小松成美

Profile

1962年、神奈川県横浜市生まれ。 専門学校で広告を学び、毎日広告社へ入社。その後、放送局勤務などを経て、1990年より本格的に執筆を開始する。 主題はスポーツ、映画、音楽、芸術、旅、歴史など多岐にわたる。 情熱的な取材と堅い筆致、磨き抜かれた文章にファンも多い。 スポーツノンフィクションや、歌舞伎をはじめとした古典芸能や西洋美術、歴史などにも造詣が深く、関連の執筆も多い。 近著に『横綱白鵬 試練の山を越えて はるかなる頂へ』(学研教育出版)、『逃げない―13人のプロの生き方』(産経新聞出版)、『対話力 私はなぜそう問いかけたのか』(ちくま文庫)など。

Book Information

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本は人間のワンダーランド。その扉を開いてほしい



第一線で活躍する人物のルポルタージュを得意分野とし、テーマに肉迫するスポーツノンフィクションの書き手である小松成美さん。歌舞伎をはじめとした古典芸能や西洋美術、歴史などにも造詣が深く、関連の執筆も多数。講演では、多くの人物と信頼関係を築いてきたコミュニケーション術やプロフェッショナルなどについて語られることもあり、幅広い年齢層に支持されています。現在、数多くの人物ルポルタージュ、スポーツノンフィクション、インタビュー、エッセイ・コラムを執筆、雑誌や書籍にて精力的に発表している小松さんに、本の素晴らしさ、書くことの苦しみと喜び、そして、本で伝えたいことについて語っていただきました。

リーダーを育てるということ


――4月からは兵庫県立大学の客員教授を務められていますね。


小松成美氏: 生命理学研究科の中なのですが、リーディング大学院という、リーダーを育てる学部があります。韓国、インドネシア、中国からの留学生を含む、ドクターをとっている学生たちが、研究を包括したものを形にして世の中に投じるリーダーになる。そのリーダーを育てるための学部となっています。

これは国のプロジェクトでもあり、国が助成金を出しているので、東大や京大や早稲田など色々なところにあります。研究したものを社会に還元したり、投じたりするために、プロデュースやマネージメントをする学生の方たちのための学部です。彼らは理系の学生なので、いつもラボで研究をしているような、ものすごく知的な学生たちなのですが、そのリーダーを育てるという意味で、授業は全部英語となっています。

――それは教える側も同様ですか。


小松成美氏: そうです。世界で通じるリーダーという意味で、ディベートも、オピニオンを述べる時も、全て英語です。そういった専門知識や科学の中でリーダーになるために、スペシャルプログラムとして色々なステップを学ぶのです。学生は、大学内と教室と自分の家や寮を行き来していて、社会に触れる機会が少ないので、社会経験を積むための授業として、会社の経営者の方や、私は作家として、という感じで4、5人教授がいます。

その中で講義をさせていただくのですが、テーマは自由です。2時間やって、その後にみんなでディベートをするのですが、その司会も私がやっています。私のライフワークというか、『和を継ぐものたち』という本で職人たちの取材をしているので、前期は日本の職人たちの生活やその技、そして、そこにある問題点などについてやりました。私が、筆や扇子、和ろうそくなどの作り方を写真で説明をして、「なぜこうしたものが日本で発展したか」ということも説明して、この21世紀にある彼らの苦境を伝えた上で、「次世代に技術や伝統を伝えることが、難しい状況になってきています。あなたたちがリーダーだったら、この技術や伝統をどう守りますか?」ということをテーマにディベートをしました。この議論はかなり白熱しましたよ(笑)。

――今聞くだけでも大変面白そうですね。学生からはどんな意見が聞かれましたか。


小松成美氏: 「淘汰されるべきものもあるんじゃないか」、「リーダーにはそういう選択も必要じゃないか」という意見もありました。夢物語なら、「全ての技術者、後継者に助成金を出して…」といった感じになるのかもしれませんが、「なかなかそう旨くはいかないと思う」という意見もありました。自分が職人だったりしたら、自分のことしか伝えられないかもしれませんが、書き手の立場で取材をしたので、その授業の中では、問題点まで紡ぎ出せたのがすごく良かったと思います。

