ソフトバンクに入る。北尾吉孝氏との出会い
――イリノイ大学を卒業後は。
朝倉智也氏: 2年間の大学院では、1年間勉強した後の3ヶ月間の夏休みの間に、卒業に向けて就職先を見つけるための「サマージョブ」をする人が多くいます。僕も、ある程度照準を決めて、将来の仕事を見つけるという意味で、いくつか「サマージョブ」の面接を受けたのですが、なかなか難しかったですね。本当はニューヨークとかボストン等にある金融系の会社で働きたかったのですが、「サマージョブ」は狭き門でした。そんなある日、働く場所は日本だが、株式アナリストとして「もし関心があるなら、ウォーバーグ証券にこい」と誘われ、卒業後に、その会社に入るかどうかは別にして、その3カ月間で給料もある程度稼げるし、勉強もできるということで、東京に戻ってきました。それが1994年の夏です。そのアナリストというのは、今も金融業界で活躍しているイェスパー・コール氏です。
彼から「ちょっと俺は時間がないから、これから店頭公開する会社の説明会に、お前、行ってこい」と言われたのですが、その会社がソフトバンクでした。ソフトバンクの孫正義社長のプレゼンにすっかり惹かれてしまい(笑)、「この会社はすごいな」と思いました。その時、孫さんは自分の会社の宣伝以上に、「これから、シスコという会社がすごく伸びるから、皆さん、覚えておいてください」と言っていたのですが、実際にそれから、シスコがネットワーク機器の事業で、業績を大きく伸ばしていきました。その時から孫さんは、「これからのパソコンは、単品として機能するのではなくて、ネットワークとして繋がって機能していく」と、インターネットの世界を既に察知していたわけですね。
――強烈に惹かれる事となったソフトバンクへはどのようにして入られたのですか。
朝倉智也氏: その時の孫さんの話に惹かれ、彼に直接手紙を出しました。「僕はこういう経歴で、今こういう勉強をしています。僕はあなたの会社に必ず貢献できると思うから、僕を入れてほしい」という志願書のようなものだったと思います(笑)。孫さんが読まれたかは分かりませんが、経営企画室の方からすぐに連絡があり、東京で面接を受けました。そして、「5月に卒業するなら、是非来て欲しい」と言って頂きました。
イリノイ大学のビジネススクールを5月に卒業して、6月1日からソフトバンクに入りましたが、今の師匠である北尾も孫さんから招聘されて、野村證券からソフトバンクの常務取締役財務経理部長になられました。恥ずかしながら、当時の僕は北尾を全然存じ上げず、「ずいぶん恐いおじさんだな」と思っていました(笑)。
それからずっと北尾の下で勉強させて頂き、今日に至っています。来年で20年になりますが、正直あっという間の20年でした。それは、日々エキサイティングかつ緊張感のある仕事をさせてもらっているからだと思います。ソフトバンク時代から、SBIグループの今日まで、グローバルな金融マーケットにおいて、様々な革命的なことを成し遂げ、多くの先進的な企業を輩出してきた、いわば平成の渋沢栄一と言っても過言ではない北尾吉孝の下で働かせて頂いたことは、本当に幸せな境遇であったと思います。
投資家が望む情報を提供するために
――現在、情報提供やアドバイスをされている本の執筆について伺います。
朝倉智也氏: 投資家に投資のセカンドオピニオンを聞かれるような存在になりたいという想いからでした。「野村證券やみずほ銀行がこう言ってるけど、朝倉さんはどう思います?」「モーニングスターさんはどう思いますか?」と言われるようになりたい。客観的な立場で情報提供をしていく、アドバイスをしていくということが大事だということで、1冊の本にまとめようと思いました。
2006年の3月16日、ちょうど僕の誕生日に『投資信託選びでいちばん知りたいこと』を出しました。おかげさまで、去年その新版も出す事ができまして、これも好評を頂いております。
当時は、「投資信託とは」という投資信託の仕組みや構造を説明する本はたくさんあったのですが、投資家には難しい内容が多かったです。車の運転でもそうですが、車のエンジンの構造がわからなくても、車の運転はできるじゃないですか。投資家にとっては、適切な資産運用と資産形成ができるかということが重要なので、極端なことを言えば、投資信託の仕組みはわからなくてもいいのです。彼らが望むのは「どうやって投資信託を選べばいいの?」ということ。それを僕は書いたのです。
――門外漢の私にも、とてもわかりやすく感じたのですが。
朝倉智也氏: 投資信託は難しいという印象があるみたいです。でも本当は個別株式を選ぶ方が難しい。例えばソニーやパナソニックに、このタイミングで本当に投資していいのかどうかと、財務諸表を見たり、アナリストレポートを見たりと、結構大変なものです。しかし投資信託というのは、銘柄の選定と投資のタイミング等をファンドマネージャーにお任せするという意味で、非常にシンプルな商品です。
今までシンプルなことを複雑に伝えてきたのが良くなかったわけであって、それをわかりやすく咀嚼して、書いてあげる、話をしてあげるということがすごく大事なのです。僕の講演を聴いてくださった方々からも「すごくわかりやすくて良かった」と言われたりもしますが、そこは僕がいつも心掛けていることなのです。その想いを汲み取ってくれたのが、本の編集者の方でした。
――どんな編集者だったのですか。
朝倉智也氏: 常盤亜由子さんという方で「朝倉さんの立場で書かれる本だから、マーケットの環境が変わっても、ずっと読まれる本に、ずっと投資家が参考にしてくれる本にしましょうね」とおっしゃってくれました。時代の変遷によって人気の投資信託は変わってきますから、例えば旬の銘柄、「このファンドがいいです」という本にすると、一過性のものとなってしまいますが、「選び方」というのは、普遍的なものです。エリエス・ブックの土井英司さんを交えて、そういった本にしようねという感じで作りました。この本作りに携わった皆さんには本当に感謝をしています。