坂村健

Profile

1951年東京生まれ。 1984年からオープンなコンピュータアーキテクチャTRONを構築。TRONは携帯電話の電波制御をはじめとして家電製品、オーディオ機器、デジタルカメラ、FAX、車のエンジン制御、ロケット、宇宙機の制御など世界中で多く使われている。現在、いつでも、どこでも、誰もが情報を扱えるユビキタス・ネットワーキング社会実現のための研究を推進している。 日本学術会議会員。2002年総務大臣賞受賞、2003年紫綬褒章、2006年日本学士院賞受賞。著書に『ユビキタスとは何か』、『変われる国、日本へ』、『不完全な時代』、『毛沢東の赤ワイン』など多数。

Book Information

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枠組みにとらわれず、発想を変えること


――様々な変化に対する未来予測を、多くの本に記されてきました。


坂村健氏: 技術が変われば、あらゆるものが変わっていきます。でも人間は変われたからこそ、生き延びることができたではないかと思うのです。黙っていても、地球はどんどん変わっていきます。厳しく言えば、人間が地球を変えたという話もありますが、この瞬間にも宇宙も地球も動いている。気候の変動に対しても、生きていけるだけの知恵を出さない限り、人間は滅びてしまいます。自然の力はすごいということに関しては、最近、日本人は嫌というほど再確認をしていますよね。恐竜が滅んだのも、人工的なものではなく、おそらく宇宙から飛んできたものや、自然が原因だった。だから、そういうものに適応できるということが重要なのです。

本に関しても同じです。確かに紙の本にはノスタルジアもあると思うし、そういうものが好きだという人はいるかもしれないけど、オーディオもアナログからデジタルへという流れになりましたよね。資源という面においても、今の調子で木を切っていけば、結局は人間がお陀仏になってしまう。

特に高齢者は字を拡大できたり、いつでもどこでも読めるとか、やっぱり電子書籍の方が便利だったりする部分もあると思います。私も、雑誌を読むのはあれば電子ブックだし、電子化されてないものがあれば、ほとんど自分で自炊して入れています。世界中に行く時に、紙の本だったら、それだけでトランクがいっぱいになってしまいます。だけど電子だったら、100万冊だって持っていけますよね。

――一側面だけでは見えてこない、いろいろな可能性がありますね。


坂村健氏: 音を出したり、メディア変換するといったように、目の不自由な方に対するアクセシビリティも上がっていますよね。だから電子ブックの可能性は大きいと私は思っています。それにはやはり新たな業種の参入ではないでしょうか。また、それと同じくらい大切なのは、本に携わるすべての人に目を向けること。本は著者だけではなく、編集者と校正者、デザイナーによって出来上がります。紙であれ電子であれ、彼らがいなければ、みっともないものになってしまいます。

今、日本では電子化の流れが中途半端ですね。それは否定的に捉えられる面もありますが、日本の書店の数、印刷技術の素晴らしさの結果とも言えます。まだ紙の本に対して未練がある。過渡期にどうつなげていくか、書店の役割も重要だと思います。



人類社会を支える基盤作りを


――新技術は、モノだけでなく「東京ユビキタス計画・銀座」のように生活に根ざしたあらゆる場面に応用されています。


坂村健氏: 「誰もが安心してまち歩きを楽しむことができるユニバーサルデザインのまちづくりを目指す」ということで、すでに5000個ぐらいのコンピュータ付き電子マーカが、銀座の道路など、あちこちに埋め込まれています。あと、箱にも電子マーカを付けて物流の管理に使うとか。道路の中に埋め込まれているコンピュータを白杖で叩くと、今、自分がどこにいるというのが音で聞こえてくるようなシステムの実験なども、たくさんやっています。あと火災報知器などにもコンピュータを付けて、いつ誰が付けたかとか、どこのメーカーのものなのかというのがわかる。将来は、牛肉のパッケージや大根など、食品にまでコンピュータが付けば、クラウドに送ってやると、製品に欠陥があった時はすぐわかります。こういうことができるようになる。

――今まで出来なかった事が、「TRON」によってどんどん出来るような未来に。


坂村健氏: 全く何もないところから作り上げるのは、楽しいものです。産業とか、もっと大げさに言えばこれからの人類社会を支えるそういう基盤、インフラを作るというのが、「TRON」の役目の一つだと思っています。この三十年間を検証して、オープンアーキテクチャーの重要性、オープンデーターの重要性を再確認しました。私の職務である、「人を育てる」ということも、もっとやっていきたい。未来を切り開いていけるような人を育てたいと思っています。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 坂村健

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