ドラッカーの神髄を伝える
代表を務める藤屋マネジメント研究所では、企業経営に課題をかかえる中小企業を対象に、「ドラッカー活用法」を伝える塾やセミナーを各地で開催しています。「中小企業を元気にしたい」という藤屋さんに、ドラッカー活用法から著書に込めた想いまで伺ってきました。
今こそ中小企業が元気になるとき
――全国各地でセミナーを開催されています。
藤屋伸二氏: 全国主要都市で開いていますが、今では約200社の中小企業経営者の方が参加してくださっています。そこでは顧客の創造の本質「どうしたらお客さんが増えるか」を、わかりやすく伝えています。お客さんから、「これで困っている」と聞けば、その解決策を持ってくるのが、「マーケティング」。そして他社の成功した商品に一工夫してマネして商品化するのが、「イノベーション」です。この2つをしっかりやっておくことが重要なのです。
――意外とシンプルですね。
藤屋伸二氏: そう。でも、そこに気付かない人も多いのです。私自身は18年間の経営コンサルタントとして、200以上の中堅・中小企業に関わり、経験を積み重ねてきたので気づくようになりました。コンサルティングの1つ1つが生きた事例となっています。塾では、こうした経験を活かしてつくりあげた「藤屋式ドラッカー活用法の普及」ということで、同規模の会社が集まり、この生きた事例の勉強会をやっています。参加した企業の方の中には早いところで、半年くらいで売り上げが伸びたり、V字に回復したりしていきます。
40歳で独立後、大学院でさらに学びを重ねる
――独立前は、どんなお仕事をされていたのですか。
藤屋伸二氏: 私は商社で働きたくて就職したのですが、最初に配属されたのが、商社の中の金融部門でした。私にはどうも価値観が合わず、途中転職を経て40歳の時に独立しました。すでに中小企業診断士を取得していて、その後、社会保険労務士の資格も取得していたので、「この2つがあれば、なんとか食える」と思ったのです。でもそれは単なる勘違いでした。
――「勘違い」とは。
藤屋伸二氏: 資格を取得するまでは、法律知識が必要です。でもその後は、営業力が必要となります。ドラッカーいわく、例えば税理士でも、「独立すれば営業力が必要である」と。企業に入れば、営業力は会社が担ってくれますので、税理知識だけで食っていけます。これが組織の力。ところが、独立すると、知識と営業力の両方が必要なのです。今思い返せば笑い話ですが、独立当初は「あれ、お客さんって自然にできないんだな」と実感しましたね(笑)。
――独立後、大学院でさらに学ばれたのは。
藤屋伸二氏: 大学院では、仕事の役に立てるために「組織文化」を学びたいと思っていました。ところが、だんだんと「組織文化」を学ぶだけでは足りないということがわかってきました。それで、もっと体系的に学べるものはないかと、真剣にテーマを探し出しました。大学院1年の10月くらいだったと思いますが、書店で何気なく手に取った本のまえがきに、大銀行の会長が、「マネジメントの本を1冊だけ読むんだったら、これを読め」と薦めていたのが、ドラッカーの『現代の経営(上・下)』だったのです。
――それが、ドラッカーとの出会いだったのですね。
藤屋伸二氏: はい。『現代の経営(上・下)』は、読むと面白いのですが、その時は部分的にしかわからない。しかし、それを繰り返し読んでいくと、少しずつ全体像が見えてきて、理解が深まっていきました。診断士や労務士レベルの知識では、100人を超えるような会社の社長の経験には及ばないのですが、ドラッカーを40回、50回と読んでいると、「この会社には、どうやって適用できるのかな」という風に、ドラッカーの理論に沿った戦略や計画を立てるようになり、クライアントもこちらの言っていることを、認めてくださるようになりました。ドラッカーで根と幹ができて、他に読んだ色々な本で枝葉をつける。私の場合は、ドラッカーの経営の体系が頭に入っていますので、何かオファーがあった時に、打ち合わせをする段階で、何が問題なのか、その解決策は何かが瞬時にわかります。
読み込むことで見えてくる「ドラッカー」の深さ
――さらにご自身もドラッカーを「本」にまとめることになったのは。
藤屋伸二氏: 大学院でドラッカーをテーマに据えてから、100回くらい読み込んで自分なりにまとめていました。それを聞きつけた出版経験もある知人が「ドラッカーを、100回も読んだら一冊の本になるよ」という話になり、出版に至りました。2冊目の『図解で学ぶ ドラッカー入門』や2009年11月のドラッカー生誕100年に合わせて出版した『図解で学ぶ ドラッカー戦略』の後に“もしドラブーム”が起こりました。
