにしてくれるわけじゃない、自分はどういう時に幸せだと、自分で決める問題がありますから。私は、相手に対して「幸せにしてあげる」というのは、おこがましいと思っているんです。やはり個々が自立して、自分はどう思って何をしているのが幸せなのかという独立然としたものがあるから、お互いに尊重してやっていけるのだと思います。
心理学で言うと、マズローの欲求段階で、自分という個を超えたところで世の中や大衆を幸せにした時に最も満たされるという話があります。私はそこに自分の幸せがあると仮説を立てています。自分が幸せになろうと思うと、皆を出し抜いて幸せになるわけにはいかない。全体が良くならないと落ち着かない。この全体をどこまで考えるかというと最後は全宇宙になると思いますが、それでは話が大きすぎるので、まず自分の手元の仕事ができること。手元の仕事ができるようになれば会社全体。会社全体ができるようになれば業界。業界ができるようになれば他業界と、段々と枠を広げていきたいなと考えています。
――本は不特定多数に見られる媒体ですが、執筆者としてどういった思いを持たれていますか?
長嶋修氏: 私は専門家として書いていますから、文章で大事なのは、もちろんその専門性の部分だと思っています。ただ、専門性の部分は、一定の知識、経験があれば誰でも書けますから、その中で違いを出すには、そこに魂をこめているかどうか、また、どういう意思でそれを書いているかという、執筆者の気持ちやスピリットをどう伝えるかが大事だと思います。私は、月に30冊ほど本を読みますが、そういう部分を感じるようにしています。
――執筆する上でのこだわりは?
長嶋修氏: 気持ちが乗っているといくらでも書けますが、気持ちが乗らないと、きれいには書けますが、いかにも魂がこもっていない文章になってしまい、自分が嫌になります。ですから、書く時はいつも勢いで書きます。とにかく思いつめたり深く考えたりする時に降りてくるもの、それを書きます。
――魂を込めて書かれた本を世に出す時、編集者とはどんなやりとりをするのでしょうか?
長嶋修氏: 編集者との相性はすごく大事だと思います。こちらが一方的に出したものを、ばっちり整理していただいてます。私は、目次を作れないんです。企画が必要ですから一応最初に作りますが、その通りにいったことは1度もありません。あとは、「本を出しませんか」とご提案いただいた時に、書く内容を決められない。担当の方の仮説というたたき台に基づいて、こういう本を求められているのなら、こんな風に加工して作ることができますというような提案をしていく感じですね。
――これからはどのようなものを書いていきたいとお考えですか?
長嶋修氏: この10年15年で大きく変わった住宅市場の構造や業界、一般の方々の認識をどう上手く次に繋げていくか。切り口を変えたり、全く違う概念を持ってきたりして書いてみたいです。自分と読む人と、世の中全体が良くなるバランスを、どれだけ高いレベルで、自分のやったことで結び付けるかです。
――電子書籍に関して、発信者として特別な思いはございますか?
長嶋修氏: 私自身が端末を上手く使えていないのでなんとも言えませんが、何かを深く味わってゆっくり読むというより、ノウハウや知識やデータを読むには電子書籍が多分良いと思います。ですから、私の本も将来的には、ノウハウ系やデータ系が中心になるようなものは電子の方が良いかなと思っています。
――電子書籍の可能性としては、どんなことができそうですか?
長嶋修氏: 雑誌なんか良いと思います。不動産市場のデータは大体出る時期が決まっていますので、毎月か毎年更新ということもできますね。
――本はどのようにして購入されますか?
長嶋修氏: 基本はネットですが、たまに本屋さんに行きます。するとAmazonや楽天でみているのとは違うものが書棚に置いてあったり、興味深いものが見つかったりします。
――本は、どういった基準で選ばれますか?
長嶋修氏: 直感です。だから買ってすぐに読まないと一生読みません。来週読もう、来月読もうと思った本は、買ったことが失敗だったか、或いは、今自分にとって読む必要がない本です。私は本がなかったら今の自分はなかったと思います。経済、金融、不動産、心理学、経営など、一通りのことを、のべつまくなしに吸収できたのは、全て本のおかげです。
――これまで、どんな本と出会いましたか?
長嶋修氏: 子どもの頃は『ぐりとぐら』を死ぬ程読みました。ページの折り目も覚えています。そういった、何十回でも読みたいと思う本に出会えた時は幸せです。大人になってから読んだものは、著者名やタイトルを覚えていません。
著書一覧『 長嶋修 』