増田直紀

Profile

1976年生まれ。1998年東京大学工学部計数工学科を卒業後、同大学院に進学し、2002年に博士(工学)。東京大学准教授(大学院情報理工学系研究科数理情報学専攻)。ネットワーク科学、さまざまな社会行動の数理、脳の理論を研究。 著書に『「複雑ネットワーク」とは何か』(共著、ブルーバックス)、『私たちはどうつながっているのか』(中公新書)、『なぜ3人いると噂が広まるのか』(日経プレミアシリーズ)などがある。

Book Information

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人の手に届く瞬間が、一番嬉しい


――本を書くきっかけとは?


増田直紀氏: ネットワークという分野について分かりやすく紹介したい、と思ったのが最初です。1冊目の専門書は2005年に出版されました。書きたいと思った理由は、大学院で私の所に来てくれる学生や、新しいデータをシェアしてくれる人や、研究に興味を持ってくれる人を増やしたかったからです。院内感染の研究を一緒にした方は、私の本を知って、データを持って相談に来てくれたのがきっかけだったんです。本として発信することで、多くの人とのつながりができました。

――本の執筆の原動力は、どこから沸き起こりますか?


増田直紀氏: 本が出た瞬間は楽しく、人の手に届く瞬間がうれしい。多くの時間を費やすことは確かなので、書いている途中は辛いことも多いです。しかし、世に出て、色々な反響があったり、特にアカデミックじゃない方から色々な返事をもらったり、イベントに呼んでいただいたりというのは原動力になります。

――本を出したことによる、仕事に関する変化や効果などはありますか?


増田直紀氏: 予期しない出会いがあります。書かなかったら出会わなかったであろう方と、たくさん知り合いました。大学や研究業界以外の方に出会えることは刺激になります。そういった出会いが新たな本を生み出すこともありえると思います。

――書いていて、喜びを感じる瞬間はありますか?


増田直紀氏: 出版された時や増刷された時など、認められたことが形をもって感じられる時です。論文も執筆作業なのですが、論文で言うと、良い雑誌に掲載された時。賞をいただいたり、国際的な会議に招待された時などです。
また、自己実現的な気持ちになれた時も喜びを感じます。研究であれば、実証したことを世に出す時。大衆受けしないだろうと思いつつ論文を出す場合はあるのです。その場合は、多くの人がついて来なくても良く、それはそれで自分のやりたい研究を実現できて、良い気分です。そういうのばっかりだと、ひとりよがりでイヤですが。

――売れることが主眼ではないのですね。


増田直紀氏: 本について言えば、主眼ではないです。ただ、全く売れないなら書くべきではないとも思っています。ロングテールの法則というのがあります。大抵の本は売れないということです。一部の本だけがミリオンセラーになる。増刷されるような本は、全体から見ればほんの一部なのです。売れないなら、オンラインで普通に公開してしまえば良いと思います。出版社を巻きこんで本として出すなら、読者に届くのが前提ですから、ある程度売れないと色々な意味でペイしないと思います。なので、1人よがりの本は出したくないです。

――読みやすさ、分かりやすさが必要だということでしょうか。


増田直紀氏: 本の題材そのものがもちろん大事ですが、次に大事なことは読みやすさ、分かりやすさだと思います。「読める」、「読めない」は、多くの場合は著者の責任だと思います。読みにくい本の多くは、文章の論理構造が原因だったりするように見えます。自分はどうしても理詰めで考えてしまうので、論理的に分かりやすく書くことを大切にしています。ただ、こみ入った論理になってしまうと、どんなに正しい文章だったとしても読者の理解を超えてしまうでしょう。読者層を想定して、論理的だけどこみ入らないような一文の長さ、漢字の量、全体構成などを考えます。これは、私が本を書く時のポリシーです。
学生や博士号をもつ研究員に文章指導をすることは多くあって、こういったことを繰り返し教えます。人に分かりやすく伝えるとは何か。プレゼンの方が指導しがいがあるかもしれませんね。学会でプレゼンテーションが30分あったとします。よくあるのが、自分の話したいことを話して終わってしまうこと。それでは、聴衆は名前くらいしか覚えてくれません。色々な本にも書いてあるのでしょうが、プレゼンテーションの本当の目的は、自分の与えられた時間を上手く使って相手に何かを印象付けることです。そう意識すれば、詰め込みになりすぎないように量を削ったり、スライドの一字一句を推敲したり、どういう絵を入れるとわかりやすいのかをあれこれ考えたりするはずです。自分がやりたいことと受け手が欲しいことは別。大抵は受け手が欲しいことをやる方が得です。

著書一覧『 増田直紀

この著者のタグ: 『大学教授』 『コミュニケーション』 『数学』 『プレゼンテーション』 『考え方』 『研究』 『教育』 『理系』

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