岡田正彦

Profile

1946年、京都府に生まれ。新潟大学医学部卒業。1990年より同大学医学部教授。 専門は予防医学、医療統計学で、病気を予防するための診療をおこないながら、日本人におけるがんや血管障害などの危険因子を探る調査にも取り組んでいる。 1981年新潟日報文化賞、2001年臨床病理学研究振興基金「小酒井望賞」 受賞。 著書に『信じてはいけない医者 飲んではいけない薬 やってはいけない健康法 医療と健康の常識はウソだらけ』(カンゼン)、『死ぬときに後悔しない 医者とクスリの選び方』(アスコム)、『がん検診の大罪』(新潮社)など多数。

Book Information

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活字に触れることの重要性



岡田正彦氏: 私は、本を書くとき、その性質上統計データを良く用いるのですが、これは昨今の電子媒体と非常に親和性が高いと思っています。医学論文はすでに電子化されていますね。会員でないと読めない有料サイトもあれば無料で誰でも読めるサイトもあります。電子化されてから、研究のアプローチもずいぶん便利になりました。以前は図書館に行って朝から晩までページをめくって、それでも落ちが沢山あって……。自分で書いた論文を外国の出版社に出す時は、巻末に引用論文のリストを出さないといけないのですが、そのリストに結構クレームがつきました。お前は探し方が足りないだとか、もっといい研究があるのに、どうして知らないんだと言われちゃうんです。でも、それは不可能なんです。昔も今も雑誌の数は膨大ですから。今はキーワードで探せ、網羅的に読めるようになりましたから、そういう事はなくなってきましたね。

――電子化による恩恵は大きい、と。


岡田正彦氏: ただ危惧していることもあります。世界中の新聞社がいま、営業を縮小したり廃業しています。アメリカのある町で、新聞社が無くなった直後に役人の汚職が急増したという話があります。「そんな事をすると新聞沙汰になる」というブレーキ役がなくなった結果を示していると思います。新聞はなくなってはいけない。電子化があまり極端になると、そこまで行くんでしょうね。

私はね、見開く紙の新聞がないと生きていけません(笑)。でも、いまの若い人はどうなんでしょう。私は電車通勤していますが、列車の中で本を読んでいる人は、私ともう一人いるかいないか。大部分はスマホでゲームをしています。マンガ本やスポーツ新聞を読む人もいなくなりました。アレを見てぞーっとしました。紙が無くなった未来を描いた『華氏451』というSF映画がありましたが、禁酒法時代のように紙の本を持っていると罰せられるのです。当局はそれを見つけると火炎放射器で焼いてしまうという(笑)。その映画の印象がすごく強くて、電子書籍と言われるとまずそのシーンが思い浮かんできます。

便利なものを享受しつつ、使い分けする。とにかく活字をもっと読んでほしいと思います。それが紙でも電子書籍でも。書いてはじめてわかった事ですが、自分が本当に言いたい事を書こうとすると、それだけ厚さがいるんだなと思うんです。学術論文しか書いていなかった頃は、せいぜい印刷で5ページほど。それだと本当に自分が発見した一つの事実しか書けない。背景や自分の気持ちは書けないし、書く事は許されていない。やはり、それなりの厚みがなければ本当の哲学は表現できないし、読むほうも是非、最初から最後まで読んでほしい。サマリーだけで終わらないでほしいと思うんです。それが本と、それ以外のメディアの圧倒的な違いだと思います。

健康と長生きを学校教育



岡田正彦氏: 文章を書いていますと、無性に人の文章が読みたくなるんです。ですから、本を書いている最中ほど、たくさん本を読みます。近頃夢中になって読んでいるのは、特に明治の終わりから昭和にかけて活躍した人たちの人となりをわかりやすく書いた本。個人が本の主役なのですが、その個人の事というより、その人が生きた時代の、その人の周囲に起こっていることが凄くわかりやすく書いてある本がたくさんあって。

我々の時代、学校で習う歴史、日本史の教科書は、明治維新ぐらいで終わっています。明治維新や江戸時代の話は、今の生活と直結しないから、小説を読んでいるようなものですが、昭和史や明治の終わりあたりの歴史って、今の社会に直結しているので、凄く興味があります。しかもその人が生きていた時代に、実はお友達だったとか、その人の子どもだとか孫だとかが生きていたりして、そういう人のインタビューを交えて書かれていると、一層真実味、親しみがわいて。その人物というより、昭和の初めに世の中でどんな事が起こっていたんだろうかっていう事が、よくわかる本が面白くて、立て続けに読んでいます。

日本銀行の創始者、安田善次郎について書かれた本では、文中に繰り返し出てきた渋沢栄一の理解が深まりました。つい最近読んだのが、この9月に亡くなりましたが、李香蘭について書かれた『李香蘭 私の半生』。中国人か日本人かわからない生活を送って、最期は女優として亡くなった。その半生を藤原作弥さんというジャーナリストが書いた本です。この人を通して満州国や昭和初期の時代がよく見えてきます。また『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』。昭和初期の武闘家たちが世界に行って、本当に大変な思いをして日本の武道を広めた事が分かって、これも凄く面白かったです。日本のスポーツがいかに世界の中で大きな意義を持っていたかがよくわかりましたね。

――本を通して、色々なものが感じられ、また情報が統合されていきますね。


岡田正彦氏: 歴史って西暦を覚える事ばかり学校で強要されてきましたが、人間の生きざまですよね。本は、こういう人間がいる、いたんだという事を世の中に伝えたり、後世に残す唯一の手段だと思います。国会図書館では、つまらないと思うどんな本でも(笑)必ず保管してくれているのは凄く安心しますね。そうやって後世に残してほしいし、やはり、読んでほしいですね。活字離れをどう食い止めたらいいのか、書き手の一人として真剣に考えています。特に大学で若い学生に教えていたものですから、本当にそう思いました。ニュースはちゃんと知っているんですよ、スマホ経由、パソコン経由で。でも、深さが足りないですよね、哲学まで伝わっていないから。だから人間の哲学、生き様を伝える本を、是非読んでほしいし、本をなくさないでほしいと思います。

――その本を通じて、これからどのようなことを発信されるのでしょうか。


岡田正彦氏: 私の研究テーマに限って言えば、商業ベースに乗ってしまった過剰医療の問題が気になっています。そういう事実を、特に専門家の人に知ってほしい。そうして、その過剰な医療を避けて、本当に健康で長生きするために何をすればいいのかを理解してほしい。多くの人は、中年になって体調が悪くなってから気付きます。でも、本当を言えば、子供時代に、将来の病気はほぼ決まる事が調査で分かっているのです。ですから、本当に健康で長生きをするためにどういう生活をすればいいのか、しちゃいけない事はなんなのかを、学校教育の中で取り上げてほしいですね。なぜなら、若い人はこういう本を読まないですよね。興味を持って読むのは、40代50代以上でしょう。それからでも遅くはないですが……。出来れば、小学校教育で、「お金と金融」、「政治」などど一緒に「健康」についてもぜひ取り上げてほしいですね。これを取り入れると日本人は大きく変わると思うし、そうしなくちゃいけないと思います。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 岡田正彦

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