コンサルをやる以上は、経営者の方に色々とアドバイスをしなければなりません。その時に、戦略、組織、経営計画、モチベーション、評価制度、それぞれ別々の筆者の観点で書かれている本はあるのですが、まとまった本がなかったのです。でもドラッカーの本は違っていました。まとまっていたし、1回、2回、3回と読んでいくと、螺旋階段を上がるように、自分の能力も上がってきて、さらに階段を上がって読むと、また違う景色が見えてくる。そういうところが、ドラッカーの深さだと思います。だから、コンサルに入るお客様、企業のテーマごとに、こちらの意識も違ってくるので、毎回読んでも、見るところ、入ってくるところが全然違います。
価値ある1冊を読み込んでほしい
――どのようにして読み込まれていったのでしょうか。
藤屋伸二氏: 毎回、読むたびに新しい本を用意して書き込みながら読んでいます。そのため、棚にも同じ本が何冊かあります。毎回、読むたびに得るものが違います。書き込みのある本をそのまま読むと、以前の書き込みや線に引っ張られてしまうので、都度新しいもので読んでいるのです。
――何度も、深く読み進めていくのですね。
藤屋伸二氏: 私にとって、仕事の上での読書は「何かに活かすもの」です。勉強目的だと「ためになった」で終わります。読んで感じたことを、「自分の仕事にどう置き換えるか」ここが大事。年間100冊読むというと、100冊読むこと自体が目的となってしまうこともあります。
『コトラーのマーケティング・マネジメント』などは、数百ページに及ぶ分厚さですが、こういったものを何度も時間をかけ読むことが大切だと思います。若い人や勉強している人には、「100冊の本を1回ずつ読むよりも、1冊の本を100回読みましょう」と言っています。
――どんな想いで書かれていますか。
藤屋伸二氏: 私が対象と考えている経営者には、時間があまりありません。だから「必要なものだけを、わかりやすく」ということを、自分のキャッチコピーにしていています。もしリーダーシップを題材にした本であれば、それに必要なものだけを書きます。あれもこれもと入れると、わかりにくくなります。そこで必要とされるのが編集者の力。こちらは書くプロですが、編集者は「読ませるために、どうするか」という部分のプロだと思うのです。だからその両者のコラボが必要だと思います。
――そこが編集者の役割だと。
藤屋伸二氏: 本が売れるのが商品力で、これは筆者と編集者が作ります。本をどう売るかという販売力が出版社なのです。編集者や出版社には、ある程度、顧客が見えているので、こちらが提供した素材を顧客に向けてアレンジしてくれる。そういう三者の関係が成り立っていると私は思います。それは電子書籍でも同様です。「誰に、何を、どのように伝えたいのか」、この三つを届ける側である私たちの共通認識はとても重要なことです。
事例の積み重ねで、新たな発見を
藤屋伸二氏: 私の本には、 「いい仕事をするために、業績を伸ばすために、ドラッカーを活用してください」という“ドラッカー活用法”が書かれています。翻訳家の上田惇生さんは、見事な翻訳でドラッカーを日本に導入してくれました。その導入されたドラッカーを、「学問としてだけではなく、仕事に活かしてください」と伝えることが、私の仕事だと思っています。
――新たに『ドラッカーの黒字戦略』(CCCメディアハウス)も出ました。
藤屋伸二氏: 12月の11日に発売されたばかりです。『ドラッカーの黒字戦略』(CCCメディアハウス)では、これまでになかった“事業の黒字化”をテーマに書きました。<ニッチ×創造的模倣×連携>がキーワードです。ヒト・モノ・カネ・時間・ノウハウ・情報が不足する企業にもできる、200社以上で実証ずみのドラッカー活用法です。これからも、こういった事例を積み重ねた本を届けていきたいと思います。
ドラッカーは「70歳代の時が、一番生産的な10年間であった」と、あるインタビューで答えています。積み重ねてきた経験を、一番うまく組み立てることができたのが、70歳だったのかなと。私も、58歳で経験が重なってきています。また、ドラッカーという基礎知識を、今も繰り返しやっています。次の60歳代の10年間は、これまでよりももっと面白いだろうと期待しています。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 藤屋伸二 』