妖怪、幽霊、変わった生き物への興味
武村政春氏: 3歳頃引っ越してきた家の裏は広いお墓でした。そこに30年間くらいずっと住んでいました。身近にお墓があったので、私にとっては墓場が庭でした。近所の子供たちと遊ぶ時も、墓の間を追いかけっこして、卒塔婆を見て「これ、なんだろう」と思いながら、その間をすり抜けて走っていました。いわゆる墓場にありがちな怪談話などはあまりなかったので、怖いというイメージはありませんでした。墓場に非常に親近感を持っていたので、水木しげる先生の「ゲゲゲの鬼太郎」のアニメ番組を見て、自然に妖怪や幽霊に興味を持つようになったのです。
――妖怪や幽霊以外にも、夢中になったことはありましたか。
武村政春氏: 生き物がたくさん載っている本、図鑑にとても興味がありました。小学生の頃は、魚や水生生物、ヒトデやイカなど魚以外の海に棲む動物の図鑑が大好きでした。ある日、自分の図鑑には載っていない「マンジュウヒトデ」を友人の図鑑で「発見」し、親にねだって買ってもらいました。そんな感じで、図鑑に載っていない生物を新たに「発見」しては、その生物が載っている図鑑を買うという、連鎖でした。
――妖怪とか、マイナーな生き物、珍獣に興味があったのですね。
武村政春氏: 「ゲゲゲの鬼太郎」が並行して私の頭の中にありました。作者の水木しげるさんが描く妖怪も、色々な形をしたものがあって、色々な生物の多様性と同じ感覚で妖怪にも魅せられていきました。だから基本的に私は、そういう多様なものが非常に好きなんです。妖怪を仕事にはできなかったので、必然的に好きな生物のこと、生物学をやりたいと思っていました。
自然科学を広く理解してほしい
――最初の本は、そこから来ていたんですね。
武村政春氏: 私の最初の本は、2002年に文芸社から出した『ろくろ首考』という自費出版の本がもとになっています。家で姉と話していて、生物学と妖怪を結び付けたら面白そうだという話になって、本当に妖怪がいるとしたらどういう生物学的メカニズムを持っているのかということに焦点を当てようと、この本を書きました。その後、新潮社の編集者がこれに目を留めて、声をかけてきてくれて、最初の『ろくろ首の首は何故伸びるのか』が出ることになりました。
――ブルーバックスから出された『DNA複製の謎に迫る―正確さといい加減さが共存する不思議ワールド』は。
武村政春氏: これはダメもとで、企画書を書いて手紙を出しました。すると、当時の出版部長の堀越さんという編集者の方からFAXで返事が来ました。この時は嬉しかったですね。2004年ですから、ちょうど10年前です。それがきっかけで、今ブルーバックスで4冊書いています。
――すばらしい編集者さんに出会えたのですね。
武村政春氏: 私たち科学者が書くような本の場合は、専門家にしか分からない世界というのがあります。それはあまり一般の人に知られる機会はありませんが、編集者は知る機会を作ってくれる存在だと思います。特に科学系の場合、編集者は学問と一般の人を結び付ける非常に重要な位置にいる人であると感じています。専門的なことがらを世の中に伝えていく時の窓口ではあると思います。
――どんな想いで書かれていますか。
武村政春氏: 自分の研究していることを知ってもらいたい、ということが1番です。そこからサイエンスの世界を、一般の人たちに広めたいという気持ちで本を書いています。
著書一覧『 武村政春 』