鳥が本を運んできてくれた
浅見ベートーベン氏: 本を最初に出すことになったのは二十代も終わりの頃です。『野鳥の観察』(浅見明博名で出版)を保育社から、カラーブックスで出したのですが、15万部ぐらいでしょうか、多くの方に読んで頂きました。私が当初出版社に持ち込んだのは、「相撲」と「ナイフ」に関するものでした。どれも売れないと断られ、残ったネタの中に野鳥に関するものがありました。持ち込んだその晩に、編集者から「鳥の本を書きますか?」と電話がかかって決まりました。
――こちらにも鳥の本をご用意頂いています。音がでますね。
浅見ベートーベン氏: これはアメリカのものですが、鳥の鳴き声も入っています。私が撮った、隼が突っ込むところの写真も載っています。こういう写真を撮るために、朝6、7時~午後5時ぐらいまで座っていることもあります。急降下の速度は300㎞超えるといわれていますので、それにあわせて重たい望遠レンズを振るのは、結構大変ですよ。
――このほど、Kindleで24冊目と25冊目となるBirds of Mt. Fuji『新富士の鳥』が発売されました。
浅見ベートーベン氏: KindleのAnimals部門で第一位にランクされました。世界中の人に届くのは、とても嬉しいことです。鳥の話ばかりしてしまいましたが(笑)、実はそこから英語の本に結びつくのです。富士の五合目に奥庭荘というところがあって、ある時、そこで鳥を見ていたら、横に堀越さんという講談社の編集の方がいらっしゃいました。彼も鳥好きで、ビジネス英語の本についての不満を述べていたら、自分が書くことになりました。そうしてできた『場面別・ビジネスの英語 すぐ使える用例1000』もおかげさまで好評でした。そこから色んな英語教育の本を書くようになったんです。
――『ビジネスパーソンのための英語イディオム辞典』は、特に浅見さんの経験が詰まっているものになっていると思います。
浅見ベートーベン氏: 外資系で勤務した、30年間の現場の経験を詰め込んだものになりました。書くのにも4年かかりましたよ。例文が多ければ多いほど辞書としては使えるので、かなりの厚さとなりましたが、それでもずいぶん編集の人に削られました。辞書コーナーが広くない書店さんもあるので、これぐらいが限界かなと。今は、CASIOの電子辞書としても出ています。発音も確認できますし、便利ですね。私の職場は43畳あるのですが、高さ6mで、「本が落ちてきたら、あなた、死ぬわよ」と女房に言われています(笑)。野鳥関係の本や辞書だと一冊5㎏ぐらいのものもあるんです。危ないですよね。
執筆を支えるこだわりの文具たち
――文具に対するこだわりも強いとか。
浅見ベートーベン氏: 電子媒体は五台持っていて、電子辞書も同時通訳の人がやるようにずらーっと並べて使っています。日々の原稿は「ポメラ」というデジタルメモを使っていて、そこに日々の思ったことなどを打ち込んで、後でワープロに入れるのです。「閉じてパタン」の2秒で、セーブしてくれるので便利ですよ。今、世の中で一番書きやすいと思っているのが、「パーカーの5th ジェネレーションインジェニュイティ」です。私は色々なところから情報を集めるために、毎日A4で約20ページ書くのですが、これだと全然手が痛くなりません。
“Shoot anywhere you want and call it a target.”
――一冊の本には、様々な工夫が隠れていたのですね。
浅見ベートーベン氏: 他の本より必ず+α、何かいいことがある本にしたいという想いで書いています。余談ですが、この“+α”も実は間違った英語で、もとは未知数である+Xからきています。特にこういった英語教育の本になると、色々な情報をまとめただけ、という形になりがちですが、自分自身の経験や思いを入れない限り、届く本にはなりません。自分が実際に困ったりしたことなど、失敗談や経験を盛り込んで初めて、“ユニーク”さが生まれます。ビートルズのカバーをやっていても、ビートルズを超えることはありません。オリジナルなもので、読者がハラオチするもの。筑波大学で教えていても、「伝える」「届ける」ことについて、いろいろな課題が見えてきました。どんなに言うことが立派でも、学生が気持ちよく理解しなければダメです。
――間違い探しではなく、いかにモチベーションを上げるかが大事なのですね。
浅見ベートーベン氏: そうしてこれからの社会を生きる「英語」というツールをしっかり身につけてほしいと願っています。インターネットにおいては、コンテンツの75パーセントくらいは英語と言われています。日本語は4パーセントぐらい。英語のボキャブラリーがあれば、その75%に到達できるわけですよ。これだけ便利になったんだから、それを使わない手はないですよね。その得たツールを武器に、「+X」の世界へ挑戦してほしいですね。私の好きな英語の言葉に“Shoot anywhere you want and call it a target”というのがあります。「どこでもいいからぶっ放して、当たったところを的だと言え」というものです。これだと思うものをとにかくやってみて、当たればそれが的だと宣言できるわけです。自ら棚をゆすって、ボタモチを落して取らないといけません。
――浅見さんは今、どんな挑戦をされているのでしょう。
浅見ベートーベン氏: ずっとやってきた相撲に関するものを本にしたいと思っています。白鵬も32回目の優勝を果たしましたし、『白鵬の技の秘密』というものをNHKから出すことになっています。私が筑波で教えていた子の中には、中国、韓国、モンゴル、ロシア、スペイン、フランスなど色々な国の人がいますので、そういった言語でも出そうと思っています。国を代表するスポーツなのだから、色々な言語にした方がいいですよね。そうしないともったいない。そうそう、もう一つ大事な話を忘れていました(笑)。先ほどカバーしても、オリジナルを超えられないという話をしたばかりですが、島津亜矢さんは別格。誰の曲をカバーしても、彼女はうまいから、聞いていてすごく元気になります。彼女は30周年を迎えるのですが、私もファンクラブに入りました。毎日1時間ぐらい聴いていて、今はそれが活動力の源となっています。
(聞き手:沖中幸太郎)
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