想いを託して
――津田さんだから書けること、を本に記されています。
津田倫男氏: 銀行員として働き、現在はユーザーの立場にいます。その経験と視点を活かしたものを届けたいですね。私が今、主に書いている「銀行」は、特に公益の度合いが高いものです。世の中から何を求められているのか、頭取以下しっかりと認識していなくてはいけません。私は現役の銀行員や経営者との対話を欠かさないようにしていますので、今、何が起こっているかは、わかっているつもりです。「外にいるからこそ、客観的に言えること」ということもあると思います。
テーマによってそれぞれ違いますが『銀行員の分岐点』の場合は、ドラマなどの影響もあって(笑)、悪い印象ができてしまった「出向」に対して、そうではないのだということを知って欲しいという想いで書きました。『大予想 銀行再編』は、銀行経営者に向け、原点を思い出して欲しいというメッセージを込めています。
――想いを込めて、届けられています。
津田倫男氏: 最近は、書くスピードが速くなってきました。三週間ぐらいで脱稿することもあります。「良い本」の定義は様々あります。読者、編集者あるいは出版社、書き手、それぞれの想いが上手く合えば素敵なことですが、なかなか難しいものです。毎回、悩みながら書いています。面白い本を作るために、知恵を出していくということは、なにも文章を正しく書けるということだけではありません。だから、文章に出てこないものをいかに引き出すか、ということが編集者の腕の見せどころだと思います。今後、新しい分野からの出版参入も起こってくると思っています。新規参入、の場に電子書籍は最適だと思います。抜本的に業界のあり方を変えて、印税をあげてでも面白いコンテンツを書いてもらう、という発想が必要です。
時代も国も超えて伝わる「本」の魅力
――津田さんにとって、「本」とはどんな存在ですか。
津田倫男氏: 思考や思想が記録として残る素敵な媒体です。しかもそれを、自分だけではなく、他の人にも知らせることができます。最近、再読の重要性を実感しています。池波正太郎の『剣客商売』や『鬼平犯科帳』などを読み直しているのですが、「年代に応じた読み方があって、いいな」と感じました。両方とも三回ぐらい読んでいますが、今は『剣客商売』の方がしっくりきます。『鬼平犯科帳』はリーダーとか、マネージャーの心得を感じ取ることが出来ましたし、年を重ねてからは、もう少し人の痛みがわかるとか、人間の陰陽を表す金言が散りばめられています。年代に応じて、何度も読み返せる本があるといいですね。
神保町の本屋さんに行くことも多いですし、東京堂書店さんは少し変わった良い本も置いているので、私の大好きな場所の一つです。本屋通いは、ふっと見て衝動買いできるようなものを見つける楽しみがありますよね。私は良く衝動買いをしてしまいますが、これはネット検索にはない楽しみだと思います。新聞などの書評を見て、これを読もうかなと思っても、大体忘れてしまいます。それを、店頭で「あ!この本だった」と思い出して買う楽しみがあります。電車の中で、老いも若きも、これほど本を読んでいる国は、他にはありませんので、小さな本屋さんも、その店のカラーといったものを大事にしてほしいですね。
――そんな素敵な媒体の書き手として、これからどんなものを届けていきたいですか。
津田倫男氏: 実は全く違ったテーマを考えています。私はこの五十年の間に、世界七十カ国を旅行しました。その紀行を書きたいと思っています。何度も同じ場所へ赴くこともありますが、旅行を通してそこからにじみ出てくる国民性や気質といったものを、エピソードを交えて書いてみたいと思っています。紀行以外にも、現在書いている「銀行モノ」も新しい視点で書いています。毎年「新しいものを」という挑戦をこれからも続けていきたいですね。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 津田倫男 』