伝承の世界を見通すと『古事記』の物語が楽しくみえてくる
専門は、日本古代文学と伝承文学で2013年4月より立正大学大学院文学研究科長を勤められています。2003年12月、『口語訳 古事記』で第1回角川財団学芸賞を受賞され、同書はベストセラーとなりました。他にも1988年、『村落伝承論』で第5回上代文学会賞を受賞、2013年には、『古事記を読みなおす』で第1回古代歴史文化賞みやざき賞を受賞されています。『遠野物語』を研究し、『古事記』や『万葉集』などを今までと違った切り口で読み解き、私たちに紹介してくれています。最近は、KADOKAWAの月刊誌『歴史読本』に『神話再発見 「今」、古事記を読む』を連載されています。今日は、国文学の研究の事や、電子書籍、電子媒体のことについて、お話していただきました。
27年間で起こった変化
――今年7月に『増補新版 村落伝承論「遠野物語」から』が発売されました。
三浦佑之氏: はい。わたしが最初に書いた本は『村落伝承論』という本で27年前に出版されました。この本を、どこかで学芸文庫とか学術文庫にしてもらいたいと思っていたのですが、知り合いの編集者が「新しく作り直したほうが面白いのではないですか」と言ってくれたので、新しい読者にも読んでもらいたいと思い、旧版を出したあとに書いた遠野関係のものと最近書いたものを加えて増補版として1冊にしました。結構楽しい、面白い本ができたのではないかと思って喜んでいます。
――新版にはどんな思いを込められましたか?
三浦佑之氏: 27年前に考えていたこと、今およそ30年経って自分自身がどう変わったのか、そもそも「村落」というものがどう変わったのか、そういうことが、うまく出せればいいと思いました。それで、新しく共同体とか、国家と村落など、そういう関係を読み直してみることができるかもしれないという期待を込めています。
主体的に勉強することが必要
――大学の方での研究、教育というのはどんな感じですか?
三浦佑之氏: 古代文学と伝承文学を研究の対象にしています。わたしの勤めている大学は日本語日本文学専攻で、上のほうの時代を担当しているので、授業と研究はわりと重なっていて、『遠野物語』なども含めて昔話や神話と、『古事記』や『万葉集』上代文学関係の授業を担当しています。今は大学も授業だけでは済まなくて、色々と会議などの雑用のほうが多くなっています。若い人たちが良い環境で研究を続けられるようにできればいいと思いますが、なかなか難しいですね。
――この研究室にも、たくさん資料がありますね。
三浦佑之氏: これは何代にも渡って使われている研究室の蔵書なので、古くて今はもうない本がほとんどです。これ以外にも図書館や書庫にも入っています。ゼミの学生や大学院生たちも上代文学の本はここによくとりにきます。
――ゼミでの授業はどのようにすすめているのですか。
三浦佑之氏: この大学は3、4年生が一緒にゼミをするので、わたしのところには20人くらいの学生がいます。学生がワイワイ言いながら発表して議論します。わたし自身はなるべく喋らないようにしています。講義科目では、わたしが喋り続けるのですが、ゼミの場合は学生が自分で調べてまとめたことをプレゼンテーションして、それを基に議論するということが1番大事だと思います。だからお互いの考え方を確認しながら議論して、そこで色々な新しい考え方を見つけていくとかできればいいと思っています。
――ゼミでは議論することが大事ということですが、それはなぜでしょうか。
三浦佑之氏: 大学でいつも問題になるのは、“主体的にどうやって勉強できるか”です。高校までは教えられて覚えるという、受け身でものを考える勉強だったと思いますが、自分自身が行動し考えることによって分かることが多い。だから、その訓練をする必要があるのです。多分、我々の学生時代もそうだったと思います。例えば、「本に書いているから正しい」とか、「先生が言っているから正しい」とすぐに言う学生がいますが、「それは恐らく違う」、「偉い人が言っているけど嘘かもしれない」とか「本当にそうか?」、というふうに考えられることが、何よりも必要なことかなと思っています。というのは、わたしのところで神話や昔話を研究しても専門家になる学生はほとんどいません。社会に出て一般企業に就職しますが、そこでも指示待ちではなく、自分で主体的に考えたり、問題を解決したりする力を身につけていることがぜひとも必要なことだと思っています。だから、そうした訓練をして考える力を身につけてくれればと願っています。
著書一覧『 三浦佑之 』