スティーブン・キングがくれた文体のヒント
――井上先生の本は、「歯切れの良さ」を感じます。
井上寿一氏: 私が学んだのはスティーブン・キングの『小説作法』です。文庫本にもなっていますが、原著のほかに単行本と文庫はそれぞれ別の人の翻訳なのです。私にとってバイブル的存在で、三つをいつも読み比べていますが、池央耿さんの翻訳から強い影響を受けました。家に2冊、大学にも2冊おいていて、海外出張の際も、持っていくことにしています。
――どんなきっかけで、『小説作法』を手に取られたのですか。
井上寿一氏: ある時から、独りよがりではなく読者に届く文章を工夫したいと思い始めました。それで、その手の本を色々読んだ中に、野口悠紀雄さんの『「超」文章法』という本があって、巻末の参考文献リストの最初に、スティーブン・キングの『小説作法』と書いてありました。スティーブン・キングについてはホラー小説の人というくらいしか知らなくて、文章作法とは関係のない人だと思っていました。ですが、「これほど有益な示唆を詰め込んだ文章を見たことがない、読むだけで文体が大きく変わる」と書いてありました。それが凄く気になって読んだら、その通り。驚きました。
私は『小説作法』から、文章を書く3ヶ条を作りました。一つ目は、「文章は能動態で書け。」二つ目は、「長い文章は二つに分けろ。」電報のような細切れの文章にする努力をしています。三つ目は「副詞はできるだけ削れ。」‘驚くべきことに’のような副詞は文章を弱めると書いてあります。行き詰まった時は、常にこの基本に立ち返っています。またスティーブン・キングは、毎日決まった時間、規則正しい生活の中で作品を書いています。
――規則的な生活からクリエイティブなものが生まれているのですね。
井上寿一氏: 私も彼にあやかるために執筆のスタイルを真似しようと想い、原稿は朝食前くらいまで書いていますが、なかなか本のようには実行できません(笑)。それでも、以前に比べてだいぶ書けるようになりました。毎日一定の枚数はかないませんが、コンスタントに著作も書くことが出来るようになりました。
昭和の全体史をまとめる
井上寿一氏: このほど「昭和天皇実録」が、各新聞社より発表されました。全61巻もあるので、普通に紙で読んでいたら大変なことになりますが、資料的なものの電子化は本当に助かりますね。検索ができるので、調べたいキーワードを入れると、だいたい目星がついて短時間に読めます。だから、1次資料的なものは電子化されていると、凄くありがたいと思います。
――研究や執筆の上でも、大いに役立つものになりそうですね。
井上寿一氏: はい。今、書きたいテーマも「昭和」です。単に年号だけで限られた昭和というだけではなく、ある種の群像劇のような形で、天皇陛下から無名の庶民に至るまで、政治や外交、経済や文化そして社会も全部含めた昭和の全体史を書きたいと思っています。単に年表上で昭和が1926年から1989年まで続いたということだけではない、世界と同時進行的なひとまとまりの時代を含めた全体史を書きたいと思っています。その前提作業として、戦後70年を来年まとめ、それをさらに戦前とあわせて全体像となるものを、数年以内に書きたいと思っています。
(聞き手:沖中幸太郎)
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