我らアーカイバー
行政書士として企業の経営をサポートする一方、家系図作成業務にも力を入れている丸山学さん。家系図を作るという作業は“1000年をたどる”という気の長い作業ですが、その分大きな喜びもあります。「世の中に散らばっている、人々の先祖の記録や物語を、検索可能なデーターベースとして作り上げたい」という丸山さん。家系図作成に至るまでのエピソードを伺ってきました。
紙相撲の運営から始まった“記録グセ”
――(丸山さんの事務所にて)たくさんの資料がありますね。
丸山学氏: ここにあるのは、寛政年間に江戸幕府がまとめた『寛政重修諸家譜』です。各藩、各大名家が家臣に家系図を提出させたり、由緒書きのようなものを提出させたりして出来上がったのだそうです。何百年も前のことが分かるのは本当に不思議で面白いですよ。こちらは人別帳というもので、村ごとに全世帯の名前と年齢が書いてあります。現在の戸籍のようなもので、毎年作成されていました。こちらの検地帳のようなものには、人の名前と村の中で持っている田畑を一つずつ書きだされています。こういった資料は、どこにあるかもわからないもので、時には個人宅の蔵から出てくることもあります。家系図はこういう過去からの記録を探し求めてやっていく世界です。記録を探すためには、地域の人や色々な人の協力が必要となります。色々なところに、先祖探しのための手紙を書いたりもします。昔から記録を取るのが好きな、少し変わった子どもでしたが今の仕事に生きているなと、実感しています(笑)。
――どんな記録を取っていたんですか。
丸山学氏: 小学校の高学年のころは、“紙相撲の運営”をやっていました。紙相撲の力士を自分で作って、番付や取組表も作るのですが、ちゃんと十五日間の取組をやるわけです。それがすごく楽しかったのを覚えています。単純に相撲に興味を持ったということもありますが、記録が好きなのです。野球も好きですが「ここで打たれると、防御率が何点変わるかな」とか(笑)。
試合そのものよりも、“記録”に目がいってしまって……記録グセがついてしまったんですね。相撲に関しては次第に、その歴史を調べたくなって、江戸時代の力士の番付や取組表が書かれている記録を読むようになりました。マニアックすぎて誰も一緒に遊んでくれませんでしたよ(笑)。そんな記録グセが今に繋がっています。
独自性と蓄積の強みを活かして
丸山学氏: 長らく経理の仕事をしていましたが、「独立して自分でやりたい」という思いはずっと持っていたので、行政書士の資格を取得し開業しました。その際 “自分独自の何か”を作っていきたいと考えていました。他と違うものを生み出せていれば、ずっと走っていられると思ったからです。Paypalの創業者ピーター・ティールの『ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか』という本を読みましたが、共感する部分が多かったですね。ビジネスにおいては、他と同じことをやっていると価格競争になってしまって、存続できなくなってしまう。差別化された新しいものを、自分で生み出していかなければならない、という話です。
私の場合、それは「家系図の作成」でした。古い記録や資料を集めて記録する、自分の記録グセが生かされる仕事でした。また 記録には“蓄積の強み”があります。蓄積の強みが出るものでなければ、本当の意味での差別化は難しいと思います。
――開業時の丸山さんのご経験は『行政書士になって年収1000万円稼ぐ法』にまとめられていますね。
丸山学氏: もともと行政書士の業務について、メールマガジンで発信していたのですが、それを読んでくれた編集者から実務書執筆のご依頼をいただいたのが最初ですね。行政書士になりたてで、経験も少なかったので “開業奮闘記”という形でまとめました。好評を頂きその後、様々な出版社からお話をいただくようになりました。その後、読み手だけでなくこうして書き手にもなってみて、ますます記録媒体として素晴らしい本の魅力を感じています。
――こちらの本は。
丸山学氏: これは、谷崎潤一郎の『春琴抄』です。ある種、特異な世界が描かれています。不思議な世界が描かれているのですが、論理的な思考だけでは理解できないものを、自分の中に持っておけるのが小説の楽しみだと思っています。ビジネスの基本は、ロジカルシンキングとよく言われますが、その対極にあるものの一つが小説なのかなと。「どのようにして、違いを生み出せるのか」という部分に関しては、本などから得るものが多いですね。僕にとって本は、何かを調べる時の軸足のような感じです。本を読んで、またそこから「次は、こういうことを調べたら、もっとわかるんじゃないか」という風に広がっていきます。