次回は、歌舞伎をテーマに講義をしようかと考えています。歌舞伎は歌舞伎座や京都の南座をはじめ、地方の劇場でも一年中、ほとんど毎日やっているのに、聞いてみた所、誰ひとり見たことがありませんでした。でも、彼らはきっと「日本の伝統芸能は何ですか?」と聞かれたら、「歌舞伎」と答えたりするわけです。ですから、今度はDVDを持っていって、勘三郎さんの『鏡獅子』を学生に見せたいなと、次の授業のプランを練っているところです。

自分が媒体となることによって、新たな花を咲かせたい


――6月からは高知県の観光特使にも就任されてます。


小松成美氏: はい。今、私が取材している株式会社ダイヤモンドダイニングの松村厚久社長にご縁を頂きまして、尾崎正直高知県知事をご紹介いただきました。私自身は横浜生まれの横浜育ちですが、高知県の観光特使をさせていただくことになりました。また、以前には坂本龍馬の手紙を題材にした『若い人におくる龍馬のことば』を書いていて、そのこともきっかけになりました。

子ども時代に司馬遼太郎さんの『竜馬がゆく』を読んで、龍馬が大好きになって、そこから維新の時代の歴史を調べるようになりました。あの時代のダイナミズムには胸が躍ります。薩長の人々、幕府の勝海舟など、傑物は数え上げたらきりがありません。中でも、土佐藩の人たちは傑出しています。他の藩の人たちは、自分の蕃を国として主に考えていたのに、脱藩した龍馬や中岡慎太郎は土佐のことだけでなく、日本や日本人のことを考えていました。自分がやるべきことだと思ったら、絶対に曲げない。他者のためであることが自分の喜びになるという、その高知の気質に胸をうたれたのです。

大人になって高知を旅すると、高知の方たちは本当に情が厚いなと感じました。今、“高知家”といったキャンペーンもありますが、まさに大きな家族といった感じで、みんな元気なのです。今回も高知へ行ってきましたが、情熱的というか、イタリア人みたいな感じで、本当の家族のように接してくれます。

――他者のためであることが、自分の喜び……そういった想いは取材にも繋がってくるのではないでしょうか。


小松成美氏: まさにそうですね。アスリートに取材をさせていただいても、自分のためにはもちろん、「自分以外の誰かのために何ができるか」ということに尽くしている思いを聞くことが多いのです。そういう胸に秘めた思いを伝えたいと思います。勿論、皆さん自分の目標や夢や欲望があるのですが、「自分ではない誰かのために力を尽くすということが、爆発的なエネルギーを生む」とおっしゃいます。

これは、エンターテインメントでもスポーツでも同じ。「自分のためだったら苦しくて足をとめていたのが、被災地で応援してくれている方のためだと思えば、止まらずに走りきることができる」と、なでしこジャパンの選手たちが言っていました。それを聞いて、「人間の心は、思うことによって色々な化学反応を起こす。だから、可能性は無限なんだな」と思いました。明治維新の武士たちにもそれを見ることができます。オリンピックやワールドカップで戦っている選手にもそれを感じるので、取材のテーマが尽きませんね。

――全てが取材対象ですよね。取材者、作家としての喜びとは?


小松成美氏: 執筆のテーマとなる方々が輝く瞬間に立ち会える、その興奮があります。でも50代になって、取材して原稿を書くというシンプルな仕事の中に、人と人をつなぐという大きな作用があるのだと思うようになったのです。それで、私が取材した方を、ジャンルも世代も性別も違う方たちに紹介することもあります。私にあるのは単純に、「この方とこの方が出会えばすごいかも」という思いだけなのです。ミツバチのように媒介することによって、そこにまた新しい種がまかれたり、花が咲いたりするのではないかと考えています。だから、観光特使もお引き受けしました。

作家としては、取材を許される立場として、そのテーマに肉薄します。書くために、ご家族さえ知らないことを知ることになります。でも、そこには人生の紆余曲折があるわけなので、喜びだけではなく、苦しみも共有することになります。作家は、主題の壮大な人生を享受するという職業で、他にないと思います。

著書一覧『 小松成美

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