経済学的思考のエッセンスを知って、豊かな社会に
――経済学者=予想屋のイメージが肥大化してしまっている、と。
大竹文雄氏: 経済学者に株価予想とかそういう期待をされて、それに応えていないと怒られるというところがありますが、それは経済学の実態を正しく伝えていなかった経済学者に問題があるのだろうと思います。
経済学全体が、誤解を元にがっかりされているという状況だと、経済学を志す人も減ってきますから、学問はますます衰退していきます。それはなんとかして止めたほうがいいのではないか、ということは思っていました。そういう思いを抱いていたところ偶然エッセイを書く機会があったので、ずっと書いていたものをまとめて新書にして、2005年に出版したものが『経済学的思考のセンス』です。これが一般向けに本を書くようになったきっかけです。自分たち経済学者がやっていることを正しく理解してほしいという思いでした。
――『経済学的思考のセンス』は大竹先生の想いが詰まった一冊なんですね。
大竹文雄氏: ある日、テレビマンユニオンという制作会社の社長さんが、その『経済学的思考のセンス』を読んで、私のところにいらっしゃいました。「この本に書いてあるような内容について、先生のところにぶらっと話を聞きに来て、質問して教えてもらうというタイプの番組を作りたいんだ」と言われました。私は基本的にはテレビに出ないということにしています。それは、テレビでは、自分が言いたかったことと全く違うことが、編集されてしまって番組で放送されることがあって、何度か痛い経験をしたからです。「オイコノミア」はそういうことは絶対しないという約束でしたし、社長さんの情熱が大きかったということもあり、引き受けました。
――毎回のテーマは、どのようにして決められているのでしょうか。
大竹文雄氏: 「自分たちが面白いと思うことをやっていく」ということを基本にしています。自分が楽しまないと見る人も楽しめないと思いますし、面白くないですよね。制作スタッフの多くは30代から40代で、女性が多いです。彼女たちが関心を持っていることや知りたいことが、だいたいテーマになっています。自分たちが知りたいことだから、視聴者との関心が近いのではないでしょうか。
――経済学を通して解決できそうな問題は、たくさんありそうです。
大竹文雄氏: 私の専門の1つは所得格差の問題です。会社の中の給与の設計の仕方から貧困の問題まで、範囲は広いです。まず、実態はどうなっているのかを調べて、どうしてそういうことが起こるのかを考えます。その次に、どういう仕組みを作れば、みんながより豊かになることができるかを考えます。経済学の考え方を人びとに理解してもらえれば、よりよい仕組みを導入することにも同意してもらえるようになると思っています。
最近取り組んでいる「行動経済学」というのは、経済学の考え方を理解してもらう上でとても有効だと思っています。行動経済学を学べば、多くの人は「合理的な選択肢」を知らないので、直感的に行動して結果的にはより貧しくなってしまうということがよくあるのだと、わかるからです。
経済学の考え方を知り、「合理的な選択肢」を身につければより良くなれる可能性があります。伝統的な経済学では、みんな賢いからおのずと合理的判断をするに違いないと言われてきました。ところが実際は「みんな間違いやすい」のです。もちろんそれを知った上であえてその道を選ぶ人は、自由だと思います。けれども知っていたらこちらを選ばずに違う選択肢を選んでいただろうという人がいたとしたら、その人たちのために伝えることができたら、私たちが経済学を研究していることに意味があると思います。
(聞き手:沖中幸太郎)
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