野口旭

Profile

1958年、北海道生まれ。 東京大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科博士課程単位取得満期退学。専修大学助教授、イェール大学客員研究員等を経て、現職。専門はマクロ経済、経済政策、国際金融。 著書に『グローバル経済を学ぶ』(筑摩書房)、『ゼロからわかる経済の基本』(講談社)、『経済学を知らないエコノミストたち』(日本評論社)、『エコノミストたちの歪んだ水晶玉』(東洋経済新報社)など。

Book Information

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世の中に役立つ経済学を



専修大学経済学部教授を務める経済学者の野口旭さん。最新刊『世界は危機を克服する: ケインズ主義2.0』(東洋経済新報社)ではリーマンショック以降の各国経済、特に経済政策やマクロ経済政策についてまとめられています。「はっきり物事を言うのが役割だ」という野口先生に、研究者へと進むことにきっかけ、“デフレ脱却”に向けての活動から、現状までハッキリバッサリ語って頂きました。

ようやく実を結んだ政策


――日本の状況に変化が訪れようとしています。


野口旭氏: 言い方は悪いかもしれませんが、民主党の時は絶望的な状態でした(笑)。でも安倍政権では、私がお世話になっている浜田宏一先生がアドバイザーになって、特に金融政策に関しては、我々が十年間ずっと言い続けていた政策が行われています。これでデフレ脱却がようやく実現されそうです。消費税が一番気がかりでしたが、今回延期されたので、それも良かったですね。この二年間は、我々が描いていたシナリオ通りに進んでいるので、自分でも驚いているところです。これまでせき止められていたものが、ようやくスムーズになってきたように感じています。もちろん私だけではなく、仲間であり同志である、いわゆるリフレ派と言われる人たちが、色々な場で発言、発信しそれを支持してくれた皆様のおかげです。

マクロ経済政策というのは、実現されないと意味がありません。つまり、有権者がそれを実現させそうな政治家を選ばないといけないのです。だから有権者に対して、「こういう政策を」と説明し、納得してもらう必要があるのです。それを十年間続けてきました。最初は“インフレ政策”という言い方をされたりもしましたが、デフレというのがそもそも異常なので、それを是正しない限り、何をやっても無駄だということがだいぶ浸透して、今の結果へとつながったと思っています。我々がやってきた活動が無駄にならなくて、ほっとしています。

――ハッキリ、バッサリの野口先生ですが。


野口旭氏: やっぱり、なんでもハッキリ言って「おかしいじゃないか」と思うことが、私の原点だという気がするのです。我々は、失われた20年を見てきたわけですが、「もう少し日銀や財務省が、自分のことばかり考えないでやれば、全然違うのに」と思い続けてきました。でも役所は役所のロジックで動いているから、なかなか変わることができないわけです。そういう腹立たしい思い。そういったものが一番のコアとなっています。



父と本棚とジャズに影響を受けて


――経済という側面から、世の中を変えることに関心を持ったのは。


野口旭氏: 私は小学校三年まで北海道にいました。その後、東京に引っ越してきてからはずっとこちらにいます。父は、私がちょうど大学に入職した年に白血病で死んでしまいましたが、北海道新聞でずっと新聞記者をやっていました。外報部でベトナムにいたこともありました。今から考えてみると、私が社会科学系の分野に関心があったのは、家庭環境も大きかったのかなと思います。父は記事を書くために、色々な本を集めていました。そういった本を読んだりしていたことも、今につながっているのかもしれませんね。

――親父の本棚を見て育った。


野口旭氏: そうですね、背中というよりは本棚かな(笑)。高校は小泉元首相の出身校でもある横須賀高校。神奈川県でジャズクラブがある高校は三つだけで、そのうちの一つでした。一年生の時に、学園祭で先輩たちが“ジャズ”という、それまで全く聴いたこともない音楽をやっていたのです。「これは何だ?」と衝撃を受けて、どうしてもやりたいなと。それでジャズクラブに入ることにしたのです。高校時代は音楽に夢中になっていたので、一浪して東大に進みました。

最初は社会学などをやりたいと考えていたのですが、父から「そういう、あやふやな学問はやめろ」と言われて(笑)、文Ⅱで経済に進みましたが、大学でもジャズ研に入っていましたよ。今もウチの大学の顧問をやっています。途中、音楽をやっていない時期もありましたが、ここ4、5年のジャズの世界を見てみると、私と同じくらいの年齢の人ばかり(笑)。会社を辞めたおじさんたちが、色々なところで集まっているので、そういう人たちとの交流も多くなりました。今は、そういったお店もたくさんあります。

話を戻して学部時代。最初の頃は大学院を目指しておらず、今でいうモラトリアムという感じで「なんとか会社勤めを避ける道はないか」と考えていました。当時は大学院に進む学生はあまり多くなく、東大の経済の場合、一学年で十人くらいだったでしょうか。今はもっと多いと聞きますが……当時、頭の良い人たちは官僚になり、法学部は司法試験を受けていました。経済だと公務員試験で上級職を目指します。自分の性格だと向いていないかなと思っていましたね。

――国際経済の道へ進むことになったのは。


野口旭氏: リカードの『経済学および課税の原理』に比較優位の話が出ていて、それを読んだことが一つのきっかけとなりました。もう200年近く昔の本なのですが、論理がクリアで筋が通っているのです。経済学者の本は、何を言っているのかわからないものや、筋はあるけれどすごく難しくて読みにくいものがある中で、非常に明晰な論理に貫かれていました。時代背景などはよくわからないけれど、内容は理解できる。それで貿易論を専門的にやりたいと思うようになったのです。

88年にこちらの大学にきて、もう27年ですか。国際経済論や貿易論、一年生向けには現代経済入門という講義を担当しています。自分の研究は最近、国際経済から国内の経済政策、マクロ経済政策にシフトしていますね。

著書一覧『 野口旭

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